曇り空からこにゃにゃちわ(2001年6月のお題『傘』投稿作品) 投稿者:あかすり 投稿日:6月18日(月)20時33分
「う〜ん、わかんないよぉ〜」

 柏木初音は中学生である。
その暗記力と前向きな姿勢には定評があるが学業の成績は
それほどというわけではない。
今も柏木家の自室で宿題の難問に頭を悩ませていたのだった。

「はぁ………誰かに聞いてみようかな…梓お姉ちゃん
 ……ううん、千鶴お姉ちゃんのほうがいいかなぁ…」




―チム・チム・ニー チム・チム・ニー チム・チム・チェリー………




どこからか愉快なメロディーが不気味な声色で流れてくる。
思わず周囲を見回す初音。
それに応えるかのように、

「ここよ!!」
「ち、千鶴お姉ちゃん………!?」

窓から見える屋根の上には、我らが千鶴嬢。
しかし、その格好はケバケバしい衣装(けっこうお似合い)に
オウムの柄の傘、不釣合いにデカい鞄と個性的。

「とおっ!」
「と、飛んだ…!……落ちちゃった…」
開いた傘を手に飛び立つもかなりハデな音と共に地面に激突する千鶴嬢。

「…だ、大丈夫、千鶴お姉ちゃん…?」
「痛たたたた、やっぱ風が吹いてないと無理ね」
「そ、そういう問題じゃ…」

よっこらせと窓から部屋に入り込む千鶴嬢……土足じゃん。

「さて…と、こんにちわ、初音ちゃん」
「こんにちわ、って……どうしたの、千づ―――」
「千鶴、じゃないわ、メリー、メリー・ポピンズと読んで頂戴」
「メ、メリー…???」
「そう。傘を片手に空から飛来する隠密家庭教師、
 メリー・ポピンズとは私のコトよ」
「お姉ちゃん……頭打っちゃった…?」
「打ってないわ、初音。そんなコトより、わからない問題はどれ?
 メリーの大学頭脳でチョチョイのチョイよ」

(お姉ちゃん……それ、メリー・ポピンズ違うよ…)
心の中でツッコム初音。

「さぁ、見せてごらんなさい」
「…これ……なんだけど…」
観念したかのように問題集を差し出す初音。

「ふ〜ん、へぇ〜、ほぉ〜」
「…どう、わかりそうかな…?」
「心配無用よ、初音。この隠密メリーにかかれば問題ナッシング」

(お姉ちゃん…そもそも何故に隠密?)
もっともな疑問だったり。

「ナルホドね…コレは初音には難しいわ」
「わかったの!!?」
「ええ、…でもね、初音。年頃の娘が真昼間から問題集と向かい合っててはダメ」
「は?」
「遊ばなきゃダメよ!そう、遊ばなきゃ……ね?」
「『ね?』……って…問題は―――」
「ダメよ、初音。余裕を持たなきゃ」
「余裕って…」
「人生あきらめが肝心よ!」
「力説されても…」
「問題集は何時でもできるわ。でも年頃の遊びは今しかできない…」
「何時でもって、宿題なん―――」
「大丈夫!」
「断言されても…」
「いいから、遊ぶ!いいわね!」
「…はい…」
初音ちゃん半分涙目。


その後、年頃の女2人のトランプ大会が深夜まで開催された…。





…AM2:13…

「………zzz…」
「寝ちゃったのね、初音…」

睡眠を確認と同時に鞄の中から『濃い海老茶色の液体』を取り出す隠密メリー。

「本当なら『寝る前の1さじ』なんだけど……寝た後でも問題無いわよね」

補足)『寝る前の1さじの濃い海老茶色の液体』について
原作「風に乗ってきたメ(ア)リー・ポピンズ」においてメリーが子供たちに
飲ませた正体不明の飲み物。
飲む人間ごとに異なる味がし、メリー自身にもどんな味がするのかわからない。
ヤバ気なメリー秘密道具の代表格。

「映画じゃ作り方がわからなかったから勝手に作っちゃったけど、味見もしたし
 大丈夫よね」
ちなみに味は(千鶴さんにとっては)『椎茸の戻し汁』味。

「さぁ、召し上がれ」

…とくとくとくとく…

「…zzz……んぐ…んぐ……!!!!!………………………

初音は激しい痙攣ののち、死んだ様に眠り始めた。

「あらまぁ、快眠できるほどに美味しかったのかしら?」
ドリンクの出来にご満悦の様子で窓から出て行く千鶴・メリー。
結局、最後まで土足のままだった。
 


翌朝、反応の無い初音の決死の蘇生…起床劇があったコトは言うまでもない…。