森羅万象 前編 投稿者:仮面慎太郎 投稿日:8月30日(水)17時36分
森羅万象、物事と言うものには終わりがあれば始まりがある。
 またそれは、始まりがあれば終わりがあると言う事でもある。
 そう、始まり。例えばこんな……


 ある休日、俺と雅史は二人でビデオを見ていた。ペットボトルのお茶とチッ
プス、そして見逃したロードショー。平凡な休日。
 しかしそこに、またもや平凡な、しかし今度は偶然が舞い下りた。あかりと
志保がやって来たのだ。大量のお菓子とジュース。志保曰く、「暇だったから」
 ビデオも終わりトランプにも飽き、その時雅史が不意に、
 
 「双六しない?」

 ルーズリーフをテーブルの上に二枚置き、蛇行する一本の線を描く。その上
に円を12個、一人三個ずつ責任を持ってイベントを書き込む。
 第一回、<振り出しに戻る>が八個。委員会の英断によって書き直し。
 第二回、<ゴールに飛ぶ>が六個。委員会の激しい議論の末、一人が六分間
の沈黙を余儀無くされる。ある委員曰く、
 「志保ちゃんキックって、中段扱いなのよね」
 六分後、奇跡的にイベントが一つも重ならず、ゲーム開始。


 ……つーか、誰だよ<電波使いになる>なんて書いた奴。

 結局俺は、祐介たちの学校に来た。……って、誰もいねぇ。そういや今日は
休みじゃねぇか。あーもう、何やってんだよ、俺! 
 学校帰りにちょちょいっと教えてもらって、さっさと帰る予定だったのに。
もう10時過ぎてるじゃねぇか。なけなしの小遣いを使って、電車を乗り継い
で来たって言うのによ。しゃーねぇ、交番で道聞いて、祐介の家に泊めてもら
おう。
 俺が校門から引き返そうとした時だった。校舎から目を離す瞬間、違和感を
感じた。回りは暗く、人の気配もない。俺は校舎をよく見てみる。
 すると、教室の一つから電灯の明かりが漏れていた。たしかさっきまでは、
全くの暗闇だった。間違いない。しかも、校門には俺がいる。だとすれば、考
えられるのは…… 誰かが裏口から侵入したんじゃねーか!
 でも待てよ、泥棒なら電気はつけねぇよな。忘れ物か? なら正門から入る
よな…… 

 …… …… …… じゃあ、何だ?

 俺は俄然興味が湧いた。そう言えば、校舎にゃ鍵が掛かってるよな。なんで
すんなり入れたんだ。見回り…… 教師なら、廊下の電気はつけるよな。でも
今はついてない。
 どんどん想像が膨らむ。もうこーなったら押さえられねぇ。ちょっとだけ覗
いてやるか。志保たちに、土産話しの一つぐらい持って帰ってやらなきゃな。
 俺は校門を軽く越え、目立たないよう校庭を大きく迂回して校舎に近づいた。
案の定、校舎には鍵は掛かっていて、俺は裏口を探した。途中、明かりのつい
ていた教室を見たが、明かりは消えてなかった。もっとも、人影も見えなかっ
たが……
 薄い月明かりの下で、裏口を探す。虫の声が妙に耳に残る。正規の入り口か
ら少し行った所に、意外にも開いている窓を見つけた。カーテンが窓の外へと、
その身を投げ出している。
 ここから入ったのか……
 俺は靴のまま、窓の冊子に足をかけ乗り越える。ここの部屋には明かりはつ
いていない。俺は足音を忍ばせる為に、部屋の中で靴を脱いで靴下になる。
 ……靴下って洗濯の仕方が悪けりゃ、汚れ落ちねぇんだよな。
 とにかく、どうせあかりが洗うんだからと自己完結し、教室から出た。廊下
は非常灯の赤い光で照らされていて、急に不安を誘う。
 真っ暗な外。赤い光。静寂……
 よし! 帰ろう!
 そう思い至って、部屋の中に振り向いた時だった。俺の真後ろに……

 俺の真後ろに、闇夜に浮かぶ人の顔があった。

    
                続く


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イベントSS<夜の学校+クロスオーバー>