「ふわぁ〜」
炬燵の中であくびをする。
「暇だなぁ…………」
千鶴さんは仕事、梓は買い物、楓ちゃんは図書館だっけ……初音ちゃんは友達のところに遊びに行ったらしい。しかし、暇、と言ってみたところでこちらに友人知人の類があるわけでもなし、かといってこう寒いと出かける気にもならない。
そういうわけで、俺、柏木耕一は冬休みに訪れた柏木家の居間で、こうしてだらだらと過ごしているのだ。
「そーいや最近やってなかったなぁ」
思い立って、居間の茶棚の引き出しをごそごそとあさってみる。
ボールペンや鉛筆、メモ用紙なんかと一緒に、ソレはそこにあった。
『みみかき』
ごそごそ、と耳の穴に突っ込んだそれを適当にいじってみる。
「思ったほど溜まってないかな?」
確か二月ほど掃除してなかった気がする。なんせ、向こうで使ってた耳掻き、ポッキリと折れちまったからなぁ。百円ショップあたりですぐに買えることは買えるんだけど、なくてもそれほど困る、というものでもないし。
ガラガラ――
玄関が開く音がした。
誰か帰ってきたのか……梓か楓ちゃんかな?
「ただいま……」
「やぁ、おかえり、楓ちゃん」
障子を開けて入ってきた楓ちゃんに、ほじほじと耳掻きしながら挨拶する。
楓ちゃんはそんな俺をじーっと見つめた。
「な、なに?」ほじほじ
「みみかき……ですか?」
「うん……しばらくやってなかったからね」
「どれくらい、ですか?」
俺のそばに行儀よく正座して、楓ちゃんが尋ねてきた。
「んーと、耳掻き壊れたのが10月だから二ヶ月くらいかな」ほじほじ
楓ちゃんはかすかに下を向き、なにかを考えているようだった。
「…………ちょっと待ってください」
楓ちゃんは立ち上がり、先ほど俺が耳掻きを探し出した引き出しの隣のそれを開けた。
「ありました……」
振り向いた楓ちゃんの手の中にあるのは、ペンライトの胴体ほどの太さの筒の先に、透明な円錐がついていて、さらにその錘の先から伸びているのはやはり透明なプラスチックでできた――
「それ、耳掻き?」
「はい……これ、他の人の耳掃除をしてあげる用のです……」
耳掻きが付いているのとは反対側の筒の先をひねると、ぱっ、と耳掻きの先に灯りがともった。
どうやら、円錐の根本に豆電球が仕込まれているらしい。光は透明なプラスチックを伝って耳掻きに誘導され、その先端が光っているように見える――実際、光っているのだろう。
楓ちゃんは再び俺のそばに座ると、女の子座りをする。
「あの……どうぞ……」
ぽんぽん、と自分の脚を叩いて見せた。
「あ、やっぱりやってくれるの?」
こくん、と楓ちゃんは頷く。
「自分でやると、奥までちゃんとできないから……」
確かに――自分でやると怖くて、あまり奥まで突っ込まめないんだよなぁ。
「それじゃ、お願いするよ」
楓ちゃんに膝枕して貰い、横になる。
楓ちゃんの脚……やーらかいなぁ……
「じっとしててくださいね」
「はーい」
耳に異物が進入する感触が、少しこそばゆい。
やがて、先端が耳の中に触れ、そっと動き始める。
その振動が伝わり、ゴソゴソと音がする。
「耕一さん……」
「なに?」
「……ちゃんと耳掃除、した方がいいですよ?」
少し呆れたような楓ちゃんの声。
「……そんなにひどい?」
「はい……手前の方はともかく、奥の方は……」
一度耳掻きが外に出る。掻き出した耳垢を外に運んでるんだろう。
また耳掻きが耳の中に進入。そして、掘削、運搬。
何度か繰り返されるけど、全然痛くない……というか、気持ちいい。
しばらくして、作業が止まった。
「あの、反対向いてください……」
右側は終わったらしい。
楓ちゃんの膝の上で、くるりと反対を向く。
彼女の、折れそうなくらい細い腰が目の前に現れた。
ちょっぴり照れくさいというか、恥ずかしいというか――などと考えているうちに左の耳に耳掻きが進入してくる。繰り返される、作業。
「ふわぁ〜……あ、ごめん」
「いえ……あの、眠ってもいいですよ」
「あ、寝ちゃったらやりにくくないかな……?」
横目で楓ちゃんを見る。
「大丈夫ですよ……慣れてますから」
「そう?」
目線を戻して目を閉じると、すぐに眠気がおそってきた。
耳をくすぐる感触を感じながら、意識は眠りの底へと――
「ただいまー……あれ?」
「おかえり、初音」
「あー、お兄ちゃん、耳掻きの途中で寝ちゃったんだ」
「うん……初音、毛布持ってきてもらえる?」
「あ、うん、すぐに持ってくるねー」
「耕一さんの寝顔……かわいい……(ぽっ)」