冤罪(11月のお題「焼き芋」サンプル作品) 投稿者:AIAUS 投稿日:11月1日(水)00時03分
「おいもさん、おいもさん♪」
初音がヤキイモを口にして、嬉しそうに歌っている。
「まあ、初音。まるで、小さな子供みたいよ?」
それを見て微笑んでいるのは、同じようにヤキイモを口にしている長女の千鶴。
「ある意味、そのまんまだよなぁ」
姉の言葉に同意している梓も、やはりヤキイモを食べている。
「・・・・・・」
いつものように静かだが、楓もヤキイモを食べているようだ。
今日の柏木家は、近くの農家からもらったサツマイモを焼いて、ヤキイモパーティを開いていた。

プウッ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
一家団欒の笑い声の中で突然響いた破裂音に、四姉妹は一斉に顔を見合わせる。
「嫌ね、梓。いくらオイモを食べているからといって、慎みがないわよ?」
「なっ、なんで私なんだよっ!」
千鶴に一方的にオナラの犯人と決めつけられた梓は、抗議の声を上げた。
「だって、他にしそうな人がいないじゃない?」
「ちっ、千鶴姉だって、オナラぐらいするだろ?」
「梓と違いますもの」
「こっ、この嘘つき女めーっ・・・」
ギリギリと歯軋りをして悔しがる梓。

「・・・千鶴姉さん」

姉二人の喧嘩をいつものように傍観していた楓が、ポツリとつぶやいた。
「楓、どうしたの?」
不思議そうに聞き返す千鶴を、楓は珍しく咎めるような目で見た。
「・・・オナラしたの、千鶴姉さん」

ピシッ!

それを聞いて瞬時に、千鶴のこめかみに怒りマークが浮かぶ。
「楓ちゃん? お姉さんに濡れ衣を被せるつもりなの?」
「・・・だって、千鶴姉さんの方から、音が聞こえたもの」
「なんだよー、やっぱり千鶴姉かよ。やだねー、年寄りは見栄っぱりになるから」
ここぞとばかりに、梓は楓に加勢する。

ピシッ、ピシッ、ピシッ!
千鶴のこめかみに浮かぶ怒りマークの数が、さらに増えた。
「あなた達・・・グルになって、姉の私に恥をかかせたいというわけね?」
「・・・本当のことだもの」
「そうだよ、姉貴。いいじゃないか、オナラくらい。耕一だって、それぐらいはするよ。あんなに
大きな音は立てないと思うけど」
周囲に、緊迫した空気が走る。

「やっ、やめてよ、お姉ちゃん達。いいよ、私がオナラしたってことにして」
その空気に耐えられず、初音が喘ぐように提案をしたのだが・・・。
「初音。それって言葉の裏で、『本当はお姉ちゃん達がオナラしたんだけど、優しい妹の私が愚かな
姉に代わって、罪を被ってあげよう』って言っているように聞こえるんだけど?」
「そう、そう。初音、あんた、だんだん千鶴姉に似てきたよ」
「・・・偽善チック」
姉三人に攻めたてられ、初音はあきらめたように顔を下に向ける。
「うう、ひどい・・・」
「初音も? 長女である私を馬鹿にするつもりなの?」
「そっ、そうじゃなくって!」
「亀姉に似ているって言われるのは、いくら優しい初音でもたまらないよなー」
「・・・(黙って、うなずく)」

ヒュオー・・・。
周囲の温度が、急に下がった。
「あなた達を、殺します」
ジャキン。
千鶴の右手から、刀を抜くような硬質の音が響く。
「いつまでも、やられっ放しでいるもんかっ! いくよ、楓」
「・・・はい」
ズシッ!
ブゥオン!
それに合わせて、梓と楓も戦闘状態に移行する。
「ああー、みんな、やめてってばー!!」
末妹の初音の悲鳴を他所に、人知を超えた姉妹喧嘩は幕を開けた。


(・・・なんか、とんでもないことになってしまったニャ)
その頃、「犯人」タマは、安全な軒下に避難を終えていたりしていたのである。

合掌。

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これは11月の「お題:ヤキイモ」のサンプルSSです。
http://www.urban.ne.jp/home/aiaus/

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