「ひっくひっく」 「だから…泣きやんでくれよ、お前の勘違いだって言ってるじゃねーかよ」 浩之はあかりをなだめようと必死になっていた。 ことの発端は、いつもの事だ。 惚れっぽいのではなくて、『惚れられっぽい』彼は、しかも懲りもせず手を出すクセが治らない。 公認じゃないのをいいことに、同級生はほとんど全員落ちているといっても過言ではない。 そんな浩之が、ついこの間部屋に連れ込んだ保科智子の事でけんかになっていた。 誰が見たって女物の、一人暮らし(笑)をしている浩之のとこにあるのが不自然な傘。 あかりはそれをめざとく見つけて、浩之を追求していた。 「だーからー、委員長に傘を貸りただけだってば」 白々しく嘘をつく浩之。 半分位嘘で、半分ぐらい自分の事を思っているのは判っているので全力で否定はしないのが――悪い癖。 そもそもどうでもいいならここまで言い訳しないだろう。 ――でも だからって許す気になれるはずはない。 そもそも、彼女は敵だ。 胸は敵だ。 「…浩之ちゃん」 ひこひことリボンを耳のように揺らして、彼女は顔を上げた。 今のところ大きな証拠はない。 でも確証はある――『委員長』こと保科智子の事については調べはついている。 それだけでは足りない。 なんとしても浩之を追いつめてぎゃふんと(古典的)言わせなければ。 ――ふぁいと 少しだけがっつぽーず(心の中で)。 「雨降っていたのって、もう三日以上前だよね」 う。 「あ、はははは、うん、返すの忘れててさぁ」 我ながら白々しいか。と浩之は頬を引きつらせるが、引く気はない。 しかしもちろん、それはあかりも同じ事。 「……智子ちゃんに聞いたけど、やっぱり否定してたよ」 ほっとする雰囲気を彼女は見逃さない。 「浩之ちゃん。…けど、じゃぁなんで彼女の傘があるの?」 「だから借りたって言ってるじゃないか、この間の雨の日に」 あかりは冷たい眼差しを彼に向ける。 「ほんと?」 「ほんとほんと。嘘言わないって」 「ふーん。…やっぱりそうなんだ」 ジト目。 心当たりがあるのでどうもこの目に弱い。 ずいっと近寄ってくるあかり。 「そーかそっか、二股どころか、あたし含めて三人も、ねぇ」 ぎくり 「な、なにを根拠に」 「だから言ったじゃない、『智子ちゃんは否定した』って」 「え?」 「保科さん、浩之ちゃんには傘を貸してないんだって。……それに、彼女はいるか柄の傘なんか持ってないわよ」 ぎくぎくぎく 浩之がぎくついているうちに、あかりの両拳がぽきぽきと音を立てている。 「弁解の余地は、ないよね?浩之ちゃん?」 「浩之さんの莫迦」 傘にはきちんと名前が記名されていた。 姫川琴音、と。