新緑の萌えるような季節。 オレは、この命に充ち満ちた時期が好きだ。 もちろん、命芽吹く春も、太陽の支配する夏も、 だんだんと寂しくなっていく秋も、凍てつく冬も、好きだ。 オレの女房がそうであるように。 今日も、女房と連れだって公園へと散歩に行く。 長年勤めた会社を退職して以来の日課になってしまった。 両側に緑生い茂る道を、ゆっくりと歩く。 「おねぇちゃん、早くぅ」 「はいはい… ちゃんと前を見ないと、危ないですよ」 はしゃぐような子供の声と、落ち着いた女性の声。 この組み合わせは… どん 「おっと…」 考えている内に、後ろから何かがぶつかってきた。 よろめいたところを、女房に支えられる。 「ほら、だから危ないっていったでしょ? どうも、申し訳ありません」 「わぁ、おじいちゃんごめん……」 振り向くと、べそをかきそうな男の子と、すまなそうな顔をしたメイドロボが立っていた。 小学校前の子供の面倒を見るメイドロボ…か? 男の子は先ほど転んだのか、膝小僧をすりむいていた。 「あぁ、いいんだよ… 男の子は元気が一番だ。 男の子が、擦り傷の1つや2つで泣いちゃ、ダメだぞ?」 しゃがみ込んで、子供と視線を合わせながら頭を撫でてやる。 オレの隣では、女房が柔らかく微笑んでいた。 ……出会ったときから変わらぬ姿で。 「しっかしなぁ…」 公園のベンチにふたりで腰を下ろす。 「会ったばかりの頃は、マルチはドジで失敗ばかりだったのに… 今や、オレがマルチに支えられるようになったんだもんなぁ」 「私たちは人間のみなさんのお手伝いをするために生まれてきたんですから… それが正しい姿なんです〜」 ちょっと口をとがらせて、マルチが答える。 そんなこた、分かってるさ。 子供の面倒を、メイドロボが見る。 親子連れならぬ、子供を連れたメイドロボというのも珍しいものではなくなった。 奥さん達に混じってメイドロボが井戸端会議しているのも、当たり前の風景だ。 考えてみれば、オレ達よりあとの世代には小さい頃からメイドロボがいたんだ。 世間話をロボットとすることにも違和感を抱かないんだろう。 むしろ、お互いに子供の育て方の相談をしてたりして。 子供はいい。 見ているだけで、老い先短いこの身にも元気が出てくる。 「わたしは浩之さんのそばにいても、よかったのですか? ロボットのわたしと結婚したことを、後悔していませんか?」 目を細めて子供達を見ている… そんなオレに、マルチは不安そうな言葉をかけてきた。 「何を今更… メイドロボ達は、オレの子供みたいなものだよ」 人間とメイドロボが一緒に暮らす。 それは、オレ達の努力の成果だし、マルチ達のデータがあったればこそだ。 マルチにとっても、今のメイドロボ達は娘みたいなものなんだ。 だって…… 「……失敗は発明の母っていうしな」 悪戯っぽい笑みとともに、オレはマルチにウィンクをした。