イモ 投稿者:丹石 緑葉 投稿日:11月11日(土)23時28分
 山の紅がより深くなってきた頃。
 学校の植木は、ほとんどがその葉っぱを落とす。

「ふっふっふ、今年もついにこの季節がやってきたぜ…」
「そーよねぇ、秋といえばやっぱり焼きイモよねぇ」
「おぉよ、今年もやるぜ?」
「浩之ちゃん、また先生に怒られても知らないよ?」
「先生が怖くて焼きイモができるか!
 雅史、今年はサッカー部、休めるんだろうな?」
「うん、来週だったらちょうどシーズンの切れ目だし…」
「おし、じゃ今年もやるぜ?
 来週の土曜日、場所は去年と同じ焼却炉の横」
「おっけー。
 あたしとあかりは、買い出しに行って来るわね」
「じゃ、僕と浩之が落ち葉集めだね」

 と言うわけで、恒例の大焼きイモ大会を執り行うことになった。
 ったって、参加者はいつもの4人だけどな。

 んで、何事もなく当日となる。

 今日も、真っ青な秋晴れが広がっている。
 冬が近づくにつれて、空の青が深くなっていく…
 秋も終わりが近づいているとはいえ、ぽかぽかと暖かい日だ。
 予定の通り、オレと雅史は落ち葉集めをしていた。
 これで結構、重労働だ。さして重いわけではないが、量が量だけに…
 いや、掃除しているところを先生に見つかって。
 ついでに校庭を片っ端からやることになっちまった。

「? ??」
「どうしたの、浩之?」
「いや、なんか妙な視線をさっきから感じて…」
「? 別に、誰もいないよ?」

 まぁ、それはともかく。
「もう、こんなもんでいいだろ」
「うん、さすがに2人で全部集めるのは無理だね…」
「イモ焼くには充分だ、あかりと志保が戻ってきたらさっそく始めようぜ」
「そうだね… そう言えば、浩之、マッチ持ってる?」
「えっ 持ってないぞ… おまえが持ってるんじゃなかったのか?」
「うーん、あかりちゃんに頼めばよかったかな?」
「……」

 そのとき、すっとオレの目の前にマッチが差し出された。
「お、悪いな… って、先輩?!」
 それは、芹香先輩だった。
 いつもの、ぽーっとした表情で、オレにマッチを差し出していた。
「なんで先輩がこんなところに?
 え? …混ぜてくださいって…
 人数分しかイモの用意してないぞ?」
「……」
「いや、そんな悲しそうな顔をされても…」

  ぱぷぅ

 突然、先輩は鍵盤ハーモニカを吹き鳴らし始めた。
「うわぁ! オレが悪かった!
 オレのイモをわけてあげるから…」
「……」
 真顔に戻ると、イモです、とナイロン袋をオレに差し出した。
「うわ、スーパーの袋… 先輩が買ってきたのか?」
  こくこく
 スーパーでイモを買う先輩… なんか、お嬢様っぽくないな…

「って、これジャガイモ…
 ふつう、焼き芋っていえばサツマイモなんだけど…」
 先輩は、再び悲しそうな顔をすると、鍵盤ハーモニカを…
「だぁーっ、それはもういい!」
 …まぁ、焼きイモには違いないけど…
 なんか、がっくりと疲れちまった。
「はぁ、じゃ、これ一緒に焼くな…」
「…それはいいけど、先輩、何やってるのかな?」
 雅史の言葉に、先輩の方を見てみると…
 何かの棒を取り出して、イモの入った袋に向けてくるくると回していた。
「先輩…?」
「……」

  げこ

「うわぁ!
 先輩、がま、がま…」
「……」
「ひきがえる? いや、なんで…!」
 いきなり、袋の中身がヒキガエルになっていた。
 それを見てパニックを起こしているオレをよそに、先輩は袋をつかむと…
 ぺいっ! と放り投げてしまった。
「……」
「本物のイモはこっちです…?
 って、やっぱりジャガイモかよ…」

 ほどなく、あかりと志保が戻ってきた。
「あれ、来栖川先輩…
 一緒に焼きイモやるんですか?」
「……」
「わぁ、それはよかったですねぇ」
 …あかりよ、本当に会話になっているのか?

 大きめのサツマイモが、6つ。
 だいたい、1人1個半ぐらいのつもりだった。
 1個じゃ足りないし、2個じゃ多いからな…
 そのサツマイモを、1つずつアルミホイルに包んで、落ち葉の山に埋める。
「ヒロ? なに、このジャガイモ?」
「…聞くな」
 ジャガイモも、2つずつアルミホイルに包んで落ち葉に埋めた。
「あたし、焼きジャガなんて食べないわよ?」
「オレが食うんだよ!」
「……」
「いや、北海道産なのはいいんだけどな…」
 なぜか、えっへんと胸を張っている先輩だった。

 たき火を中心に、5人でたむろする。
 白い煙が、ゆっくりと青い空に上っていく…
 今年の夏は、雨も少なく、晴れの日が多かった。
 さぞかし美味い焼きイモができあがるだろう。

http://www10.u-page.so-net.ne.jp/tf6/niisi/