罰当たり(「お題:夏祭り」サンプルSS) 投稿者:AIAUS 投稿日:7月1日(土)01時29分
梅雨も終わり、そろそろ日差しがきつくなって頃。
神様を迎える祭りが行われることを知らせる花火が、ポンッ! ポンッ! と景気のいい音を立てて、
青い空に小さな白い丸を描いた。

「おおっ、景気のいい事やな。広島の祭りも」

由宇が嬉しそうに笑って、空に浮かんだ白い丸を見上げる。

「雨女のパンダが来たから、てっきり中止になっちゃうかと思ったけど、きちんと晴れてんじゃないの、
詠美ちゃん様のために。ねー、和樹・・・イダァ!」
由宇に小突かれて、詠美が悲鳴を上げた。
「ちょっと、やめなさいよねー。みんなが見ているわよ」
道端で、いつものように喧嘩を始めようとしていた二人を、瑞樹のキツい声が止める。
「なによ、小姑! 一人だけ浴衣なんか着ちゃって。下心見え見えー」
「そや。下着なんか付けとらへんのやろ。ラインが見えへんでー」
そう言えば・・・確かに。

「バカァ!」
ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!

「ふみゅーん。パンダが余計なこと言うからぁ」
「ドアホ。あんたが、瑞樹はんの年を指摘するからやろ」
懲りない二人が瑞樹に殴られるのを見るのは忍びなかったので、俺は祭りの屋台が出ている場所まで
歩いていった。


「はい、いらっさい。見てって。見てって」
「母ちゃん。あれ、買うてーやー」
「バカ言いんさい。あんな大きい動物、どこで飼うん」
「はい、綿飴。おいしいよー」
「ほれ、やるよ」
「ありがと。あんた、気前いいんじゃね。見直したわ」
「ワタアメ一個で見直されるんじゃけー、何思われとったんかいの」

祭り特有の活気が、俺の周りの空気を包む。
もう夕方になり、空は暗くなってきたが、街頭に飾られた提灯の灯りのおかげで、夜の暗さが祭りを
楽しむ人達を包むことはない。

「和樹・・・」
後から追いついてきた浴衣姿の瑞樹が、俺の袖を引っ張った。
「ねえ、向こう行こ。船がよく見える場所があるんだって」
そう。今、俺達が来ている広島の夏祭り、「管弦祭」は、宮島にいる神様が向こう岸の神社に里帰りして
くるのを迎える祭りなんだ。
神様は、灯りで飾られた船に乗ってやってくる。
それを海岸で眺めるのが、祭りに来ている人達の楽しみだったりする。

「由宇と詠美はどうしたんだ?」
「うん・・・埋めた」

あまり深く聞かないことにして、俺達は牡蠣イカダ(牡蠣を養殖するための棚として使われるイカダ)が
浮かぶ海岸端に移動することにした。


夜の堤防。
波はうねり、街の灯や祭りの灯を反射して、キラキラと光っている。
「綺麗ね、和樹」
「ああ、そうだな」
ふっと瑞樹の顔を見る。
潮風に吹かれた瑞樹の顔はとても綺麗で、俺はしばらく見とれてしまった。

「和樹?」

瑞樹に声をかけられて、やっと正気に返る。
「ねえ、和樹。いいよ、ここでも・・・」
瑞樹は俺のそんな様子を察したのか、そっと体を寄せてきた。
周りをキョロキョロと見回して、確認する俺。
よし、音楽スタート!(何の?)
・・・と、勢い込んだんだけど。


ピーヒャラリー、ヒャラリラリー。

ライトアップされた船が、にぎやかな管弦を鳴らしながら進んできた。当然、俺と瑞樹が転がっていた
堤防の近くも通るわけで・・・。

「瑞樹はーん! そんなところでやると、砂噛んでごっつう痛いでー!」
「ポチー! 浮気する時は、帽子つけてやんのよー!」

なぜか、神様を乗せた船に便乗して、好き勝手叫んでいる由宇と詠美。

バッ!

浴衣をなびかせながら、波を切って進む船へと跳躍する瑞樹。

「あんたら、今度は沈めてやるー!!」
「ドヒー!!」
「ふみゅうううん!」

・・・罰当たりな連中だ。
神様を乗せた船が波間に沈んでいくのを見ながら、俺は溜め息をついた。

「兄ちゃん。酒盛りやるけー、付き合わんか?」

ちょっと悪酔いしそうだな。

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これは「お題:夏祭り」のサンプルSSです。