ナチマツリ 投稿者:アホリアSS 投稿日:7月22日(土)02時01分

 じゅ〜〜〜〜 じゅ〜〜〜〜
 お好み焼きの音が聞こえる。俺たちは屋台の横のベンチに腰掛け、さきほど買ったばか
りのお好み焼きを食べている。
 この公園では盆踊りの真っ最中だ。たくさんの夜店がでていて、見て歩くだけでも楽し
めそうだ。俺と結花、それにスフィーとリアンが一緒にきている。

「おいしいね。けんたろ」
 スフィーは本当においしそうに食べている。でも、俺に言わせれば、味はいまひとつだ
と思う。決してマズくはないが、たぶん俺ならもっとうまく作れるだろう。結花ならこの
何倍もおいしいのが焼けるはずだ。

 屋台の方を見ると、二十代とおぼしき外人女性がお好み焼きを焼いている。『ルミラの
店』という看板があった。この女性がルミラさんか… 結構胸があるなぁ…
 たった今、一人の女の子がお好み焼きを買った。小柄なメガネっ子だ。その子はお好み
焼きを少し食べた後、屋台の女性に怒鳴りつけた。
「あかんあかん! この程度の味でお金取る気か! そらボッタクリやで」
「何ですって? 私のお好み焼きがマズイとでもいうの?」
「その通りやっ! お好み焼きっちゅうのはもっともっとうまいもんや! これはお好み
焼きちゃう! お好み焼きに見せかけたマガイもんや!」
「ほほう…このルミラ様に挑戦するっていうのね。そこまで言うなら作ってもらいましょ
うか」
「望むところや! この猪名川由宇の実力を見せたるで!」

 猪名川由宇と名乗った女の子は包丁を手に取り、ものすごい速さでキャベツを切り刻み
はじめた。なんだ…あの速さで切っているのに、ほぼ同じ大きさで正方形に切れている。
由宇は、刻んだキャバツを他の具と一緒に生地に入れ、かき混ぜた。まるで泡立てるかの
ようにタップリとかき混ぜている。

 出来上がった生地を鉄板に乗せ、焼き始めた。豚肉を乗せてひっくり返す。見事な手つ
きだ。さらにひっくリ返して、しばらく焼く。
 焼きあがったお好み焼きをテコでポンポンと投げあげた。宙を舞ったお好み焼きは次々
とお皿の上に乗った。芸術的だ…
 最後に鮮やかな手つきでソースを塗り、青ノリを振りかけた。

「できたで、食うてみい。ほら、そこのとぼけた顔の兄ちゃんも味見してや」
 
 お皿を手渡された。俺たちは出来上がったお好み焼きを一口食べてみた。
 ……うまい! それに…なんだこの柔らかさは…ふわっとした食感だ。さっきのルミラ
さんのとは大違いだ。スフィーやリアン、それに結花もこの味に驚いている。

「どや。本物のお好み焼きがわかったやろ」
 由宇が得意げにいった。ルミラさんが悔しそうな様子だ。
「たしかに…私が作ったのよりおいしいわね。でも、私達を甘く見るのはまだ早いわよ。
こちらには強力な助っ人がいるんだから。梓先生、お願いします!」
 ルミラさんは屋台の後ろに向かって呼びかけた。すると、髪の長い女性が登場した。
「ごめんなさいね。梓は急用でこれなくなったの。でもこの柏木千鶴が妹の代理で作るわ
ね」
 と、その時、巨大な影が視界を横切った。その謎の大男は「千鶴さんごめん」と言って、
女性を抱きかかえ、走り去っていった。女性は「あ〜〜れ〜〜〜〜〜〜」と悲鳴をあげて
いた。大男の頭には角が見えた。どこかでお化け屋敷かなにかの店でもあるのだろうか。
 ルミラさんたち…それに俺達もあっけにとられていた。

「……ようわからんけど、助っ人はいなくなったようやな。あんたにはお好み焼き屋は無
理や。この看板はもらっていくで」
「そ、そんなごむたいな…」
 由宇が看板をはずそうとしている。その様子を見て、結花がつかつかと由宇に歩み寄っ
た。
「おまちなさい。その看板をはずすのはあたしのお好み焼きを食べてからにして」
「なんや? おまえが作るんか」
「そうよ。…いいですよね」
 結花がルミラさんに聞くと、ルミラさんはコクッとうなずいた。

「おい、結花。あの子に勝つ自身があるのか?」
「ないよ。でも放っておけないじゃない」
 そういいながら、結花は屋台の中にある材料や調味料をチェックしている。ソースは市
販のものが何種類かあった。結花は1本のソースを選び、手に少し乗せてなめた。
「このソースならなんとかなりそうね」

 結花はキャベツを切り刻みはじめた。由宇ほどの勢いはないが、テキパキとした手つき
だ。おや…? 由宇は四角に切ってたが、結花は千切りにしている。
 しばらくしてキャベツを切り終えた。結花は千切りにしたキャベツをよくかき混ぜた。
キャベツは端と中心部で味が異なる。まぜることで味が偏らないようにしているのだろう。
 結花は鉄板に生地を乗せ、まるでクレープを作るかのようにテコで引き伸ばした。俺は結
花のお好み焼きを何度か食べたことがある。でもこれははじめて見る焼きかただ。
 薄く引いた生地に千切りキャベツをたっぷりと乗せた。その上に他の具も順に乗せてい
く。由宇はほとんどすべての具を混ぜていたが、結花は階層で分けている。最後に生地を
少しかけ、フタをした。
 お好み焼きの隣でソバを焼いた。焼きあがると、お好み焼きのフタをあけてひっくり返
す。少し焼いて、お好み焼きを焼きソバの上に乗せた。
 その隣で、鉄板上に生卵を割る。黄身を崩して、まるくひろげた。その上に、ソバとお
好み焼きを乗せる。焼き上がると、最後にソースと青ノリでトッピングをした。

「できた。さあ、食べてみて」

 俺は不思議な焼き方のお好み焼きを食べてみた。うまい! さっきの由宇のと甲乙つけ
がたいうまさだ。さすが結花だ。
 由宇もそのお好み焼きに満足しているようだ。
「東京モンにしてはめっちゃやるやないか。これのつくり方をよう知っとったな」
「師匠と呼ばせてくださーい」
 ルミラさんが結花に今のお好み焼きの作り方を聞いていた。由宇も結花といっしょにな
ってレクチャーしている。
「あ、健太郎。わるいけどスフィーちゃん達といっしょに回ってて、あたししばらく手が
放せないから」
 結花がすまなさそうに言った。
「いいよ。後でまたくるから。じゃ、頑張ってな。いくぞ、スフィー、リアン」

 結花をそこに残し、俺達3人はあちこちの夜店を見て回った。
「健太郎さん、あそこ… 誰か倒れてます」
 リアンが公園の片隅を指さした。草陰に隠れて見えにくいが、たしかに誰かが倒れてい
るようだ。俺達はそこに駆け寄った。
 俺と同年代に見える青年が血まみれになっていた。息はあるようだ。
「大丈夫ですか? しっかりしてください。リアン! 早く救急車を!」
 その青年は、弱々しく何か呟いている。俺は口許に耳を寄せた。
「…な…血祭り…」
 それだけ言うと…青年は意識を失ったようだ。

 

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