現在(いま) 投稿者:仮面慎太郎 投稿日:9月30日(土)22時18分
 私はあなたを見るのがつらかった。

 「こんにちは」
 
 他人行儀に開けたドア。
 知っていますか? わたしはその時、すべてを忘れてよろこんだのです。

 「おはよう、楓ちゃん」
 
 何気のない挨拶。
 知っていますか? あなたを見るたび、私はふこうな未来ばかりを見ていました。

 知っていますか? だから…… あなたを見るのがつらかった。



 俺は、君に会うのがつらかった。
 
 「おはよう、楓ちゃん」

 何気のない挨拶。
 知っているかい? 俺は、挨拶を返してくれない君に、少し戸惑ったんだ。

 「今日の晩御飯、なんだろうね」
 
 ふとしたきっかけ。
 知っているかい? 今日こそは…… と、返ってこなかった挨拶を待っていた俺。

 知っているかい? だから…… 俺は、君に会うのがつらかった。


 
 知っていますか? あの日、あなたがつかんだ私のうでは、しばらく痛みがひかなかったんです。

 
 知っているかい? あの日、君が言った俺が変わったというセリフ、あれで俺が変われたんだ。


 知っています。あなたと一緒になれた時、はかなく短い夢を見たから。

 知っているよ。君とひとつになった時、儚くみじかい夢を見たから。


 
 私達は、夢にひかれて……

 

 覚えていますか?
 覚えているよ。

 覚えているかい?
 覚えています。


 あの日君は、気丈にも涙ひとつ見せないと言った。そして君は唇が離れた瞬間、涙をこぼした。
 
 あの日あなたは、俺にまかせろと言った。そしてあなたは、震えすぎて指輪を落としそうになった。

 
 あなたは私の涙をふいて、そのまま自分の涙もふいた。
 君は震える俺の手を取って、私も同じとつぶやいた。


 俺はきっと、そんな君にひかれたんだ。
 私はきっと、そんなあなたにひかれたんです。

 昔の夢ではなく、今のあなたに……


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 イベント・SS「〜にひかれて」