こたつの中(12月のお題「こたつ」サンプルSS) 投稿者:AIAUS 投稿日:12月1日(金)23時19分
 炬燵の季節。
 冬コミの原稿を終えた和樹は、手伝ってくれた瑞希と一緒に、炬燵に入ってのんびり
としていた。
「瑞希。そこのミカン、取ってくれ」
「はい。漫画を描いている時は、ミカン食べれないもんね」
「汁が飛んじゃうからな。ほら、瑞希」
 和樹はミカンを剥くと、房の一つを瑞希の口に放り込んだ。
「甘いね、これ」
「どうやら当たりみたいだな。安心して食べることにしよう」
「あー、人で実験したわね、和樹!?」
「次も頼むぞ」
 そんな風にじゃれ合いながら、ゆっくりと冬の寒さを楽しんでいた二人に声をかける
者がいた。

「話は聞かせてもろうたで」

「えっ、由宇の声?」
 驚いて部屋の中を見回すが、どこにも彼女の姿はない。
「ここや、ここ」
 そう言いながら、由宇はひょっこりと炬燵の中から顔を出す。
「いつの間に入り込んだのよ?」
 久しぶりの二人っきりの時間を邪魔されたせいなのか、瑞希の声には若干怒りが含まれていた。
「ホンマはもう少し後で出るつもりやったんやけど、聞き捨てならんことを聞いてしもてなあ」
「なっ、何がよ」
 由宇の剣幕に、瑞希は狼狽した。

「汁が飛ぶ、とはなんやねん! いやらしいで、瑞希はんっ!」

「大きな声で、変なこと言わないでよっ!」
 バコンッ!
「ドヒーっ!」
 テニスラケットで由宇が天高く打ち飛ばされたのを見届けると、瑞希は窓を閉めた。

「まったく・・・なんで、和樹の友達って、あんな人ばっかりなのよ」
「由宇と大志は特別ヘンだが、他の連中はそうでもないだろ」
「・・・漫画描き始めてから、感覚ずれてきたんじゃないの?」
「そうかなあ?」
「別に、私は和樹がヘンでもかまわないけど。あんまり、濃くならないでね」
「濃いのは嫌だな、確かに」


「ふみゅーん!」

「えっ、詠美の声?」
 驚いて部屋の中を見回すが、どこにも彼女の姿はない。
「ここよ、ここ」
 そう言いながら、詠美はひょっこりと炬燵の中から顔を出す。
「あっ、あんたまで?」
 二人目がいるとは思わなかったのか、瑞希は狼狽した。

「ポチが変態でもかまわない、なんて。暴力女って、チョーやらしー!」

 バコンッ!
「ふみゅみゅーんっ!」
 テニスラケットで詠美が天高く打ち飛ばされたのを見届けると、瑞希は窓を閉めた。

「もう、誰もいないでしょうね?」
 瑞希は炬燵の中に誰もいないことを確認すると、再び炬燵の中に入った。
「まったく・・・なんなのよ、あの子達?」
「俺に聞かれてもなあ」
 そんな感じで、二人の時間は緩やかに過ぎていった。


 翌日。
「いてて・・・」
「なに、ポチ? 椅子に座りにくそうにして」
「いっ、いや。ちょっと火傷してな」
「なんで、尻に火傷なんかしてんねん?」
 不思議そうに聞く由宇の横で、瑞希は顔を赤らめて下を向く。

「・・・どうせ、私はいやらしいわよ」

「「はあ?」」
 よくわかっていない二人を前にして、和樹も恥ずかしそうに鼻の頭を掻いていたのだった。

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 この作品は、「12月のお題:炬燵」のサンプルSSです。

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