カスタムパーツ (お題『傘』) 投稿者:助造 投稿日:6月15日(金)22時41分
 ざああ……
 ざああ……


 昨日から雨が降っている…。
 天気予報によると昨日から関東地方は入梅したらしい。
 雨だって降るワケだ。
 傘をとって玄関を出た。
 今日は珍しくあかりのヤツがいなかった。
 雨が降っていたのもあって先に行ったのかもしれない。
 

 傘を差しながら、学校へと続く坂道を登る。
 ふと、見覚えのある後姿を見つけた。
 あれは……マルチだ。
 傘で頭は隠れているが、俺にはひと目でわかる。
 なぜならマルチの目印であるハイソックスを履いているからだ。

「いよう、マルチぃ」
「え? あ、その声は……浩之さん!?」
 
 俺が後ろから声をかけると、マルチが振り向いた。
 マルチは自らの髪の色と同じ緑の傘を差していた。
 俺的には、マルチにはピンク系の色の傘が似合うだろう、と思ったりしていたのだが、
意外と緑色も似合っている。新発見だ。

「その傘、意外とお前に似合ってるよな…」
「そうですか? ありがとうございますー」

 嬉しそうに笑うマルチ。



「この傘、主任が私に新しく『付けて』くれたものなんですよー」



 …え?


「付けてくれた?」
「はいー」
 
 そう言って俺に腕を見せるマルチ。
 …手首から上がなくなって、代わりに傘が生えていた。

「傘が…手から生えてるのか…?」
「そうなんですよー」
 何が嬉しいのかわからないが、嬉しそうに笑っているマルチ。

「…で、でもよ、そんなの別に付けなくても傘持ちゃいいんじゃ…」
「ふふふ…実はこれには秘密機能があるんですよー!」
「ひみつきのう、だとぉ?」
「そうなんですー! では、浩之さんだけに特別大公開、大鼻血サービスですー」

 マルチがワケのわからないことを言って手にあるボタンを押す。



 ぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃんんんんんんんんんんんん!!!!!

 ぎゅごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご!!!!!!!!



「…………って、ドリルーーーー!!!???」

 俺は思わずツッコミの姿勢をとっていた。

 なんとマルチの手から生えた傘が高速回転を始めたのだ。
 その様子は何となくドリルっぽい。

 
 ガキィンッ!! ガンッ! ガンッ!! ガツゥンッ!! ガシャンッ!!!


 傘の端がガードレールに当たってけたたましい金属音が鳴った。
 …何故か傘の方は全くの無傷である。

「あの馬何しやがった…。この傘、ただの傘じゃねぇ…!」

 焦る俺。
 あの馬の発明はメイドロボ以外に碌なものがないらしい。

「はわ〜! 傘がドリルになりましたー!」
「マルチ、それを止めろ!!」

 ドリルと化した傘は止まらない。
 前を通っていた通行人の人に傘の先端がうっかり当たった。

「ぐぼうべへげぇがふっ!」

 ……その人は謎の奇声を発して倒れた。
 背中に穴があいていたような気がした。
 このドリル、結構キクらしい。


 ……いや、ドリルだけならまだいい。(?)
 マルチが人に当てるつもりがないのならそれで済むのだ。

 問題は水飛沫である。
 雨の降っている時に傘をぐるぐる回すと、傘の上の水滴が周りに水飛沫が跳んでいくのだ。
 俺も子どもの頃にやって、周りの人に睨まれたことがある。
 特に、集団で登校してたりする時などの、人が密集している場面でこれをやるのはまずい。
 周りの人に水飛沫が飛んで、濡れてしまうからである。

「はわわ〜! すごいですぅ〜!」

 子どもがぐるぐると傘を回すだけでそうなるのだ。
 この場合、マルチの傘は高性能モーターか何かで回転しているに違いないので、飛沫が飛んでくる勢いも
物凄いものとなっている。
 雨もかなりの勢いで降ってきているので、その飛沫の粒が大きい。

「痛っ! マ、マルチぃ! そ、それを止め――イタタっ! 痛ぇよ!」

 勢いのついた飛沫は、当たると痛かった。
 いてぇ、いてぇと必死にマルチに呼びかけるが…


「わ〜! すごいです〜! ぐるぐる回ってます〜!!」

 やけに輝いた顔で回っている傘を見つめるマルチ。

「星のカー○ィみたいですー!」
「マ、マルチッ――痛っ! は、速くそれを――痛ぇっ! 止め――」



 ぎゅごごごごごごごごごごごごごごご!!!!!!!!

 がががががががちゅぃぃぃぃぃぃんんんん!!!!!!!



「え〜!? 浩之さーん! よく聞こえませ〜ん!!!」

 傘の回転音が邪魔しているのである。

「だから――痛っ! 痛たッ! それを仕舞え――痛いってば!!」
「聞こえませぇぇぇん!!」






 ―――二人のやり取りは予鈴が鳴っても続いていた。
 


「だから――いてっ! 傘を――痛っ! 止めろ――だから痛いってば!!」
「はわわ〜! 面白いです〜!!」



                                  終