クリスマス悩みます(12月のお題「クリスマス」サンプルSS) 投稿者:AIAUS 投稿日:12月1日(金)23時08分
 街の街路樹に、きらびやかなモールや電球が飾られるようになる季節。
 柏木耕一は悩んでいた。
「うーん・・・みんなには、何をプレゼントしたら喜んでもらえるかな」
 年の暮れ。
 柏木家に戻った耕一は、世話になっている四姉妹に渡すクリスマスプレゼントを買うため、街まで
出ていた。そして、クリスマスセールで並ぶ色々なプレゼントの山を前にして、途方に暮れていた。
 何を贈ったらいいのか、わからないのである。


 ・・・何を贈ったら喜んでもらえるか?
 わからないならわからないなりに、街を歩いてみればいい。
 そして、店に飾られている品を前にして、耕一の足が止まった。
「このエプロン、千鶴さんに似合いそうだけどな」
白いエプロンを付けた千鶴の姿を想像して、耕一はしばらく幸福な気分に浸る。しかし、その後で食卓に出されるであろう「恐怖」に気づき、激しく首を横に振った。
「・・・千鶴さんに料理用品は鬼門だ。無難に、万年筆にでもしておこう」
 事務用品であれば、きっと仕事で使うだろう。
 長女でもあることだし、耕一は少し奮発して、シックなデザインの万年筆を買った。
「すいません。プレゼント用に包装してもらえますか?」
「はい。ただいま、お包みしますね」
 千鶴の喜ぶ顔を思い浮かべて、耕一は笑みを浮かべた。

「楓ちゃん・・・高校生だから、文房具とかの方がいいのかな? いや、千鶴さんに万年筆を贈るん
だから、似たような品はよくないな。なら、こういうのはどうだろう?」
 耕一が手に取ったのは、押し花で作った絵画集。
 手作りなので値が張るが、いい品物である。
 以前、楓が押し花の栞を使っていたのを思い出して、耕一はそれを買うことに決めた。  
「すいません。プレゼント用に包装してもらえますか?」
「はい。ただいま、お包みしますね」
 楓の喜ぶ顔を思い浮かべて、耕一は笑みを浮かべた。

「初音ちゃんは・・・そうだ。冬は台所で冷たい水仕事をしているしな」
 耕一が探していた電熱マットは、すぐに見つかった。
 値段は少し高いが、前に友人の家で使っていたのを見たことがある。
「すいません。プレゼント用に包装してもらえますか?」
「はい。ただいま、お包みしますね」
 初音の喜ぶ顔を思い浮かべて、耕一は笑みを浮かべた。


「まずい・・・なんとも、まずい」
 柏木耕一は悩んでいた。
 特に計画することもなく、思いつきでプレゼントを選んでしまったため、次女の梓のプレゼントを
買うお金がなくなってしまった。
 残りの金額は千円。
 他の三人には遥かに高い品を買っているのに、梓にだけ安物を渡すわけにもいかない。
 だが、残金はほとんどない。
 どうするか悩んでいるうちに、雪が降ってきた。
 街頭に飾られたテレビからは、お決まりのクリスマスソングが流れ始める。
「あいつ、へこむと長いんだよなあ・・・」
 気が強くて乱暴者のくせに、妙に傷つきやすい梓の顔を思い浮かべて、耕一は憂鬱な気分になった。
 耕一の肩に白い雪が積もり始める。

「よお、お兄さん。一つ、買っていかないか?」

 しかめ面をして路にたたずんでいる耕一に声をかけたのは、露天商らしき外国人の少女。
 ベースボ−ルキャップを反対にかぶって、もの珍しそうに耕一の顔をながめている。
 彼女の前に広げられた布の上に並ぶのは、安っぽいアクセサリーの数々。
 しかし、値段は手ごろだ。
 ・・・仕方ないか。
 腹を括った耕一は、梓に渡すプレゼントの吟味を始めた。

「これ、もらえるか?」

 小一時間も経った頃。
 耕一が選んだのは、簡素なデザインの銀色の指輪。安物の合金製だろうが、確かにデザインはいい。
「そんなに悩んで買い物をした客は、あんたが初めてだよ」
 半分呆れ顔、半分嬉し笑いをしながら、外国人の少女は無地の紙袋に指輪を放り込んだ。
「・・・・・・」
 耕一は無言で、軽く頭を下げた。
「プレゼントだろ? きっと、喜んでくれるって。そんだけ悩んで選んだんだから」
 耕一は梓の喜んだ顔を想像しようとしたが、途中で首をかしげた。
「・・・大丈夫かな?」
「あったりめえだろ。その指輪、俺が作ったんだぜ」
 外国人の少女は冗談めかしてそう言うと、耕一に紙袋を渡した。


 クリスマスイブの夜。
 美味しい御馳走とケーキを食べ、パーティが一段落した頃、耕一はプレゼントを取り出した。
「はい、プレゼント」
「わあ、ありがとうございます」
「・・・ありがとう」
「耕一お兄ちゃん、ありがとうっ!」
 嬉しそうな顔をする三人の従姉妹。
 それに対し、次女の梓は待ちかねたような、しかし、心配そうな顔で耕一の顔を見ている。そして、
耕一も心配だった。

 ・・・果たして、梓は喜んでくれるだろうか?

「梓。左手を出して」
「えっ、なんで?」
 梓の問いに答えないまま、耕一は梓の左手を取って、その薬指に安物の指輪をはめる。
「はい、プレゼント」
「・・・・・・」

 梓が黙って肩を震わせているのを見て、耕一は驚いた。

「きっ、気に入らなかったか?」
「・・・・・・違うよ」
「えっ!?」
 梓の腕が自分の胴体に巻きついているのを感じて、耕一は驚きの声を上げた。
「・・・嬉しい。すごく嬉しいよ、耕一」
「あっ、あはは・・・いっ、いや、そんなに喜んでもらえるとは・・・げっ!?」

 感激のあまり、耕一を抱きしめて、その胸に顔をうずめている梓。
 そして、それを恨めしそうに見ているのは、千鶴、楓、初音の三人。
「どっ、どうしたのかな、みんな?」
 冷や汗を流しながら、耕一は聞いてみた。

「・・・万年筆でも、人を刺せるんですよね」
 千鶴はそう言いながら、廊下の奥に姿を消した。
「ちっ、千鶴さ〜んっ!」

「・・・いいです。一人寂しく、押し花の材料を探しに、山に行ってきます。今は真冬ですけど」
 楓はそう言いながら、山の奥に姿を消した。
「かっ、楓ちゃ〜んっ!」

「・・・いいよ。お兄ちゃんがいなくても、電熱マットがあったら暖かいから。お兄ちゃんは、梓
お姉ちゃんがいるから、寒くないよね?」
 初音はそう言いながら、部屋の奥に姿を消した。
「はっ、初音ちゃ〜んっ!」


 ・・・翌日。
 外国人は露天を開くために地面に布を広げた。
 そこにやってきたのは、昨日の冴えない風貌の大柄な青年。
「よお。昨日買った指輪、喜んでもらえたようだな」
 外国人の少女がそう言ったのは、青年の腕にしがみつくようにして、ショートカットの少女が幸せ
そうな微笑みを浮かべていたからである。
 だが、大柄な青年は、青い顔をしてつぶやいた。
「・・・すいません。昨日の指輪と同じやつ、三個ください」
「はあ?」


教訓:プレゼントは計画的に買いましょう。

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 この作品は、「12月のお題:クリスマス」のサンプルSSです。

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