「昔話をしよう。 うちの学校にやってきたマルチが、その日、犬と話してたんだ。 『犬さん、犬さん、こんにちは!』 から始まって、あきれるくらいにバカていねいに犬と会話してたんだよ。 人間もイヌも、自分とは違う『生き物』なんだし、明確な差はないのかも な、そう思った時、オレは気づいたんだ。 マルチにも『こころ』があるだってことを。 それだけに、別れる時が辛かったな。身を切られるような痛い思いだった。 それから、オレが苦労してメイドロボを手に入れた。 マルチと同じ姿をした、マルチの妹。 だけど、そいつに『こころ』は宿ってなかった。 嘘だろ、間違いだろって騒ぎたかった。 泣いても、わめいても、あのロボットはたった一言、 『・・なんなりとご命令ください』って繰り返すだけだったから……。 それだけに、おっさんのおかげで、あのマルチがオレのもとに戻ってきた時は、 心の底から嬉しかったぜ!ホント感謝してるよ!!」 「……今では後悔しているよ」 ふきふき後らしきティッシュの山を横睨みながら、長瀬はそう言いきった。 【終】http://www.ky.xaxon.ne.jp/~minakami/index.htm