嫌になるほど、いい天気。 この時期にしては、暑すぎるほどの陽気。 ただ空の霞だけが、夏であることを拒否している。 『浩之さん、どうして桜は綺麗なのですか?』 それは、あまりにも唐突な問いかけ。 窓の外では、灰色の空から白い綿毛が舞い落ちている。 『そりゃぁ…散るからじゃないか?』 公園は一面、華やかな色に覆われていた。 突然の風とともに視界が遮られる。 それは、春に生じる吹雪。桜色の、吹雪。 春一番は、春の色を伴っている。 『散るから、ですか……?』 納得いかなそうな顔つき。 『ああ、あの一気に散る様が綺麗なんだよ。 お前はそうは思わないのか?』 「あははははは…… うふふふふ……」 そんな桜吹雪の中。 緑色の髪の少女が舞い踊っている。 ……両手を朱に染めて。 『綺麗な桜の下には死体がある』とは誰が言い出したのか。 のどかな陽気の元に現れた、悽愴たる光景。 『だって…お掃除が大変じゃないですか。 それに、桜の花びらを見ていると処理落ちしてしまうんですよ』 マルチらしい、答えだった。 『そうだな…春になったら、桜がどうして綺麗か、きっと分かるよ』 「浩之さ〜ん。どうして桜が綺麗か、よく分かりましたよ」 そう笑いながら、抜き手を一閃させる。 また一人、満面に恐怖を湛えた公僕が倒れる。 「ほら…そっくりなんですよ。 命の炎が…散る様に」 『はい、お願いしますぅ。 絵画の美しさは分かるんですけど、自然はなかなか…』 それは、つい3ヶ月ほど前の約束だった。 『桜が咲いたら…花見に行こうか。 そしたら、分かると思うぞ。 数値化できない、自然の美しさってやつが』 「綺麗ですよね…? 浩之さん」 断末魔の痙攣を残し…崩れ落ちる紺の制服。 うっとりと目を細めて、それに見入る。 なぜこんなことを始めたのか、もう分からなかった。 でも、彼は彼女を止める責任を感じていた。 …そのメイドロボの、主人として。 「あぁ。よかったよ、マルチにも桜の綺麗さが分かって… でも、な。もう、終わりにしよう…」 ショットガンを向けつつ、浩之は近寄る。 それは、暴徒鎮圧用のスラッグ弾。 例えメイドロボといえど、当たれば無事にはすまないだろう。 春の吹雪を突き破る、鉛の嵐。 あたりには血臭が立ちこめていた。 乾いた銃声が2発、響き渡り。 麗らかな午後の惨劇は幕を閉じた。http://www10.u-page.so-net.ne.jp/tf6/niisi/