雨。 完全な無音ではない、優しい静寂。 灰色のくすんだ静寂の中で、二人の人影が向かい合っている。 無言。 ただひたすらに打ち付ける冷たい雨が、二人の身体を冷やしていく。 一人は驚いた――それも僅かに目を丸くした感じで澄まし顔。 もう一人は――こちらは女性だが、逆に眉を顰めて咎めるような表情。 追いかけさせた女に、追いかけてくれた男。 男が必死になって口を動かしても、もう女性には届かない。 いや、男の意志は必死でも、彼の奥底ではそれを認めようとしない何かがある。 僅かに脈打つそれは――本性? にっこりわらいかけて ニヤリトクチモトヲユガメテ やさしいことばをつむいで ホンノウトヨクボウニミヲマカセテ 本当なら追いかけて欲しくなどなかった。 追いかけてくるなんて、女の子の気を引くようなまねをさせたくなかった。 男の性格を熟知しているとは言い難かったが、女にはそれが気にかかった。 優しい人。 評判通り追いかけてきてくれた。 冷たい雨の中抱きしめることすら忘れて。 ただひたすら、 驚きを隠さない表情を浮かべて。 その表情が何に対する驚きなのか、女は考えた。 いや、知っていた。 何故? 知り得ることはなかったはずだ。 それに対する驚き? いや。 女がそれを知っていたのは、学校中の噂だったから――曰く妹に狂っていると――。 そうではない。 男が、『何故こんなところでこんな女のために』という自問する時の顔だ。 冷たい。 雨が。 頬を、 つたって。http://www.interq.or.jp/mercury/wizard/