悲劇のランナーズ(11月の「お題:スポーツ」サンプル作品) 投稿者:AIAUS 投稿日:11月1日(水)00時05分
フッ、フッ! ハッ、ハッ!
フッ、フッ! ハッ、ハッ!

「ほらー! 遅れてるわよ、二人ともっ!」
ジョギングウェア姿の瑞希が、朝の清廉な空気の中で爽やかな声を響かせる。

ゼハーっ! ゼハーっ! 
ゼイゼイゼイゼイゼイ・・・

「待っ、待ってえな、瑞希はん。なんで、いきなりジョギングなんや・・・」
「ちょー最悪。これだから脳筋女は・・・」
そのはるか後ろで、息を切らせて喘ぐような声を響かせているのは、由宇と詠美の二人である。

パコーンっ!
「だーれが、脳みそ筋肉よ! たかが、5Kmで息切らせちゃって。情けないと思わないの?」
「ふにゅう・・・」
瑞希に頭を一撃されて抵抗する気力もなくなったのか、詠美は頬を膨らませて恨めしげな顔をした
ものの、それ以上口答えすることはなかった。
由宇の方はまだ、口が回る元気があるようだ。
「瑞希はん。たかが5Km言うけどな、ビスコは一粒300mやで? つまり、うちらはビスコを
17個食わんと走りきらんいう計算になるんや。だからな・・・」
ゴスっ!

「走る?」
天使のような微笑みで、瑞希は由宇に尋ねた。
拳は再び、由宇の頭上に振りかぶられている。

「・・・ううっ、あんた、鬼や」

かくして同人少女二人は、瑞希の朝のジョギングに最後まで付き合わされることになったのである。


ジョギングを終えた三人は、とりあえず近くにある和樹のアパートへ寄ることにした。
「・・・ふっ、ふにゅううううううんんん」
「・・・しっ、死んだ。うちは宇宙を舞う一陣の星屑になったんや」
和樹の部屋に着くなり、床に倒れる詠美ちゃんさまと六甲おろしの由宇。
同じ距離を走ったのにも関わらず、瑞希は平然としていた。というよりはむしろ、不思議そうな顔で
まだ呼吸が収まらない二人を見ている。

「おっかしいわね? この二人、もっと体力あるはずなんだけど?」
「運動なんかしたことがない人間が、いきなりマラソンやらされたら目を回すのは当たり前だろ?」

起きたばかりらしい和樹は、歯を磨きながら、気の毒そうに床に倒れている二人に目をやり、瑞希に
注意をした。
「でも、同人誌を書く時は二人とも、すごく体力があるように見えるけど? 三日徹夜なんて普通に
やっちゃうじゃない?」
「その理屈だと、体力がある瑞希は二人以上に同人誌が書けるってことになるぜ?」
「うっ・・・」
間違いを指摘されたことに気づいたのか、瑞希は言葉を詰まらせる。
「なんでまた、いきなり二人にマラソンなんかやらせたんだ?」
「だってその・・・このオバカコンビ、いつも和樹を徹夜に付き合わせるから・・・」
「二人に体力がつけば、俺が手伝う必要はなくなるって思ったわけだ。心配してくれたんだな、
一応」
「あっ、あたりまえでしょ・・・」
頬を赤らめる瑞希を、和樹は優しげに見つめている。

ゼハーっ、ゼハー・・・。
まだ息が荒い由宇と詠美は、床にあおむけに倒れたまま、その様子を見ていた。
「なっ、なんや、あの二人。死にかけのうちら放っておいて、勝手に盛り上がっとるで?」
「ふみゅううううん。絶対に、仕返ししてやるんだからぁ・・・」
「そや、ペンは剣より強しやっ!」

かくして、有名サークル『辛味亭』と『CAT OR FISH!?』による暴露本、
『ブラザー2の鉄拳凶暴女』は作成されることになったのだが、塚本印刷の内部告発によって、
秘密裏に処理されることになった。

「なんなのよ、この『大手同人サークルで男二人を牛耳り、いたいけな少女に言われなき差別と
虐待を繰り返す女王様』っていうのは?」
「「どひーっ!!」」

・・・同人少女達に、幸あれかし。 

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この作品は、11月の「お題:スポーツ」のサンプルSSです。

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