金魚すくい 投稿者:アホリアSS 投稿日:7月1日(土)01時36分
 美術館からの帰り道、とある公園の前を通り掛かった。町内会か何かのバザーをやって
いるらしく、テントや露店が並んでいる。
 俺は興味を覚えて、見て回ることにした。しかし、一人ってのは寂しいな。やっぱり詠
美も連れてくりゃよかった。
 ここのテントはリサイクルショップか。ラジカセや楽器、置き時計や古本なんかがなら
んでいる。向こうのテントではボールによる的当てや輪投げをやってるな。
 食べ物系では綿菓子屋、焼きそば屋などがある。他に、木や竹を使った工作教室みたい
なものあるぞ。素人がやってる分、縁日とは雰囲気が違うな。 

 お、金魚すくいだ。去年の夏祭りでは詠美が苦戦してたよな。ちょっと見てみるか。
 ……おや? 

 はしゃぐぎまわる子供達に混じって、高校生風のカップルもいる。女の子の方が金魚を
とろうとしているが、なかなかうまくいかないようだ。金魚すくいの腕前は詠美と互角か。
でも、詠美とは違っておとなしそうな子だな。 
 さすがに見かねたのか。彼氏の方が紙付棒を手にとって金魚をすくい始めた。ひょいひょ
いという感じで、あっという間にお碗の中に十数匹に金魚が泳いでいた。それも大きいや
つだ。 

「浩之ちゃん、すごい!」 

 女の子は目を丸くしている。男の子はにやりと笑った。 

「いいか、あかり。持ち方が逆だ。紙が張られている面を下にするんだ」 
「え? それだと水がはいっちゃうよ?」 
「水面で捨てればいいのさ。ほらっ、こうやって」 

 男の子……浩之っていう名前か。彼は金魚を水面から出したところで少し傾け、水を捨
てた。そこで輪と紙の間に金魚をひっかけているわけだ。 

「う、うん。あたしやってみるね」 

 あかりちゃんは紙付棒を水につけて、金魚を追いはじめた。が、ザバザバは水をかき回
すだけで、なかなか金魚に追いつけない。それどころか、1匹も捕まらないまま紙が破れ
てしまった。 

「ふえ〜ん、浩之ちゃ〜ん……」 
「あのなぁ…… 水には抵抗ってものがあるんだ。紙を垂直に当ててどうすんだよ。ほれ、
新しい紙。こんどは俺のがやるのを真似してやってみな」 

 よくある失敗だな。紙を立てた状態で動かした場合、水も動いてしまう。そうなると
『追い風』のような感じで、金魚が逃げるのを手助けすることになるんだ。 

「あかり、こうやって手首まで水につけて、紙を水平に動かすんだ」 
「きゃっ。つめたーい。あ、でも動かしやすいね」 
「狙った金魚を輪の中心で捕らえて、まっすぐ上に持ち上げるんだ。そうそう。そこで水
を捨てて……金魚が水といっしょに輪の端に来たところで持ち上げる。で、碗にいれ……
おう、できたじゃないか」 
「わぁい! とれたとれた」 

 あかりちゃんは大喜びしている。満面の笑顔だ。詠美にもああいう顔をしてもらいたい
な。 
 おれはその公園を後にした。こんどの夏祭りが楽しみだ。詠美に今日の事を教えてやろ
う。今年もまた、たっぷり捕るだろうな。去年のような残念賞ではなく、自分の力で……

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