すべてが妻になる(「お題:すべてが○になる」 サンプルSS) 投稿者:AIAUS 投稿日:8月1日(火)01時28分
同人作家にとって至福の時。
それは全てのノルマを終えて、ベッドで寝ている時である。
俺は夏コミパに出すための原稿を、72時間もの修羅場に耐えて書き終えた。
この至福の時を邪魔する者があれば、どんな奴でも滅殺あるのみ。
そう。今、俺の部屋にあるベッドはただの寝台ではなく、戦いを終えた戦士を安らえる
聖域になっているのだ。

「かずき、和樹ってば!!」

この声は瑞希?
たとえ、おまえであっても、戦士の安息を妨げることは許されないぞ。
俺は豪快に無視して、眠り続けることにした。

「和樹さん・・・起きて下さい」

彩ちゃん?
あれ? 瑞希と一緒に、俺を起こしに来たのか?
何か約束あったっけ?

「にゃー。起きてくれないと、朝ご飯が冷めちゃうですよ」

千紗ちゃんまで!?
それに、朝ご飯って何のことだ?

「ほら、和樹さん。みんなが裸エプロンで待っているんだから、お寝坊さんしてると
もったいないですよ」

こっ、このお姉さん口調は・・・南さん!?
しかも、みんなが裸エプロンですとぉぉぉ!!
俺は全身全ての筋肉をバネにして、まるでカタパルトで射出されるかのような
勢いでベッドから飛び起きた・・・だが、しかし。

「なんだ、夢か・・・」

ぼりぼりと頭を掻いて、ベッドの上で仁王立ちになっている自分を確認する。
もちろん、部屋には俺以外、誰もいない。
夢オチっていうのは、一番やってはいけない落とし方だよな・・・。
俺はそんなことを考えながら、再び戦士の休息についた。


「あんさん、早よ起きな。うちら、待っとんで」

この関西弁は、由宇?
・・・いや、また夢に違いない。俺のかげがえのない睡眠を邪魔しようとする
誰かの策謀だ。

「コラっ、ポチ! 詠美ちゃん様特製のベーコンエッグが冷めちゃうじゃない!」

詠美が怒鳴りながら、俺の顔を揺すっている・・・振動機能付きとは、妙にリアルな
夢だな。

「あっ、あの・・・和樹さん。早く起きて下さい。でないと、私・・・恥ずかしくて」

この聞き慣れた声は・・・あさひちゃん?
何が恥ずかしいんだろうか?

「そうだよぉ。みんなで新番組のフロイライン・ラインのコスプレやってるんだからさ、
早く観ないともったいないよ」

この声は玲子ちゃんで、フロイライン・ラインって言えば・・・?
ヒロイン全てシースルーの戦闘服で問題になった、あの美少女戦隊ものか!?
俺はまるで月に向かうロケット、サターン5型のような勢いで、ベッドから跳ね起きた。
だが、しかし・・・。

「馬鹿な・・・夢オチを二回連続で用いるなんて」

悪いのは夢を見ている自分のような気がするが、俺は誰かのせいにして呪いの言葉を吐いていた。

もしかして、これでおしまいなのか?

いっ、いや待て。二度あることは三度ある!
まるで新婚家庭の奥さんのような甘々な起こし方で、しかも多人数プレイな夢なんてそうそう
見られるモンじゃない。
俺は挑戦するぞ! 
今度は休むためではなく戦うため(何と?)に、俺は再びベッドに横になった。

う〜ん。次は出てくるのは誰かなぁ?
残っているというと、レアキャラっぽい女の子しかいないし・・・。
立川郁美ちゃんは確実にノミネートされるとして、後は風見鈴香さん?
夕香ちゃん、美穂ちゃん、まゆちゃんの三人組も出てくるかもしれない。
まっ、まさか澤田編集長まで出てくるのか?
そうだと、すごく嬉しいんだけど・・・。
何にしろ、知り合いの女の子全てが奥さんになるなんて、夢見が良すぎるくらいだな。


「おい、起きろ」

幸せな予感でイッパイの俺を起こしたのは、野太いおっさんの声だった。
こっ、この声は・・・。

「おまえの力はそんなものか? さっさと起きあがって来い」

立川違いだっ!
なんで郁美ちゃんの兄貴が、俺を起こしにやってくるんだ!

「さっさと起きろ、マイブラザー。せっかくのカツ丼が冷めてしまうぞ」

朝から、そんな濃いモンが食えるかっ!
そうじゃなくて、大志! なんで、おまえの声までするんだ。

「そっ、そうなんだな。早く起きないと、冷めちゃうんだな」
「早起きは三文の得。目覚めるでござるよ」

!?
まさか、この声は・・・?
俺は布団にくるまったまま、恐怖でガタガタ震えていた。

「マイブラザー。みんな六尺フンドシで、おまえの目覚めのために待機しているぞ」
「・・・おい、そっちの細いほう。もっときつく締めないと、緩んで落ちるぞ」
「いいでござる。その方が和樹殿も喜ばれるでござるよ」

ぎゃあぁぁぁぁ!!
誰が喜ぶかぁぁ!!
ゆっ、夢ならさっさと覚めてくれっ!
だが、一向に夢は覚める気配を見せない。

「こうなったら、布団をはがすしかないんだな」

丸々と太った指が俺の布団をつかみ、そして・・・。



                 (「すべてが妻になる」もしくは「悪夢は終わらない」)(完)                     
                                                               
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これは「すべてが○になる」のサンプルSSです。