「…あん…り…」 ニキ・バルトレッティは溜息をつくと、愛しいあの人のことを考え始めた。 ―杏里・アンリエット 究極の浮気性 わたしの気持ちも知らないで… そのくせ謝るときは毎回100%誠心誠意… …憎い……愛してるけど…憎い… …この気持ち…伝えたい… わたしが火サスみたいな愛憎劇で悩んでいるって……むしろ土サス? 浮気しないでわたしだけを見てほしい…… どうやって伝えればいいんだろう… 「悩める年頃なのね、ニキ」 アンシャーリー・バンクロフト、華麗にクローゼットから登場。 「…あん…しゃ……り…」 ニキさん、意外と平然。 「大丈夫よ、ニキ。深い悩みもこのクスリで万事解決よ」 両手に溢れんばかりの錠剤の山。 なんだか気分はDr.マ●オ。 「………」 ニキさん、迷ってます。 アンのクスリは飲めば確実、意識がナッシング状態。 …つーか、いきなり出てきてヤバいクスリを人にすすめないでほしい… そういうのは先ず自分で試してから……いえ、もう試してるからそんなに濁った瞳なのね… 「………」 「迷える年頃なのね、ニキ。安心して、ちゃんと毎日水をあげた葉っぱを使っているから」 なんの葉っぱだ………とは言わない。 聞いたってムダだし。 「………い…や―――」 「スキあり。隙好き」 拒否しようと口を開けたところにアンシャーリーのスーパーコンボ炸裂。 激流のようになだれ込む錠剤の山。 気分はドーピングマン、●ャック・ハンマー。 「………気分はどう、ニキ?逝っちゃった?」 「………」 混濁する意識に抗いながらも『逝っちゃった?』発言にツッコミを入れたい様子。 「安心して、おかわりはタップリあるわ」 「………」 『アンタ、もう帰って』と言えたらどんなに楽だろうか。 「さぁ、ニキ、勇気とクスリの力で声を出してみて」 「………」 『クスリの力』なんていらない…と思った。 「ニキ……エチケット袋が欲しいの?」 「………」 『なんでやねん』と思った。 「なんでやねん」 「………!!?」 …し、喋れた………普通の人みたいに声が出せた…!! …けど…なんで関西弁…? 「おめでとう、ニキ。これであなたも吉本よ」 「なんでやねん」 「ああ、ニキ、あなたの心にはいつもチャーリー・浜が」 「なんでやねん」 「それとも伸介の方が好みかしら」 「なんでやねん」 ………『なんでやねん』以外は喋れないのね… 理不尽だけど、アンシャーリーのクスリなんだから仕方ない。 「なんでやねん(アンシャーリー、わたし…杏里に会ってみる!)」 「そう……明日は曇りのち雨よ」 「なんでやねん(わたし……頑張ってみる!)」 「森田さんはアテにならないわ」 「なんでやねん(ありがとう、アンシャーリー!)」 部屋を駆け出してくニキ。 見送りながらアンシャーリー、再びクローゼットへ帰っていく。 「…あん……り…」(気力100%) 「やあ!ニキ!今日もキミの姿が眩しい、シャイニング!」 「なんでやねん(浮気しないでわたしを見て!杏里!)」(気力95%) 「………ニキ?」 「なんでやねん(杏里!わたしだけを見て!愛して!!)」(気力45%) 「………可哀そうに、ニキ……疲れてるんだね」 「なんでやねん!(杏里!わたしの心に気付いて!わたしの…愛に!!)」(気力20%) 「ゴメンよ、ニキ……今日はもうお休み」 「……なんで…や……ねん(……………)」(気力5%) 「……ううっ…なんでやねん……」 ニキ・バルトレッティ、16歳(胸囲88cm)。 彼女の想いが伝わる日は遠い。