魔女のダンス 投稿者:丹石 緑葉 投稿日:11月30日(木)23時34分
 気分が良かった。
 志保相手に、大勝ちしたところだった。
「きーっ
 覚えてなさいよぉ」
 その捨てぜりふが、爽快だった。
「ゲーセンは、こうでなきゃな」
 興奮していた分、のどが渇いていた。
 
 自動販売機は、音ゲーコーナーの一角にある。
 今まさにちょうど、寺女の女の子がDDRをやっているところだった。
 DDR…矢印にあわせて踊る、ダンスのステップのゲームだ。
 こいつほど、全身を使って格好良さをアピールするゲームはない。
 ステップを踏めばいいだけじゃない、ダンスをしなければ、その格好良さは演出されない。

 そういう意味で、今踊っている女の子はノリノリだった。
 驚いたことに、女の子は二人分のパネル両方を使って踊っている。
 そういうモードがあるとは聞いていたけど、初めて見た…
 しなやかな肢体がステップを踏み、艶やかなロングヘアーが跳ね回る。
 まるで、本物のダンサーのようだった。

 思わず見とれていると、1ゲーム終わったその子が手を振ってきた。
「ヤッホー、浩之ぃ。久しぶりぃ」
 ん? 誰だ?
 どことなく猫みたいな雰囲気のある…
「やだ、ちょっと、覚えてないの?」
 首を傾げているオレに、女の子は近づいてきた。
 すぐそこまで口に出かかっている…誰かにそっくりなんだが…

「……」
 妹です。
 突然、後ろから声をかけられた。
「ああ、そうだ、綾香!
 って、いつの間に先輩、オレの後ろに?!」
 そう、格闘技の女王にして芹香先輩の妹。来栖川綾香。
 どうやらこのお嬢様は、体を動かすのは何でも得意なようだった。
「……」
「もう、相変わらず仲いいわねぇ…
 どうだった浩之、あたしのダンスは?」
「おう、すごかったぞ。本物のダンサーかと思っちまったぜ。
 得意なのは、格闘技だけじゃなかったんだな」
「へへ、ダンスと格闘技って、似てるところがあるから」
 言われてみれば、そうかもしれない。
 体重移動とかリズム感とか、通じるモノがあるのだろう。

  くいっくいっ

 しきりに感心していると、服の裾を引っ張られた。
「ん? どうした、先輩?」
「……」
 あれは、わたしも得意です。
 えっへんと、先輩は胸を張っていた。
「そうそう、あたしも姉さんのステップには敵わないのよ」
 綾香までが、そんなことを言い出した。

 ずいぶんとミスマッチな気もするが…
 でも、よくよく考えてみたら、お嬢様だもんな。
 舞踏会とか、さぞかし優雅なんだろうな…
 そういうステップなら、得意なのかもしれない。
「へぇ、先輩も得意なのか…
 一回見てみたいな。今度見せてくれよ」
 舞踏会かなんかの時に。
 そういうつもりだった。

「……」
 じゃ、今からお見せしましょう。
 先輩は、そういってすたすたと巨大な筐体のほうへ向かっていった。
「あ…あたしは、もういいわ。
 浩之なんか、いいんじゃない?」
 ん? 綾香、妙に焦っているような…
「……」
「おう、オレはいいぜ」
 実は、DDRは結構やり込んでいる。
 ここはオレの華麗なダンスを見せて、先輩の評価をあげるところか?!

 先輩は、すでにジャンル選択を始めていた。
 オレの見たことのない国名が並んでいる。
「へぇ、裏モードか?
 さすがのオレも、見たことないぜ…」
 難易度の星が、ひとつふたつ…
「やっつ?!」
 ナンですか、その難易度は?!
「オレ、そんなに難しいの踊ったことないぞ!」
「……」
「大丈夫です…って、何が?!」
「……」
 呪いましたから。
「はぁ?!」

 すぐに、その意味を悟ることになった。
 画面に矢印が現れると同時に、オレの体は勝手に動きだしていた。
「お? おお?!
 パーフェクトなタイミングのステップ?!」

 それから1時間、ぶっ続けで先輩と踊り続けた。

「ぜぇ、ぜぇ…
 先輩、もう勘弁してくれ」
「……」
「もう一回?!
 …やめてくれぇ、もうダンスは嫌ぁぁ!」

 先輩は、めちゃめちゃ上手だったことだけ、追記しておく。

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