夏祭 (お題:夏祭り) 投稿者:雅 ノボル 投稿日:7月22日(土)09時11分
 梅雨の明けた夏空、暮れなずむ夕日の中。
 涼しげな夜風が、浴衣姿の私の袖を通り過ぎていく。
 季節は夏、真っ盛り。
 街は夏の大祭の賑わいの中に、心地よい夜風に喧騒を乗せてにぎやかしく。
 祭りの夜の人混みの中に、私はいた。

         Leaf presents "WHITE ALBUM" Misaki Sawakura's Side Story
                                   夏祭
                             Summer Festivity

                          Wrote By Noboru MIYABI

 暑かった昼間の熱気は陽射しと共に消えうせて。
 夜風の涼しげな風と引き換えに、祭りの中に熱気がこもっている。
 駅前から延びる欅並木の参道には、お祭りでにぎわう神社へ行く人で溢れかえる。
 私も、その中の一人。
 お家にあった紺絣の浴衣を着こみ、ひとり祭りの中に来ている。
 数百年前から続くと言う、夏祭りの日。
 7月20日が祝日になった事もあって、人の出はいつになく多い。
 人の流れに任せて境内をくぐると、そこは一夜の幻の最中だった。
 参道の両脇にあるさまざまな屋台。
 子供達が、お店の前で目を輝かせ、大人達が童心に返る。
 そんな幻の光景。
 明日には消えてしまう、1年に1回の幻。

 そんな中で、私も童心に返って、ついつい屋台の品に目が行ってしまう。
 あんず飴に綿菓子、カルメ焼き。
 お祭りでしか見る事のないおかしたち。
 かき氷、ラムネ、金魚すくいにビー玉すくい。
 夏のお祭りにつきもののお店たち。
 いくつかのお店に立ち寄っては、ついつい何かを買ってしまう。
 お祭りの楽しみを味わうために。

 ほかにも屋台のお店やさんはいっぱいあるけれど、この神社の夏祭りには、他の
お祭りにはないものもある。
 参道の奥、境内の手前にある屋台をのぞくと、そこにあるのは、甘い匂いを放つ
李(すもも)。
 李を売る屋台が、数多く並んでいた。
 ここの夏祭りは「すもも祭」と称されて、古くから知られている。
 境内のお社には、毎年神様への供物として、李が奉納される。

 今年も李は甘い香りを出して、私を誘う。
 お店を覗いてみると、3種類の李の実が屋台いっぱいに並べられて、おばさんが
一人、お客さんの相手をしていた。
 おばさんが私に気がつくと、ナイフで切った李の実を手渡してくれる。
 受け取った李の実をかじってみると、甘酸っぱい匂いと優しい酸味と甘さが、口
いっぱいに広がった。
 丁度旬の李。その実は甘酸っぱくて、とてもおいしい。
 まだ少し実が堅いけれど、熟したらもっと甘くなるだろうと、おばさんは言った。
 ちょっと値段が高いけれど、少し迷った後、真っ赤な李を一袋買い求めて、私は
境内へと入った。

 境内に入ると、人の動きはかなりゆっくりになる。
 古くからある神社だけあってか境内の中は広く、鎮守の森のそよ風が心地よい。
 右手からはお囃子の音色。
 音色の流れる方を見てみると、舞台の上では神楽を舞う人がいた。
 流れるように、優雅に。
 音色に合わせて神楽を舞う。
 そんな光景にちょっと見惚れる。
 辺りを見まわすと、私と同じように神楽に見惚れる人が大勢いた。
 私も暫くその音色と舞いに、見惚れていよう。

 しばらく神楽を見物したあと、手水舎で御手を洗って神域に入る。
 拝殿の前には参拝する人で、拝殿の右手では烏の絵の入った団扇と扇子を買う人
で賑わいを見せていた。
 そんなに暑くはないけれど、私も右手の列に並んで、団扇を一つ買ってみる。
 団扇に大きく描かれた烏柄の由来は、五穀豊穣・悪疫防除の意味だそうだ。
 その扇や団扇で扇ぐと害虫は駆除され病気は平癒し、玄関先に飾ると魔を祓って
その家に幸福が訪れると言ういわれからだとか。
 買った団扇で涼を得つつ、神社の神様にお参りしてから帰ろう。
 来年は、冬弥君達とも一緒に来れるといいな………
 お賽銭を賽銭箱に入れて、神様にそうお願いした。

 拝殿の奥を見てみると、神様に祭られた沢山の李が、甘酸っぱい匂いを放ちなが
ら鎮座していた。