それが……現実(お題:卒業) 投稿者:宮月純志郎 投稿日:3月17日(土)06時58分
「――あ〜お〜げ〜ば〜、と〜お〜と〜し〜……」
「?」
「わ〜が〜し〜の〜お〜ん〜……」
「……あの、なんですか?」
「仰げば尊しだろ? なんだ、しらねーのか?」
「はい……」
「卒業式に歌うんだよ。定番なんだ」
「卒業式……ですか?」
「今日はマルチの卒業式みたいなもんだろ?」
「……え」
「お〜し〜え〜の〜、に〜わ〜に〜も〜…」
「……………………うっ……………………ううっ…」
「は〜や〜い〜く〜と〜せ〜……」
「……うう、浩之さん、ありがとうございます……」


「―感動のシーンに失礼いたしますが」
「ん?」
 礼儀正しくも無機質な声が突然聞こえた。
 振り向けばセリオだ。珍しくひとりだ。
「―卒業式ですか?」
「ああ。今日でマルチがこの学校を卒業だからな」
「そうなんですー」
「―そうなのですか……?」
 珍しく疑問形で言って、首を傾げるセリオ。
「どうかしましたか……?」
「―この時期に学校を出てしまうなら、中退と言うべきでは」

「……。」
「……。」
「―……。」

「い、いや、もともと一週間の期限で入学したんだし、その期限いっぱいちゃんと
 終わらせたんだから、卒業でいいだろ」
「―そう言われればそうですね」
「そうなんだよ」
「そうですー」
「―では、習得単位は十分なのですか?」

「……。」
「……。」
「―……。」

「も、もちろん取ってるだろ」
「―まだ学年末試験の前ですから、単位は確定していないのでは」
「ひ、必要単位は0なんだよ、試験入学なんだから」
「そ、そうですよ、入学の目的は、人間のみなさんと交流しながらメイドロボと
 しての機能を試すことで、授業じゃないです」
「―なるほど。了解しました」
「わかってもらえましたかー」
「わかればいいんだよ」
「―では卒業できるのはわかりましたが、卒業証書はありますか?」

「……。」
「……。」
「―……。」

「ふ、TVアニメのとき藤田さんがくださったものなら……」
「―藤田さんが発行する権利のある文書ではないはずです」
「……。」
「……。」
「―……。」
「……。」
「……。」
「―……。」
「……。」
「……。」
「―中退、おめでとうございます、マルチさん」






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