ざああ…… ざああ…… 昨日から雨が降っている…。 天気予報によると昨日から関東地方は入梅したらしい。 雨だって降るワケだ。 傘をとって玄関を出た。 今日は珍しくあかりのヤツがいなかった。 雨が降っていたのもあって先に行ったのかもしれない。 傘を差しながら、学校へと続く坂道を登る。 ふと、見覚えのある後姿を見つけた。 あれは……マルチだ。 傘で頭は隠れているが、俺にはひと目でわかる。 なぜならマルチの目印であるハイソックスを履いているからだ。 「いよう、マルチぃ」 「え? あ、その声は……浩之さん!?」 俺が後ろから声をかけると、マルチが振り向いた。 マルチは自らの髪の色と同じ緑の傘を差していた。 俺的には、マルチにはピンク系の色の傘が似合うだろう、と思ったりしていたのだが、 意外と緑色も似合っている。新発見だ。 「その傘、意外とお前に似合ってるよな…」 「そうですか? ありがとうございますー」 嬉しそうに笑うマルチ。 「この傘、主任が私に新しく『付けて』くれたものなんですよー」 …え? 「付けてくれた?」 「はいー」 そう言って俺に腕を見せるマルチ。 …手首から上がなくなって、代わりに傘が生えていた。 「傘が…手から生えてるのか…?」 「そうなんですよー」 何が嬉しいのかわからないが、嬉しそうに笑っているマルチ。 「…で、でもよ、そんなの別に付けなくても傘持ちゃいいんじゃ…」 「ふふふ…実はこれには秘密機能があるんですよー!」 「ひみつきのう、だとぉ?」 「そうなんですー! では、浩之さんだけに特別大公開、大鼻血サービスですー」 マルチがワケのわからないことを言って手にあるボタンを押す。 ぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃんんんんんんんんんんんん!!!!! ぎゅごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご!!!!!!!! 「…………って、ドリルーーーー!!!???」 俺は思わずツッコミの姿勢をとっていた。 なんとマルチの手から生えた傘が高速回転を始めたのだ。 その様子は何となくドリルっぽい。 ガキィンッ!! ガンッ! ガンッ!! ガツゥンッ!! ガシャンッ!!! 傘の端がガードレールに当たってけたたましい金属音が鳴った。 …何故か傘の方は全くの無傷である。 「あの馬何しやがった…。この傘、ただの傘じゃねぇ…!」 焦る俺。 あの馬の発明はメイドロボ以外に碌なものがないらしい。 「はわ〜! 傘がドリルになりましたー!」 「マルチ、それを止めろ!!」 ドリルと化した傘は止まらない。 前を通っていた通行人の人に傘の先端がうっかり当たった。 「ぐぼうべへげぇがふっ!」 ……その人は謎の奇声を発して倒れた。 背中に穴があいていたような気がした。 このドリル、結構キクらしい。 ……いや、ドリルだけならまだいい。(?) マルチが人に当てるつもりがないのならそれで済むのだ。 問題は水飛沫である。 雨の降っている時に傘をぐるぐる回すと、傘の上の水滴が周りに水飛沫が跳んでいくのだ。 俺も子どもの頃にやって、周りの人に睨まれたことがある。 特に、集団で登校してたりする時などの、人が密集している場面でこれをやるのはまずい。 周りの人に水飛沫が飛んで、濡れてしまうからである。 「はわわ〜! すごいですぅ〜!」 子どもがぐるぐると傘を回すだけでそうなるのだ。 この場合、マルチの傘は高性能モーターか何かで回転しているに違いないので、飛沫が飛んでくる勢いも 物凄いものとなっている。 雨もかなりの勢いで降ってきているので、その飛沫の粒が大きい。 「痛っ! マ、マルチぃ! そ、それを止め――イタタっ! 痛ぇよ!」 勢いのついた飛沫は、当たると痛かった。 いてぇ、いてぇと必死にマルチに呼びかけるが… 「わ〜! すごいです〜! ぐるぐる回ってます〜!!」 やけに輝いた顔で回っている傘を見つめるマルチ。 「星のカー○ィみたいですー!」 「マ、マルチッ――痛っ! は、速くそれを――痛ぇっ! 止め――」 ぎゅごごごごごごごごごごごごごごご!!!!!!!! がががががががちゅぃぃぃぃぃぃんんんん!!!!!!! 「え〜!? 浩之さーん! よく聞こえませ〜ん!!!」 傘の回転音が邪魔しているのである。 「だから――痛っ! 痛たッ! それを仕舞え――痛いってば!!」 「聞こえませぇぇぇん!!」 ―――二人のやり取りは予鈴が鳴っても続いていた。 「だから――いてっ! 傘を――痛っ! 止めろ――だから痛いってば!!」 「はわわ〜! 面白いです〜!!」 終