"I met  you last  X’mas"(12月のお題「クリスマス」サンプルSS) 投稿者:助造 投稿日:12月2日(土)00時12分
あの日、私は真冬の街中で一人で立っていた。

私は震えていた。

雪が降っていたので、そのせいもあったのかもしれない。

でも、この体の芯からくる寒さは雪の寒さじゃなかった。

寂しさ。

心の中から来るこの寒さはいくら厚着をしても温まらない。


お母さんが入院して

家族の全てを私が背負う形になった

正直言って辛かった。

不安に押しつぶされそうだった。

弟達の前では涙は見せなかったけど

一人になる夜、私の枕はいつも濡れていたと思う。


前を通っていく幸せそうな横顔。

楽しそうな家族。

そんな表情は今の私には出来そうにもないと思った。

皆が幸せに浸っている聖夜。

私はそんな日も一人だった。


「ケーキ一個。」

不意に声を掛けられた。

その声の主がお客さんだとわかると

「は、はいっ!ケーキですね!ありがとうございます!」

私は笑って答えた。

その時、嫌だな、と思った。

最近は心から笑っていない気がする。

作り笑いばかりだ。


手袋を外してケーキの山に手を伸ばす。

でも、寒さに震えた手は私の思うように動かず・・・

「あっ!!」

私はケーキの山を崩してしまった・・・


私は目を瞑っていた。

どうして、どうして私は・・・

そんな想いが私を責める。

目なんて開けたくなかった。


きっと目を開けるとそこにはグチャグチャになったケーキの山。

何やってんだよ・・・といった感じの表情のお客さん。

怒りに顔が紅潮している店長さん。

全てが悪い方向に進んでいく・・・

私の一つの失敗で。


聖夜は神様が奇跡をくれる日。

小さい頃読んだクリスマスの本にはいつもそんなことが書いてあった。

不幸な主人公を可哀相に思った神様が主人公を助けてくれるんだ。

でも

お話のようにはうまくいかない・・・

そう思ってた。


「おい・・・ちょっと・・・」

お客さんの声。

私は目を開ける。

たとえそれが見たくない光景だったとしても・・・

でも、そこには―――


「ちょっと・・・支えてくんねーか?・・・」


初めのうちは何がなんだかわからなかった。

私が思ってたような光景はなかった。

ケーキの山は崩れてなんかなかった。

「え・・・・?」

どうしてだろう?

私はケーキの方を見た。


さっきのお客さんが・・・支えてくれていた。


「あ!は、はい!!」

私は急いでお客さんに駆け寄った。

嬉しかった。

本当に嬉しかった。


「ありがとうございます!ありがとうございます!!」

私は何度もその人にお礼を言った。

その人はそんな私を見て苦笑していた。

あの時お礼を言ってた時は

久しぶりに心から笑えた気がする。


ただ一つ落ちてしまったケーキの箱。
 
きっと中身はグチャグチャだろう・・・
 
でも、お客さんはそれを手にとり言った。
 
「これ、もらうわ」
 
「えっ!?そ、そんな御取り替えしますから!」
 
「いや、いいよ・・・それよりこんな日まで大変だな 
 売り切るまで頑張れよ!」
 
お客さんはそう言って走り去っていった。


奇跡。

そんな言葉が私の頭の中をよぎった。

それを聞いたら大げさに思う人もいるかもしれない。

たかがそれくらいのことで・・・と。

でも、私にはそれくらいのことじゃなかった。

神様がくれた聖夜の奇跡。

私にとってはそれだった。






今年もクリスマスはやってきた。

きっと私は幸せな顔をしているはず。

「今日は何処に行こうか?理緒ちゃん」

「う〜ん・・・私、ケーキが食べたいよ。」

「ケーキ?うん、OK!・・・でも珍しいな、理緒ちゃんから何処かに
 行きたいって言ってくれるなんて」

「うん、私、ケーキが好きだから!」

「それに・・・」


「クリスマスケーキは藤田君との最初の思い出だから・・・」




「あ・・・雪・・・」

「ホントだな・・・」

今年のクリスマスも雪が降っていた。

でも、去年のクリスマスとは違う。

寂しくなんかない。

一人なんかじゃない。


隣りにはあなたがいるから・・・



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これは12月のお題「クリスマス」のサンプルSSです。

どーも、助造です。
今回でサンプル二回目。この前から参加し始めたのに(笑)

自分で書いてて うわぁ!!何に浸ってんだよ〜!なSSですなぁ。(爆)
いやはや、やはりシリアスってのは自分には不似合いですわ。

しかし、理緒のシリアスってあまり見かけませんね。
どっちかっつーとギャグキャラですからね、彼女は(笑)