あかりと餅(一月のお題「餅」サンプルSS) 投稿者:助造 投稿日:1月1日(月)19時52分
「浩之ちゃ〜ん!」

あかりの呼ぶ声が聞こえる。
まだベッドの中にいた俺はその声で目が覚めた。

「んあ…何だ一体……今日は正月だぞ…」

正月とは言え、両親は家に帰っては来ない。よって一人だ。
まあ、一人のほうが気楽でいいしな。
俺はどうも親戚とかが集まって、飲んだり騒いだりするのは苦手だ。

「浩之ちゃ〜ん! 起きてる〜!?」

おっと、起きたばかりだからかいつの間にか思考が
別の所にいっていた。

そうだ、そうだ。あかりが俺を呼んでるんだった。

「だけど…あいつ、何でこんな日に俺の家に来るんだ?
 おばさん達と何かしたりとかしねぇのか…?」

「浩之ちゃ〜ん!! 起きてよぉ〜!」

恋人になった今でも、あかりのちゃん付けの癖は直っていない。

「…ったく、いつも言ってんのに……」

俺は渋々ベッドから体を起こすと玄関に向かった。



「あ、おはよう。浩之ちゃん。」

「こんな朝から…一体なんだよ…」

ダルそうにあくびをしながらあかりに言う。

「えっ? だって昨日、浩之ちゃんが正月も誰も家にいない、って言ってたから…」

あかりは何に使うのかわからない機械と、米の袋を持っていた。

「お餅と…お雑煮作ってあげようと…思って…」

「餅と雑煮ぃ……?」

「うん、迷惑…だったかな…?」

上目遣いに俺の顔を見上げる。
俺はあかりの頭に手をおいて言った。

「馬鹿言うな。迷惑なわけねぇだろ? ほら、とっとと上がれよ」

そう言ってあかりの頭を少し撫でてやる。

「あ…、うんっ!」

あかりは嬉しそうに微笑んだ。



いつものエプロンを着て、台所に行くあかり。

「それにしても……お前この機械重くなかったか?」

あかりが持ってきたのは餅を作る機械だった。
なんでも、炊いたもち米だけで作る事ができるらしい。

だが、この機械の重さだ。俺が持ってみても、少し重い。
それをただでさえ、とろくて、力もないあかりがよくここまでもって来れたもんだ。

「餅なんかお前の家にもあるだろうし、売ってもあるだろ?」

「でも…、浩之ちゃんにおいしいお雑煮食べて欲しかったし…」

「だったら、浩之ちゃんの家で作った方がおいしいかな〜、って…。
 だから…浩之ちゃんのために頑張って持ってきたんだ。」

えへへ、と照れ笑いをするあかり。

「……それは…そうだな。」

「うん、だから今から作ろ?」

「おう、まかせろ。」


そうやって俺たちの餅作り&雑煮作りが始まった。


あかりが持ってきたもち米を洗い、炊く準備をしている。
俺にも何か手伝う事はないか、と聞いたがあかりは
あとでお願いするよ、と言って俺をソファに向かわせた。

「…………………」

どのチャンネルも新年の特別番組しかやってない。

「よし、と……。あとはお米が炊けるのを待たなきゃ…。」

あかりが準備を終え、俺のところに来る。

「隣り、いいかな?」

「おう、座れ座れ。」

「うん!」



「な〜、あかり。」

しばらくして、俺があかりに話し掛ける。

「なに?」

「米はいつ炊き上がるんだ?」

「えと…あと、20分くらいかな…?」

「ヒマじゃねぇか…?」

「え、ううん。私は楽しいよ?」

そう言われれば、さっきからあかりはニコニコしている。

「……だって、隣りに浩之ちゃんがいるから…」

そう言って恥ずかしそうに笑う。

「……恥ずかしい事ばっか言うな。」

ぺしっ

「あっ!」

照れ隠しに軽く頭を叩いてやった。

「えへへ…」

あかりはそんな俺の反応に満足したようだ。
くそ、何かしてやられた気がするな。

そんな事をしながら時間が経っていった。



「そろそろ炊き上がった時間かな?」

あかりがそう言って立つ。

「うん、上出来だよ。」

あかりがそれを取り出し、機械の中に詰め込んでいく。

「これが餅になるんだよなあ…」

機械の中に入ったもち米は、綺麗にこねられた餅になって
数分後には出てくるのだ。

あかりが言うには味ではついた餅にはかなわないが、
機械だけに米の一つ一つがきちんとつかれた餅になるんだそうだ。
餅のきめ細かさ、という点ではこっちの方が上らしい。



「出来たよ〜」

あかりが機械の中から餅を取り出す。

「おっ、出来たのか?」

「うん、でも今から形を整えていかなくっちゃ。」

「そうか、それを俺に手伝えと言うんだな?」

「え、う、うん。そのつもりだったんだけど……いいかな?」

「いいぞ。どうせテレビ見てても面白くねぇし。」

「じゃ、一緒にやろうね。」



あかりと一緒にでっかい餅をちぎり、小さめのまるい形の餅を作る。

初めは熱い餅も、手のひらの上で転がしたりしていくうちに
ちょうどいい温度になってくる。

こねこね、こねこね、こねこね…

台所に並んで餅をこねる二人。
なんか妙に俺たちらしくて俺は苦笑した。


「よし、あとは煮るだけだよ。」

あかりが餅を数個とって、鍋に入れ、さっきから煮ていた
他の具と共にかき混ぜる。


俺はそんなあかりの後ろにこっそりと立つ。
あかりは全然俺に気付いていない。

そして俺はあかりの頬を引っ張った。

「ひ、ひろゆきひゃん〜!」

「おお、まるで餅のようだ。」

そうやって俺は頬を少しつねってやる。

「わ…!」

つねつね、つねつね、つねつね…


「ふう、満足だ。」

俺はそう言ってあかりの頬から手を離した。

「うう〜」

あかりが少し恨めしそうに俺の顔を見る。

「浩之ちゃんどうしてこんな事するの〜…」

「いや、急にお前の頬をつねりたくなったんだ。悪い悪い。」

俺は笑いながら、あかりは少し拗ねたような顔で雑煮を見ていた。



「出来たよ。」

あかりがそう言って、テーブルに座っていた俺の前に茶碗を置く。
見るからにうまそうな雑煮が湯気を立てていた。

「おお、なんかスゲェうまそうだな。」

「えへへ…頑張って作ったから…。」

照れ笑いをするあかり。
俺は早速、箸をつける。

「どうかな…?」

あかりが緊張の面持ちで訊く。

「……うまい! ハッキリ言って俺が今まで食ってきた雑煮とは
 わけが違うな。流石はあかりだな。」

「えへへ…」

あかりも照れ笑いをしながら箸をすすめる。


俺はあっという間に全部平らげてしまった。


「ごちそうさまでした。」

「ふふっ、おそまつさまでした。」

あかりが片付けを始める。



「おい、あかり。」

「うん? なに?」

後片付けを終えたあかりが俺の方に来る。


「今日はご馳走になったんで俺がご褒美をやろう。」

「えっ?」

「ご褒美は……」

「ご褒美は?」

「あ〜、……明日まで俺の家にいていいで賞をお前に贈ろう。」

「明日まで…浩之ちゃんの家にいていいで賞?」

「…そ、今日は……俺の家に泊まってけ。」


「………え…!」


俺の言ってる意味がわかると、あかりの顔は真っ赤になっていく。

「………うん、ありがとう貰っておくね。」

あかりはそう言って真っ赤になった顔で微笑んだ。


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これは一月のお題「餅」のサンプルSSです。


どもども、助造です。

ほっぺたつねつねが書きたかっただけなのですが、
妙に長くなってしまいました。
書いてて浩之ちゃんを徹底的に破壊してみたくなったりして…(爆)