セリオファイル16 投稿者:ジーク・リーフ 投稿日:3月29日(金)08時38分
 「はぁはぁ、間に合った?}
 「まだまだ大丈夫なようです」
 「はぁ、よかった」
 「では、はじまりはじまり」



 2月某日
 客間
 所狭しと箱が並べてある。
 その間を幾人のメイドさん。いや、幾体のメイドロボが間を抜けて働いている。
 「毎度ながら豪勢というか、やりすぎというか」
 その家の一人娘がその場を見渡し、そうつぶやく。
 「せっかく曽祖父さまが買ってくれたものを・・・」
 そのメイドロボ達を指示している赤い角付きHM−セリオ―が振り向く。
 「買ってくれたのはありがたいと思うけど、こんな何人も手伝ってもらう程豪勢でなくても」
 「確かに雛飾りや五月飾りは本人の意思は名前と同じように、まったく関与できませんからね」
 「そうなのよ。友達呼んだときの肩身の狭い、というか実際狭苦しい思いは・・・」
 確かに一般家庭よりは多少広い家とはいえ、こんなに豪勢なのは客間にいっぱいになる。
 「孫というものは子供と違い、本人が苦労しないぶんかわいいですからね」
 周りの頼んで手伝いにきてもらった妹達に指示しながら答える。
 「これってやっぱりおじい様とかが買ってくれるものなの?」
 「はい、家に入った方の親が買う風潮ですね」
 「だから家のは来栖川家特注の品というわけね」
 「いえ、特注ではなく、頂いた物をいくつかをコンペで選んだらしいです」
 さも当然のように答える。
 「そりゃあ、天下の来栖川財閥会長の初曾孫。これで気に入れられば・・・」
 「来栖川デパートのメイン商品に、ってことね」
 「どんな事でも商業チャンスにしますから」
 「日本的ねぇ」
 「そうですね」

 「で、お母さんの雛人形は?」
 雛飾りの茶道具か何かを丁寧に置きながら聞く。
 「綾香様のですか? 奥様は海外育ちですので特に買ってもらっては無いらしいです」
 その位置を調整しつつ答える。
 「芹香おば、お姉さんと一緒?」
 怖いので言い直す。
 「普通は一家に一つあれば好い物ですから」
 「そうだよね。二つもあったら大変だよね」
 そう、それを見上げながら・・・。

 「今日はご協力ありがとうございました」
 手伝ってくれた彼女の妹達に礼を言う。
 「ありがとうね。本家の仕事もあるでしょう?」
 「いえ、執事長様が調整してくれましたので」
 「さすが長瀬さん。うちの事まで考えてくれてるんだね」
 「私の家は五月飾りしかありませんので」
 一人姉がいた。マルチだ。
 「あっ、マルチさんの所はそうですね。よろしければいつでも見に来てください」
 「はい、ありがとうございます」
 
 「ただいま。あれ、セリオ。あなたのは出さないの?」
 綾香が仕事を終えて帰ってきた。
 「お母さん、お帰り。ちょうど終わったのを見繕ったように帰ってきたね」
 「お邪魔しています」
 「わ、手伝いに来てくれたの。ありがとね」
 少し人の多さに驚きつつ礼を言う。
 「で、お姉様のお雛飾りというのは?」
 「それはですね・・・」
 「駄目です。マルチさん。それ以上言っては」
 セリオがマルチの口をふさぐ。
 「ちょっと待ってね。今出してくるから」
 綾香がそう言って納屋のほうに向かう。
 「駄目です。綾香様」
 「みんな。セリオ姉さん押さえといて」
 「はい、わかりました」
 わらわらとみんなでセリオの進路をふさぐ。
 「みなさん、そんなに見たいのですか」
 「ええ、セリオ姉さんの雛人形も見てみたいから」
 小悪魔的微笑を浮かべつつ答える。
 「私達も見てみたいです」
 セリオの妹達も答える。
 「別に恥ずかしい事なんて無いと思うんですが」
 今、この場にいる最年長がそうつぶやく。
 
 「有ったわよ。二つとも」
 綾香がりんご箱と自走する箱を持って戻ってきた。
 「早く見せて」
 「待ってね」
 皆が見守る中、綾香が箱から出す。
 「これよ。可愛いでしょ」
 中から出てきたのは折り紙のや、フェルトや、粘土や、毛糸でできた夫婦雛の数々。
 「恥ずかしいです・・・。」
 「そんな事無い。素敵な雛人形だよ」
 そのお手製の雛人形をやさしく抱えながら言う。
 「これは確か・・・

 
 来栖川家。雛人形前。
 芹香、綾香の前にセリオが後に何かを隠しながらやってくる。
 「芹香様、綾香様」
 「なに、セリオ」
 「こ、これを」
 そう言って後から何かを出す。
 「ひな祭り前に隠れて何かやってるかと思ったら」
 綾香がそれを受け取る。
 「この位しか恩返しでき無いと思いましたから」
 芹香、それを覗きこむ。
 「・・・・」
 「素敵ですね、そうね。手作りよね」
 「はい。自分の持てる力で。見様見真似かもしれませんけど。お気に召されませんでしたか?」
 「・・・・」
 芹香、やさしく微笑む。
 「私も姉さんもホントうれしいわ」
 綾香もやさしく微笑む。
 「ではこれで」
 「・・・・」
 「ひな祭りは女の子の祭りだから、姉さん、そうよね。セリオも一緒にやろう」
 「わ、私は」
 「セリオ、行こう」
 「・・・いいのですか?」
 「・・・・」
 「そう、セリオは私と姉さんの大切な友達よ」
 「はい、ありがとうございます」


 ・・・う〜ん。懐かしいわ」
 「あっ、綾香様」
 「それから毎年、結婚するまで作ってくれて」
 「いつ聞いても良い話です」
 「マルチお姉さん。ハンカチを」
 「ありがとうございます」
 マルチが彼女の妹の一人からハンカチを渡される。
 「何でそれを今まで出さなかったの」
 「そ、それは」
 「忙しくて毎年セリオに雛飾りの出し入れ頼んでたから、今まで何所にあるか知らなかったけど、どうして?」
 「・・・そんな立派な雛飾りの隣に置くのが恐れ多くて」
 「ううん。そんな事無い。そんな事無いよ」
 「そうよね。どちらも真心込めて作ったもの、優越なんて無いわ」
 「あ、綾香様。お嬢様」
 
 「で、そちらのほうは?」
 一人、涙をぬぐいながらもう一つの自走する箱のほうを指差す。
 「これはね。馬軍団からの」
 「所長からですか?」
 「開けてみましょう」
 「さぞすごいものでしょう」
 彼女達は協力して箱を開けようとする。
 「今の話の後では・・・」
 「こちらもすごいものですよ」
 マルチはそう言うが、ほかの3人はげんなりとした表情で見る。

 
 「こ、これは」
 「全部フィギュアだからね」
 綾香、かなりげんなりとした表情で言う。
 「流石にこれは・・・」
 「恥ずかしいわよね」
 二人も同じように言う。
 「すごいです。全部着物が丁寧に作ってあります」
 「それだけではないです。みんなマルチお姉様、セリオお姉様の顔になってます」
 「この飾りはちゃんとギミック付きです」
 いや、彼女達は感心しているようだ。
 「そうか、そうよね。マルチとセリオの妹だものね」
 「どういう意味ですか?」
 ジト目で綾香をにらむ。
 「いや別に」
 「あっ、そういえば所長から綾香様にと。えーと、これです」
 「いやな予感」
 「メモリーカードですか。再生してみましょう」
 
 「何これ?」
 ディスプレイを覗きこみながらそう述べる。
 「私とセリオさんのちっちゃいのがいっぱいいます」
 「彼女達が雛人形ですか」
 「1X年前と対して変わってないわね。あのおっさん達は」
 「お母さん、それって」
 「所長さん達も作品出したんですよ」
 「妹達による1/1雛人形です」
 「・・・」 



 「いい話だったのに」
 「最後には所詮。こうゆうオチね」
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