「はぁはぁ、間に合った?} 「まだまだ大丈夫なようです」 「はぁ、よかった」 「では、はじまりはじまり」 2月某日 客間 所狭しと箱が並べてある。 その間を幾人のメイドさん。いや、幾体のメイドロボが間を抜けて働いている。 「毎度ながら豪勢というか、やりすぎというか」 その家の一人娘がその場を見渡し、そうつぶやく。 「せっかく曽祖父さまが買ってくれたものを・・・」 そのメイドロボ達を指示している赤い角付きHM−セリオ―が振り向く。 「買ってくれたのはありがたいと思うけど、こんな何人も手伝ってもらう程豪勢でなくても」 「確かに雛飾りや五月飾りは本人の意思は名前と同じように、まったく関与できませんからね」 「そうなのよ。友達呼んだときの肩身の狭い、というか実際狭苦しい思いは・・・」 確かに一般家庭よりは多少広い家とはいえ、こんなに豪勢なのは客間にいっぱいになる。 「孫というものは子供と違い、本人が苦労しないぶんかわいいですからね」 周りの頼んで手伝いにきてもらった妹達に指示しながら答える。 「これってやっぱりおじい様とかが買ってくれるものなの?」 「はい、家に入った方の親が買う風潮ですね」 「だから家のは来栖川家特注の品というわけね」 「いえ、特注ではなく、頂いた物をいくつかをコンペで選んだらしいです」 さも当然のように答える。 「そりゃあ、天下の来栖川財閥会長の初曾孫。これで気に入れられば・・・」 「来栖川デパートのメイン商品に、ってことね」 「どんな事でも商業チャンスにしますから」 「日本的ねぇ」 「そうですね」 「で、お母さんの雛人形は?」 雛飾りの茶道具か何かを丁寧に置きながら聞く。 「綾香様のですか? 奥様は海外育ちですので特に買ってもらっては無いらしいです」 その位置を調整しつつ答える。 「芹香おば、お姉さんと一緒?」 怖いので言い直す。 「普通は一家に一つあれば好い物ですから」 「そうだよね。二つもあったら大変だよね」 そう、それを見上げながら・・・。 「今日はご協力ありがとうございました」 手伝ってくれた彼女の妹達に礼を言う。 「ありがとうね。本家の仕事もあるでしょう?」 「いえ、執事長様が調整してくれましたので」 「さすが長瀬さん。うちの事まで考えてくれてるんだね」 「私の家は五月飾りしかありませんので」 一人姉がいた。マルチだ。 「あっ、マルチさんの所はそうですね。よろしければいつでも見に来てください」 「はい、ありがとうございます」 「ただいま。あれ、セリオ。あなたのは出さないの?」 綾香が仕事を終えて帰ってきた。 「お母さん、お帰り。ちょうど終わったのを見繕ったように帰ってきたね」 「お邪魔しています」 「わ、手伝いに来てくれたの。ありがとね」 少し人の多さに驚きつつ礼を言う。 「で、お姉様のお雛飾りというのは?」 「それはですね・・・」 「駄目です。マルチさん。それ以上言っては」 セリオがマルチの口をふさぐ。 「ちょっと待ってね。今出してくるから」 綾香がそう言って納屋のほうに向かう。 「駄目です。綾香様」 「みんな。セリオ姉さん押さえといて」 「はい、わかりました」 わらわらとみんなでセリオの進路をふさぐ。 「みなさん、そんなに見たいのですか」 「ええ、セリオ姉さんの雛人形も見てみたいから」 小悪魔的微笑を浮かべつつ答える。 「私達も見てみたいです」 セリオの妹達も答える。 「別に恥ずかしい事なんて無いと思うんですが」 今、この場にいる最年長がそうつぶやく。 「有ったわよ。二つとも」 綾香がりんご箱と自走する箱を持って戻ってきた。 「早く見せて」 「待ってね」 皆が見守る中、綾香が箱から出す。 「これよ。可愛いでしょ」 中から出てきたのは折り紙のや、フェルトや、粘土や、毛糸でできた夫婦雛の数々。 「恥ずかしいです・・・。」 「そんな事無い。素敵な雛人形だよ」 そのお手製の雛人形をやさしく抱えながら言う。 「これは確か・・・ 来栖川家。雛人形前。 芹香、綾香の前にセリオが後に何かを隠しながらやってくる。 「芹香様、綾香様」 「なに、セリオ」 「こ、これを」 そう言って後から何かを出す。 「ひな祭り前に隠れて何かやってるかと思ったら」 綾香がそれを受け取る。 「この位しか恩返しでき無いと思いましたから」 芹香、それを覗きこむ。 「・・・・」 「素敵ですね、そうね。手作りよね」 「はい。自分の持てる力で。見様見真似かもしれませんけど。お気に召されませんでしたか?」 「・・・・」 芹香、やさしく微笑む。 「私も姉さんもホントうれしいわ」 綾香もやさしく微笑む。 「ではこれで」 「・・・・」 「ひな祭りは女の子の祭りだから、姉さん、そうよね。セリオも一緒にやろう」 「わ、私は」 「セリオ、行こう」 「・・・いいのですか?」 「・・・・」 「そう、セリオは私と姉さんの大切な友達よ」 「はい、ありがとうございます」 ・・・う〜ん。懐かしいわ」 「あっ、綾香様」 「それから毎年、結婚するまで作ってくれて」 「いつ聞いても良い話です」 「マルチお姉さん。ハンカチを」 「ありがとうございます」 マルチが彼女の妹の一人からハンカチを渡される。 「何でそれを今まで出さなかったの」 「そ、それは」 「忙しくて毎年セリオに雛飾りの出し入れ頼んでたから、今まで何所にあるか知らなかったけど、どうして?」 「・・・そんな立派な雛飾りの隣に置くのが恐れ多くて」 「ううん。そんな事無い。そんな事無いよ」 「そうよね。どちらも真心込めて作ったもの、優越なんて無いわ」 「あ、綾香様。お嬢様」 「で、そちらのほうは?」 一人、涙をぬぐいながらもう一つの自走する箱のほうを指差す。 「これはね。馬軍団からの」 「所長からですか?」 「開けてみましょう」 「さぞすごいものでしょう」 彼女達は協力して箱を開けようとする。 「今の話の後では・・・」 「こちらもすごいものですよ」 マルチはそう言うが、ほかの3人はげんなりとした表情で見る。 「こ、これは」 「全部フィギュアだからね」 綾香、かなりげんなりとした表情で言う。 「流石にこれは・・・」 「恥ずかしいわよね」 二人も同じように言う。 「すごいです。全部着物が丁寧に作ってあります」 「それだけではないです。みんなマルチお姉様、セリオお姉様の顔になってます」 「この飾りはちゃんとギミック付きです」 いや、彼女達は感心しているようだ。 「そうか、そうよね。マルチとセリオの妹だものね」 「どういう意味ですか?」 ジト目で綾香をにらむ。 「いや別に」 「あっ、そういえば所長から綾香様にと。えーと、これです」 「いやな予感」 「メモリーカードですか。再生してみましょう」 「何これ?」 ディスプレイを覗きこみながらそう述べる。 「私とセリオさんのちっちゃいのがいっぱいいます」 「彼女達が雛人形ですか」 「1X年前と対して変わってないわね。あのおっさん達は」 「お母さん、それって」 「所長さん達も作品出したんですよ」 「妹達による1/1雛人形です」 「・・・」 「いい話だったのに」 「最後には所詮。こうゆうオチね」 -----------------------------------------------------------------------