私はあなたを見るのがつらかった。 「こんにちは」 他人行儀に開けたドア。 知っていますか? わたしはその時、すべてを忘れてよろこんだのです。 「おはよう、楓ちゃん」 何気のない挨拶。 知っていますか? あなたを見るたび、私はふこうな未来ばかりを見ていました。 知っていますか? だから…… あなたを見るのがつらかった。 俺は、君に会うのがつらかった。 「おはよう、楓ちゃん」 何気のない挨拶。 知っているかい? 俺は、挨拶を返してくれない君に、少し戸惑ったんだ。 「今日の晩御飯、なんだろうね」 ふとしたきっかけ。 知っているかい? 今日こそは…… と、返ってこなかった挨拶を待っていた俺。 知っているかい? だから…… 俺は、君に会うのがつらかった。 知っていますか? あの日、あなたがつかんだ私のうでは、しばらく痛みがひかなかったんです。 知っているかい? あの日、君が言った俺が変わったというセリフ、あれで俺が変われたんだ。 知っています。あなたと一緒になれた時、はかなく短い夢を見たから。 知っているよ。君とひとつになった時、儚くみじかい夢を見たから。 私達は、夢にひかれて…… 覚えていますか? 覚えているよ。 覚えているかい? 覚えています。 あの日君は、気丈にも涙ひとつ見せないと言った。そして君は唇が離れた瞬間、涙をこぼした。 あの日あなたは、俺にまかせろと言った。そしてあなたは、震えすぎて指輪を落としそうになった。 あなたは私の涙をふいて、そのまま自分の涙もふいた。 君は震える俺の手を取って、私も同じとつぶやいた。 俺はきっと、そんな君にひかれたんだ。 私はきっと、そんなあなたにひかれたんです。 昔の夢ではなく、今のあなたに…… ______________________________________________ イベント・SS「〜にひかれて」