てるてる坊主 投稿者:雅 ノボル 投稿日:7月1日(土)00時33分
「うりゅー。雨だよぉ、けんたろ〜」
 スフィーの声に、俺は骨董品の整理の手を休めて、通りに面した窓ガラスのほう
を見る。
 すると、スフィーの言葉通り、雨が降りはじめていた。
 今日はいつになく雨音が大きく、ドアを締めたはずの店の中にまで、雨音が響く。
「あー……… こりゃぁ、今日はもう人がこないなぁ」
 雨が降ると、人足と言うのはとたんに途絶える。まぁ、不急品を売ってるお店だ
から仕方無い事だけど。

                Leaf presents "MAGICAL☆ANTIQUE" Side Story
                              てるてるぼうず
                Paperdoll as a Charm to Bring fine weather
                          Wrote By Noboru MIYABI

「うえー。明日、土曜日だよね? このまま明日も雨ふりっぱなしなのかなぁ?」
 スフィーが残念そうに言う。グエンディーナでは、天候も魔法によってコントロ
ールされているとかで、日本の豪雨などにはまだ慣れてない。
「スフィーはさ、魔法で天候をコントロールとかできるの?」
 ふっと思いついた事を口にしてみる。
「ん? 天候? 出来ないよ」
 にっこりあっさりキッパリと言うスフィー。
「まぁ出来なくは無いけど、はっきり言ってイヤ」
 と、今度は少し自慢そうに言いながらダメを押す。
「なんでなんだい?」
 出来るけどやらない、なんてちょっとよくわからないな。
「うー。だって、魔法力はいっぱい消費しちゃうし、この世界じゃ、あたし一人だ
ともって数分しかコントロールできないよ? それに、これ以上ちっちゃくなんて
なりたくないもん」
 あ、そうか。なるほど。それだけ力を消費する割には、メリットが無いわけね。
 ちなみに、スフィーの姿は、やっと12歳ぐらいになった所だ。
 また前みたいにガキンチョには戻りたく無いのだろう。本当は21だもんな。
「でも、明日は晴れてもらいたいんだろ、スフィーは?」
「うりゅりゅー。そうなんだけどさー」
 と言って、スフィーも外のほうを見る。
 相変わらず雨音は店の中にまで盛れ聞こえ、通りを行く人のながれも殆どない。
「明日は公園に行きたかったのになぁ」
 スフィーがため息をつく。
「ふぅん。じゃぁためしてみるか?」
 外を眺めるスフィーの落胆する姿を見て、俺はある事を思いついた。
「ためす? ためすって、何を?」
 早速スフィーが食いついてくる。
「そうだなぁ、こっちの世界での魔法かな?」

「で、これがその魔法なの?」
 心底疑った目で見るスフィー。
「まぁそう言うなって。これはこの国で昔から伝わる、伝統的なおまじないだよ」
 ティッシュペーパーと、タコ糸とマジックペン。
「けんたろ〜、本当に効くの? そのおまじない」
 あくまで信じる気のないスフィー。まぁ消極的なおまじないだしなぁ。
「魔法が効くか効かないかは、その人の持つ思いなんだろ? スフィー」
 そういって、あるものを作ってみせる。
 ティッシュを何枚も取り出した後、それを丸めて、小さい玉にする。それを核に
してティッシュをさらに被せていき、玉の部分をタコ糸で縛って、マジックペンで
目を書いてやる。
「ほら出来た」
「………なにこれ?」
 スフィーがものめずらしそうに、出来あがったものを見る。
「てるてる坊主って言うんだ」
 出来あがったてるてる坊主をスフィーに手渡す。
「テルテルボウズ? なにそれ?」
 頭にハテナマークを浮かべながら、スフィーが聞いてくる。
「てるてる坊主ってのは、この国のおまじないでね。作ったこれを軒先につるして
晴れるようにお願いすると、雨をやませてくれるっていわれがあるのさ」
「ふぅ〜ん」
 俺の話に聞き入るスフィー。
「じゃぁ、いまからそれをお店の前につるすの?」
「あぁ、そうだけど」
 スフィーの質問に頷くと、俺はてるてる坊主を店の軒先につけようとすると………
「あ、まって! あたしも作るッ!」
 スフィーは、急いでさっき見た作り方をもとに、てるてる坊主を作り始める。
 数分たって、スフィーは俺のよりも大きいてるてる坊主を作ってきた。
「だって、大きいほうがより願い事が叶えられるじゃない」
 スフィーは笑って、出来たての、大きくてちょっと形がアンバランスなてるてる
坊主を俺に手渡した。
「そうかもな」
 そして、俺はその2つのてるてる坊主を、店の軒先に吊るした。
「吊るした後はどうするの?」
 ちょっと濡れながらも、店の中に入ると、待っていたスフィーが聞いてくる。
「そうだなぁ……… そうだ、こう言うんだ」

 てるてる坊主、てる坊主。明日天気にしておくれ。

「ふぅん」
「な、おまじない。だろ?」
 スフィーは俺の言葉に、大きく頷いた。
「そうだね! 信じていれば叶うんでしょ、けんたろっ?」
 スフィーが会心の笑みをうかべる。要は信じること、何だってそれが大事なんだ。
だって、魔法と言うものは存在するんだから。
「じゃぁ、一緒に言おっか? けんたろ」
「あぁ」

『てるてる坊主、てる坊主。あーした天気にしておくれ〜』

「本当に、晴れると良いね?」
 スフィーがにこやかに言う。明日が晴れであることを、本当に信じている。
 てるてる坊主の魔法が、本物であることを信じて、想って。
「あぁ、そうだな」
 五月雨堂から、雨降る外を窓越しに見やる。
 雨はあいかわらず強く降っているけれど、俺とスフィーのてるてる坊主は、雨に
打たれながらも、二人の思いを空へと伝えていた。
 雨の音響く五月雨堂。
 二人の思いが作ったてるてる坊主の願いが届くことを、願っていた。

 翌朝、所々水溜りのある通りの骨董屋の軒先には、雨を吸って少し汚れた2つの
てるてる坊主が、朝日の中に輝いていた。