花、散るとき 投稿者:丹石 緑葉 投稿日:4月16日(月)00時11分
 嫌になるほど、いい天気。
 この時期にしては、暑すぎるほどの陽気。
 ただ空の霞だけが、夏であることを拒否している。

   『浩之さん、どうして桜は綺麗なのですか?』
    それは、あまりにも唐突な問いかけ。
    窓の外では、灰色の空から白い綿毛が舞い落ちている。
   『そりゃぁ…散るからじゃないか?』

 公園は一面、華やかな色に覆われていた。
 突然の風とともに視界が遮られる。
 それは、春に生じる吹雪。桜色の、吹雪。
 春一番は、春の色を伴っている。

   『散るから、ですか……?』
    納得いかなそうな顔つき。
   『ああ、あの一気に散る様が綺麗なんだよ。
    お前はそうは思わないのか?』

「あははははは……
 うふふふふ……」
 そんな桜吹雪の中。
 緑色の髪の少女が舞い踊っている。
 ……両手を朱に染めて。
 『綺麗な桜の下には死体がある』とは誰が言い出したのか。
 のどかな陽気の元に現れた、悽愴たる光景。

   『だって…お掃除が大変じゃないですか。
    それに、桜の花びらを見ていると処理落ちしてしまうんですよ』
    マルチらしい、答えだった。
   『そうだな…春になったら、桜がどうして綺麗か、きっと分かるよ』

「浩之さ〜ん。どうして桜が綺麗か、よく分かりましたよ」
 そう笑いながら、抜き手を一閃させる。
 また一人、満面に恐怖を湛えた公僕が倒れる。
「ほら…そっくりなんですよ。
 命の炎が…散る様に」

   『はい、お願いしますぅ。
    絵画の美しさは分かるんですけど、自然はなかなか…』
    それは、つい3ヶ月ほど前の約束だった。
   『桜が咲いたら…花見に行こうか。
    そしたら、分かると思うぞ。
    数値化できない、自然の美しさってやつが』

「綺麗ですよね…? 浩之さん」
 断末魔の痙攣を残し…崩れ落ちる紺の制服。
 うっとりと目を細めて、それに見入る。
 なぜこんなことを始めたのか、もう分からなかった。
 でも、彼は彼女を止める責任を感じていた。
 …そのメイドロボの、主人として。
「あぁ。よかったよ、マルチにも桜の綺麗さが分かって…
 でも、な。もう、終わりにしよう…」

 ショットガンを向けつつ、浩之は近寄る。
 それは、暴徒鎮圧用のスラッグ弾。
 例えメイドロボといえど、当たれば無事にはすまないだろう。
 春の吹雪を突き破る、鉛の嵐。
 あたりには血臭が立ちこめていた。


 乾いた銃声が2発、響き渡り。
 麗らかな午後の惨劇は幕を閉じた。

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