辛島さんのおはなし、もしくはクリフハンガー 投稿者:AIAUS 投稿日:9月27日(水)21時26分
「今日の一発目〜! はい。まずはラジオネーム『ねこっちゃ』さんからのお手紙です」

『みね姉、こんばんにゃ〜』

「はい、こんばんにゃ〜。いつも、お手紙ありがとう、ねこっちゃさん。超能力の暴発のせいで、
お友達ができないって悩んでたみたいだけど、優しい先輩のおかげで治ったみたいだね〜。

『で、今日は、以前にお話しした先輩についての悩みなんです。聞いていただけますか?』

「はいは〜い、なんでも聞いちゃいますよ〜」

『私と同じような悩みを持つ女の先輩が別にいて、優しい先輩は最近、そちらに気をとられている
ようなんです』

「優しい先輩って、男の人ですかぁ。青春してますね〜、って。その優しい先輩が、別の女の先輩
に気をとられているってことは、『ねこっちゃ』さん。ピンチってやつですね〜」

『女の先輩は魔法が使えるんですけど、すごく内気で人見知りされる方なんです。それで、最近は
部室にこもって、優しい先輩と一緒に何か儀式をしているみたいなんです』

「魔術って、黒魔術かな? みねもね、高校生くらいの時は魔術に凝りましたよ。好きな人の髪の毛
をヒイラギの枝に巻きつけて持っておくと、思いが届くとか。みねは魔力がないみたいで、結局、
効かなかったんですけどね〜」

『優しい先輩の注意をもう一度、こちらに向けるためには、どうしたらいいでしょうか?』

「う〜ん。そうですねえ・・・その優しい先輩っていう人は、親切で困っている人を助けていると
思うんですよ。それで、『ねこっちゃ』さんが抱いている気持ちは、感謝以上のものだと思うんです。
こういう時はずばり、告白しちゃいましょう! 自分の気持ちを相手に知ってもらえば、きっといい
結果が出ると、みねは思うんですよ。はい、それでは最初の曲は・・・」


みねの本名は、辛島美音子といいます。
仕事はラジオのパーソナリティをやっちゃってます。
最初に仕事を頼まれた時は、「みねにそんなことできるのかな〜?」なんて思っちゃいましたが、
やってみると面白い仕事なんです。
『ねこっちゃ』さんみたいに悩みを打ち明けてくれる人もいれば、日常にあった面白いことを
伝えてくれる人、率直に思ったことを伝えてくれる人もいる。
そういう手紙を読んでいると、
「ああ、みんな、一生懸命なんだな」
なんて、しみじみ思えてしまうんです。
『ねこっちゃ』さんも友達や好きな人ができたみたいだし、なんだか一安心。
偉そうだとは思うんですけど、みんなのお姉さんになったような気持ちになるんですよね。
えへへ・・・。


今日は休日。
久しぶりに、駅の周りをブラブラしてみました。
何か目的があるわけじゃないんですけど、こうやって街の風景に溶け込んでいると、なぜだか
不思議な気持ちになるんですよね。落ち着く、っていうか・・・どうなんでしょ?
人の波が過ぎていく光景が、生活を感じさせるっていうのかな?

「あの・・・すみません。もしかして、みね姉さんですか?」

私がそうやって考え事をしていると、突然、背中から声をかけられました。

「あっ、はい。みねはみねですけど」(ごっつ読み難い)
「わあっ・・・本物のみね姉さんだ。私、『ねこっちゃ』です。一週間前、手紙を読んでいただいた」
私の前で、少し頬を赤らめてはにかんでいるのは、透き通るような白い肌をした女の子。
顔もまるで御人形さんのように綺麗で、みねはちょっとビックリしてしまいました。
「『ねこっちゃ』さん? いつもお手紙ありがとうございます」
みねがペコリと頭を下げると、『ねこっちゃ』さんもあわてて頭を下げました。
ふふ、いい人みたいですね。
私達はとりあえず、近くの喫茶店で話をすることにしました。

「・・・それで、憧れの先輩には告白しちゃったんですか?」
「いっ、いえ・・・それがまだ」
人差し指と人差し指を交差させて、『ねこっちゃ』さんは恥ずかしがっています。
「そういう思いは、バンと伝えちゃった方がいいですよ? みねもね、後悔しているんです。学生
の頃に好きだった男の子に思いを伝えられなくて」
「はい・・・告白はしたんですけど」
「したんですか? 凄いじゃないですか、『ねこっちゃ』さん」
「先輩が鈍すぎて、気づいてもらえないんです」
あう・・・そりはつらい。
「なんとか注意を引こうと思って、私も魔法の練習をしているんですけど、制御がうまくいかなくて。
このままだと、来栖川先輩に取られてしまいますね」
そう言って、寂しげに笑う『ねこっちゃ』さん。
うう、なんとかしてあげたい。

「特訓しましょう、『ねこっちゃ』さん!」

気づいた時には、みねは『ねこっちゃ』さんの手を握り、遠いどこかを指差していました。


「えっと、魔法の練習というのはですね・・・」
みね達が今いる場所は、人気のない公園の片隅。『ねこっちゃ』さんは公園にあった竹ホウキを手に
持ち、みねに説明しています。
「こうやって、ホウキにまたがって空を飛ぶ、というものなんです」
はいい? 魔法って、おまじないのことじゃないんですか?
さすがに、みねもそれは手伝えないと思うんですけど。
みねが驚いていると、『ねこっちゃ』さんは少し微笑んでから、

「それでは、やってみせますね・・・エエイ!」

と、気合を入れます。

ブゥゥゥウウン・・・。
うまく表現できないんですけど、突然、空間が歪むような感覚がしました。

すると、どうでしょう。
なんと、『ねこっちゃ』さんのまたがっているホウキが宙に浮いているじゃないですか!

「すっ、すごい! すごすぎます! 『ねこっちゃ』さん、本当の超能力者なんですね!」
「・・・怖くないんですか、私の力が?」
みねが手を叩いて喜んでいると、『ねこっちゃ』さんは変なことを聞いてきました。
「えっ? どうして、怖いんですか? とても素敵なことじゃないですか。超能力が使える
なんて。そのおかげで、みねと『ねこっちゃ』さんが知り合えたわけだし」
「よかった・・・みね姉さんが思った通りの人で」
両手を口に当て、『ねこっちゃ』さんは、なにかに感動している様子でした。

でも、本当にすごいです。本物の超能力なんですよ。
 
「それで、魔法が使える先輩というのは、ホウキで空を飛ぼうとしているんですね?」
「はい。私も同じことをしようとしているんですけど、高度が維持できなくて」
「そこは練習あるのみですよ。みねも手伝っちゃいます」
かくして、みねと『ねこっちゃ』さんの特訓は始まったのでした。

ブゥゥウウウン・・・。
空間が歪むような感覚。

竹ホウキにまたがった『ねこっちゃ』さんの体が、一センチ、二センチと地面から離れていきます。
「ほら、がんばって!」
「はっ、はい! いきますっ!」
私が声をかけると、『ねこっちゃ』さんの体はさらに宙へと浮かんでいきました。
十センチ、二十センチ、五十センチ、一メートル・・・あれ?

「ちょ、ちょっと待って? 大丈夫ですか?」

上昇する速度がどんどん上がっているようなので、心配したみねは、両手で『ねこっちゃ』さんの
両足をつかみました。

フワ、フワ、フワ・・・。

えっ? まだ、上昇が続いている?
『ねこっちゃ』さんの足にぶら下がっている、みねの体まで宙に浮いてしまいます。

「うあぁぁぁああ!」

みねの頭の上から聞こえる、『ねこっちゃ』さんの悲鳴。
どうして?

1・現在、竹ホウキを支点にして、『ねこっちゃ』さんは上昇している。
2・『ねこっちゃ』さんは、竹ホウキにまたがっている。
4・『ねこっちゃ』さんの両足を、体重×十キロのみねがつかんでいる。

・・・これって、股裂き、もしくは△木馬状態ですか!?
いっ、いけません! 早急に手を離さないと・・・。
そう思って、下を見たのですが・・・。

「にょええええええっ!!」

いっ、いけません! 現在の高度は二十メートルを優に超えています。
いつの間に、こんなに上昇してしまったのでしょうか?

「『ねこっちゃ』さん? 大丈夫ですかぁ?」
「ああ、まるで北海道で遊んだジャングルジムを思い出すような・・・この切ない感覚」
駄目です、目がいっています。
と、とにかく、なんとかして下に降りないと危ないんですけど・・・。

「『ねこっちゃ』さん! もう十分です! 下に降りましょう!」
「あっ・・・はっ、はい・・・なんとか、制御してみます」
荒い息をつきながら、『ねこっちゃ』さんは竹ホウキを下降させようと頑張ったのですが・・・。

ブルブルブル・・・。

超能力の限界が来たのか、今まで安定して宙に浮いていた竹ホウキが振動を始めました。
「『ねこっちゃ』さん!?」
「もっ、もう駄目・・・」
「ええい!」
『ねこっちゃ』さんが限界に近いことを悟った私は、『ねこっちゃ』さんの体をよじ登るようにして
抱きつき、私の腕の中に抱え込みました。

私は、お姉さんなんです!
『ねこっちゃ』さんを守らないと。

「ふぁああああああっ!!!」
みねに抱きしめられると、『ねこっちゃ』さんは力尽きたのか、大きな声をあげてから気を失い
ました。
そして、みね達を空中につないでいた力はなくなりました。

落下する感覚。
みねは目をつむり、衝撃に備えます。

ホワン、ホワン、ホワン・・・。

落下した私を待っていたのは、地面の固い衝撃ではなく、柔らかい泡に包まれているような、不思議
な浮遊感でした。


「みね姉さん! 大丈夫ですか、みね姉さん!」
「・・・」
ツンと鼻に来る匂い。
目を覚ますと、誰かが心配そうに、みねの顔をのぞきこんでいました。
男の子・・・いつか、駅でサインをあげたような覚えがあります。
横にいる、黒いロングヘアーの女の子は、誰なのでしょうか?

「琴音ちゃん! 大丈夫?」
みねが目を覚ましたことを確認すると、その男の子は私の体にしがみついている『ねこっちゃ』さん
にも大きな声をかけました。
「あっ、はい・・・」
よかった・・・『ねこっちゃ』さんも無事なようです。

「びっくりしたぜ。来栖川先輩があわてて外に飛び出したから、何があったのかと思ったんだけど」
「・・・」
コクコクコク。
冷や汗をぬぐっている男の子と、無言で何度もうなずいている女の子。
ああ、この御二人のことなんですね、『ねこっちゃ』さんの言っていた、優しい先輩と魔法を使う
女の先輩って。

「私、わかりました」
そう言ったのは、超能力を使い過ぎたのか、少しトロンとした目の『ねこっちゃ』さん。
「んっ? なにが?」
不思議そうに聞くのは、彼女を心配している優しい男の子。
ふふ・・・なんか、微笑ましいですね。

「来栖川先輩がホウキにまたがって、「いきます」って言っていたことの意味が」

「「「???」」」(×3)
「私、みね姉様に教えてもらったんです」
そう言って、みねに『ねこっちゃ』さんは抱きついてきて、胸に「の」の字を書き始めました。
「そういう意味だったんですね、来栖川先輩?」
「・・・・・・」
フルフルフル・・・。
無言で首を何度も横に振る、女の先輩さん。
彼女は男の子の腕を取ると、テテテと走り始めます。

「ちょ、ちょっと待って! みねを置いていかないでくださぁい!」
抱きついている『ねこっちゃ』さんの異様な暖かさに危機感を感じたみねは、悲鳴を上げました。

チーーー。
それに答えたのは、女の先輩さんが棒で地面に引いた、一本の線。
「そっ、それは・・・もしかして?」
「ごめんね、みねさん・・・あっ、先輩! そんなに慌てて走ったら、危ないったら!」

「みねは・・・えんがちょ、という意味なんですかぁ!?」


「ああん・・・みね姉様」
「にょええええええええええええ!!!」


(合掌)

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「お題:〜にひかれて」より、「先輩に線をひかれて」でした。

ミラージュさん、助造さんのリクエストに応え、
「辛島美音子さんSS」に挑戦しました。
いかがだったでしょうか?

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aiaus@urban.ne.jp
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