人目を避けながら校舎内を見まわれど、探し物は見つからない。 かなりピンチだ。 よりにもよってアレを落とすなんて… アレとは女性の魅力を余すところ無く掲載したごく一般的ジャンルの映像記録体、 早い話がエロビデオである。 それも至極マニアックな。 普通そんなサイズのもの落とさないのではあるが。 気が付けば下部を大きく切り裂かれたカバンのみが手にあったわけで。 そりゃもう駆け足でUターン。 目を皿のようにして探すも、無い。 結局学校まで戻って、残る可能性は最早拾われたか校舎内に今だあるかに絞られた。 一縷の望みに賭け、最後の捜索場所、人のまだ残る教室への扉を開ける。 「あれ、浩之ちゃん、今日は用事があるから早く帰るんじゃなかったの?」 その『用事』を探しに帰ってきたなど、誰が言えよう。 「ん、ちょっとな…」 内心動揺しながらも平静を取り繕い、辺りを見まわす。 無い。 「どしたの、探し物? 手伝おうか?」 こういうときの世話焼きの良さは非常に辛い。 「いらねーよ」 と、一蹴し、もう一度最後の望みを託して帰宅ルートを探そうと思い背を向けた、矢先。 「もしかして…探し物これ?」 「な…!?」 その意味するところに思わず振りかえると、そこには。 差し出された一冊の本。 「…ちげーよ」 最悪の事態を免れたことに安堵する。 あんなマニアックなもの見られた日には何を言われる事やら。 「え、違うの? これ、浩之ちゃんのだと思ったのに…」 安堵ついでにその本が何の本だか確かめる心の余裕さえ生まれ、ちょっと見てみると。 そのタイトルは。 『始めてでも失敗しない! HowTo初体験!』 耳から血が出た。 「えと、あの、これ…」 「こんなのもあるよ」 『男を勃てろ! 不能解消100の法!』 鼻からも血が出た。 「え…ええと…これは…」 あきらかに嫌がらせだ。 確かに初めてで役に立たなかった俺も悪い! だがここまでされる謂れは…! と。 あかりがなにやら見覚えのある物体を片手に持っているのに気付いた。 それは女性の魅力を余すところ無く掲載したごく一般的ジャンルの映像記録体。 パッケージの『幼●100人切り! はじめてのアヌ●ばん』の文字も鮮やかだ。 あ…あはははははははは。 あかりのいつも絶えぬ笑顔が、『こんなマニアックなモンで抜いてるから重要な時に弾切れ起こすんだよこの租●ン! 死ね!』と語る。 「こう言うの見ると、健康に悪いと思うよ?」 口でも語られた。 「ちゃんと今渡した本呼んで勉強してね?」 目の前でテープが引き抜かれ、千切られた。 「あ、でもいくら本が紙だからってティッシュの代わりに使っちゃ駄目だよ?」 人類として失格クラスの烙印を押された。 「まったく、こっそり後ろからカバン切ってまでして持ち物検査してよかったよ」 疑うべくない犯罪行為を正統化された。 「あんまり役に立たないんなら落としちゃうよ、玉と棒?」 しまいにゃ脅された。 ぎゃふん。 そして次の日。 「ってなことがあってだな…」 「それで恐怖に一睡もできなかったんだ、凄い顔色だねあはは」 笑顔の親友に殺意を覚える。 子供じゃないからスネ蹴りで我慢するが。 「まぁ、でもそれは落としちゃったら大変だね」 「全然大変そうな言い方じゃないのがむかつくな」 笑いながらスネを青黒く染めでやる。 「いやいや、キャンセル料も馬鹿になんないから」 「は?」 話が噛み合わない。 「ほら、浩之が落としちゃったら僕はもう落としにいかなくていいわけじゃない、あはは」 「はぁ? どこで何落とそーっていうんだよ」 「モロッコに落とし玉――」 親友の体が校舎から舞った。 来世では別性で逢おう。