楓餅(一月のお題「餅」サンプルSS) 投稿者:AIAUS 投稿日:1月1日(月)17時47分
 はふ、はふ、はふ……。
「正月と言えば、やっぱりオモチだよなあ」
 正月に柏木家へ遊びに来た俺は、居間の炬燵で丸くなりながら、焼きたてのモチをせっせと頬張っていた。
「あんまりバカ食いすんなよ。あたし達が食べる分がなくなるじゃないか」
 焼いたモチを乗せた皿を持ってきながら、梓がいつもの憎まれ口を叩く。
「大丈夫だよ、梓お姉ちゃん。まだ、こんなにあるんだから」
 俺と同じく炬燵に入ってオモチを食べている初音ちゃんが、つきたてのモチが詰まった箱を指差して俺を
フォローしてくれた。
「甘いよ、初音。こいつの胃袋は底なしなんだから。運動もしないのに、よくあんなに食べれるもんだ」
「こら、梓。耕一さんに失礼なことばかり言うんじゃありません」
 俺にからもうとする梓を注意しながら、千鶴さんも焼きたてのモチをたくさん持ってきた。
「こうして、みんなで一緒に炬燵を囲んでオモチを食べられるなんて、幸せですね」
「本当に。俺も、そう思いますよ」
 しみじみと語る、俺と千鶴さん。
 俺に食いすぎを注意した梓は、横で人のことを言えない速度でバクバクとモチを食べている。
「おい、梓。あんまりバカ食いするなよ。太っちまうぜ」
「いいんだよ、成長期なんだから。それに、あたしより楓の方が食べるの速いよ」
 梓に言われて横を見ると、確かに、楓ちゃんの目の前にあったはずのモチは姿を消していた。
 ……十個以上あったはずなんだが。
「……あまり、見ないでください。恥ずかしいから」
 ……あいかわらず謎だ。いつの間に食べたんだろう?

 ある程度モチを食べて満足した俺は、みんなが食べる様子を観察することにした。
 千鶴さんはモチに海苔を巻いて、醤油をつけて食べるという辛口タイプ。
 梓はそのまま、何もつけないで食べている。口ではあんなことを言いながら、意外にカロリーを気にして
いるのかもしれない。
 初音ちゃんはキナコをつけてオモチの熱さに悪戦苦闘しながら、小さな口を一生懸命動かしている。
 楓ちゃんは……謎だ。どうやって食べているのだろうか?
 さっきからじっと楓ちゃんを観察しているけれど、どうしても楓ちゃんが口にオモチを運んでいるところを
見ることができない。
「えっと……?」
「………」
 楓ちゃんは俺が何か質問しようとする前に、フイと立ち上がって、自分の部屋へと姿を消そうとする。

「待ってくれ、楓ちゃん」

 俺は何の気なしに楓ちゃんの履いているジャージのズボンをつかんだのだが……。

 ズルッ……ドテ。
 俺にいきなりつかまれた楓ちゃんのズボンはずり下がり、それに足を取られた楓ちゃんは横倒しに倒れた。
そこに見えたものは……

「かっ、鏡餅!?」

のように見える、楓ちゃんの真っ白なお尻だったわけで……。
「………」
 楓ちゃんは真っ赤になってお尻を手で隠し、俺に見えないように体勢を入れ替えた。
 千鶴さんと梓はモチをくわえたまま、呆気に取られている。
「………………見ました?」
「みっ、見てない、見てないっ! ごっ、ごめんよ、楓ちゃん。別にそんなつもりじゃ……」
「そっ、そうだよ、楓お姉ちゃん」
 おおっ、初音ちゃん、君はまた俺をフォローしてくれるのか。ありがとうっ!

「そっ、それにヘアぐらい、耕一お兄ちゃんも見慣れているよ。お部屋にもそういう本、
たくさんあったし」
 ……………………ヘア?
 ウルトラマンの掛け声ですか?
「…………」
「耕一さんっ!!!」
「こういちぃぃぃぃ!!!」
 真っ赤になって仰向けに倒れる楓ちゃん。そして、角を生やさんばかりに激怒している鬼姉妹。
 俺は自分に降りかかるであろう悲劇を予想して、目を閉じた。

 神様、新年早々おねがいがあります。
 どうか、先ほどの楓餅の光景を、俺が苦痛のために忘れないように。
 
(罰当たりとは、この男のためにある言葉であると言えよう)

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 おまけ

「あっ、梓!?」
「……なにやってんだよ、千鶴姉。こんな真夜中に」
「調子に乗って飲みすぎちゃって……わかるでしょ、お手洗いよ」
「どこの世界に、枕を持ってトイレに行く奴がいるんだよ」
「……この枕、黄色いからミカンに見えないかしら。三段重ねの鏡餅」
「無理だろ、しなびてるし」
「梓ぁあああああ!!!」
「亀姉ぇええええええ!!!」 

 これが二人の、初姉妹喧嘩であった。

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