その理由 投稿者:仮面慎太郎 投稿日:7月15日(土)01時28分
夢・・・
夢を見ていた・・・
悲しい瞳をした女性の夢だ。
女性・・・ というよりは<少女>といった方がいいだろうか。
とにかく、俺は異国の服を来た女性の夢を見ていた。


 酷く沈んだ表情、<あいつ>とは違って秋の稲穂のような長い髪。そして、いつも
悲しみに支配されている瞳。<あいつ>の実妹。リネット。
 俺はよく夢を見た。あいつの夢だ。あいつはいつも笑っていた。そしてこちらに向
かって駆け寄ってくる。俺は両の腕であいつを抱きしめる・・・ しかし、あいつが
俺の腕に触れることはなかった。いつも触れる直前でかき消える。後に残るのは暗闇
だけだ。あいつはいない。俺の愛したあいつは、もういないのだ・・・
 目を覚ますと、いつも俺は泣いていた。男の俺が泣くなんて、一生に一度あるかな
いかぐらいだと思っていた。しかし、最近は涙が枯れはしないか、とすら考えるよう
になってきた。あいつのことで涙すら流せなくなるのが怖かったのだ。
 俺の涙は、いつもリネットが拭っていた。リネットは、まるで主人に忠実な犬のよ
うに、俺のそばにいた。いつも。そう、あいつはいつも俺のそばにいた。涙を流すた
びに、その瞳をよりいっそう悲しく滲ませ、それでもなお、俺の涙を拭い続けた。
 俺は、リネットを愛した。彼女を悲しませないよう努めた。その瞳から悲しみを消
し去ろうとした・・・ だが、出来なかった。どんなに笑っても、彼女の瞳から悲し
みが消えることはなかった。リネットもまた、あいつの悲しい運命を・・・ いや、
同族の痛みを忘れられないのだろう・・・ そう思っていた。
 しかし、それは大きな間違いだった。確かにそれはあっただろう。無いわけはない
のだ。一族の殺し合い。同族への裏切り。悲しみが無いわけではない。だが、彼女の
あまりに悲しい瞳の理由は・・・ その理由は・・・

  ・・・彼女の瞳に映っているものが、俺の顔だったからだ。

 悲しみが無くなるわけはないのだ。俺の顔が映っているのだから。どんなに努めて
も無意味なのだ・・・ 愛しても、リネットの瞳に映るのが俺である以上、悲しみは
消えない。消せないのだ。これ以上の不幸があるか。あいつを失い、リネットの瞳は
いつまでも悲しいまま。俺はどうすればいい。どうすれば・・・ 


 「この後、次郎衛門とリネットは子供を授かり、やっと悲しみを拭い去ることがで
  きたんだよな。次郎衛門はリネットを愛せなかったわけじゃないんだ」
 俺は膝の上の初音ちゃんを見ながら言った。
 「ただ、愛し方がわからなかっただけなんだよね・・・」
 初音ちゃんはただじっとこちらを見やったまま、俺の胸に寄り添ってきた。
 「な、なんだか夢の話っていうより昔話になっちゃったね。ハハハ・・・」
 乾いた笑い。初音ちゃんは無言のまま、ゆっくりと両手を動かし俺のTシャツの襟
元を掴む。
 「やっぱり・・・ だめ? 普通はここで『耕一お兄ちゃん! わたし一体・・・』
  なんて展開になるんだけど・・・」
 荒縄でグルグル巻きにされた俺は、目がイッちゃってる初音ちゃんにおずおずと尋
ねてみた。しかし、初音ちゃんは俺のTシャツを無残にも引きちぎると、ズボンの方
に取り掛かった・・・ だめだ、直ってない。
 「耕一よぉ、それじゃあリネットの分も楽しもうぜぇ。へっへっへ・・・」
 嫌だぁぁぁ。こんな初音ちゃん、嫌だぁぁぁ・・・
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・
 その後俺は・・・ それなりに楽しんだ。
     
                          完

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イベント・SS 『三題話・犬 間違い 昔話』