── 私の心の中には何時も雨が降る ── “私”は何時も独りでした。 私の周りには色々な人が大勢いるというのに。 でもその人たちは“私”を見ていません。 私を取り巻く家名、財産、容姿、そして魔法…そんなものを見ています。 誰も“私”を見てくれません、 誰も“私”の声を聞いてくれません、 ……誰も“私”を抱きしめてはくれません。 だから心の中に雨を降らせます。 そして“私”は雨の中に独り立っています、傘も差さずに。 心の中に雨を降らせば、水煙で周りのものが霞んで見え、 心の中に雨を降らせば、雨音で騒めく音がかき消され、 心の中に雨を降らせば、……“私”が泣いていても誰にも知られなくてすみます。 “私”は雨にそぼ濡れて、冷たい体は寒さに震え、貌は凍りつき、声は嗄れ果ててしまいましたけど、 それでも仕方がなかった、“私”が私でいるために。 時に妹や執事が“私”に傘を翳してくれたけど、芯まで冷え切った“私”を温めることはできませんでした。 だけど彼なら……。 彼は私を“私”として見てくれます。 彼は“私”の声を聞いてくれます。 彼は私を……“ぐりぐり”してくれました。 彼とお話をする時、私の心の中の重く垂れ込めた雨雲の合間から一筋の陽の光が差す…… そんな光景が、そんな想いが心に浮かびました。 そして“私”の中に温もりがそっと染み込むのを…確かに感じました。 初めて心の内よりわきあがる熱望。 もっと彼を見つめたい。 もっと彼の声を聞きたい。 もっと……ずっと彼のそばにいたい。 あの中庭の日差しよりもやさしくあたたかい彼のそばに。 彼なら“私”を寒い雨空から日のあたる場所へ連れ出してくれる。 そして陽だまりの中彼の温もりにずっと包まれていたい……こんな想い初めてです。 だけど……怖い。 もしかしたら私の勝手な思い込みかもしれません。 彼は気まぐれに“私”に傘を翳してくれただけなのかも知れません。 私はずっと彼のそばにいたいけれど、私は彼にとってそれほどの存在なのでしょうか。 彼は私とこれからもずっと一緒にいてくれるのでしょうか。 知りたい、だけど……怖い。 私だって“私”をこんなに冷たく濡らす心の雨なんか止めてみたい。 だけどその時“私”はやはり独りなのだとわかったら──もしそうであるのなら…… もう“私”は私でいられません。 心の雨で独りであることから目をそらしていられたのですから。 怖い…だけど…、いえだからこそ……。 ──だから確かめます、彼の心を、彼の“想い”を。 今日ここ屋上に彼を招いて“降雨の儀式”を行います。 “降雨の儀式”──雨乞いは高度な魔法です。 古より旱の折多くの人の“想い”を力に換えて始めて完成する魔法。 私の魔法の力だけでは何も起こらないでしょう。 だけど……もしも、もし一人でも私を、“私”を心から信じてくれる人がいるのなら、 魔法は信じてくれなくても、“私”を本当に心から信じてくれて、そして二人の“想い”が一つになれば、 きっとこの魔法は……。 ガチャ 屋上の扉からこの雲ひとつない春の青空より爽やかな笑顔が現れる。 今、“儀式”が始まる。 そしてほんの一時だけ日向雨が私たちを濡らし、 ……私の心の中の雨も止みました。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― どうも第3接触です。 気付けば締め切り間近じゃないですか。 急いで仕立て上げたのですが…どうも頭の中のイメージとちょっとずれてしまいます。 それでもこれが今の私の精一杯です。 駆け込み乗車ですがどうぞよろしく。 タイトル:そらのあめ、こころのはれ ジャンル:TH/芹香