お仕置き(お題「ことわざ」) 投稿者:丹石 緑葉 投稿日:10月24日(火)23時05分
 マルチが帰ってきてから1年。
「もぅ、浩之さんだらしないです〜」
「しょーがねーだろ、暑いんだから」
「だからって服を脱ぎ散らさないでください」
 どうやら、オレ達の仲には倦怠期がやってきたみたいだった。
「まったく、豆腐に鎹とはこのことです〜
 …次の定期点検で、おとうさんに相談しないといけないですねぇ」
「んー、なんか言ったか?」
「なんでもないですー」

 数日後。マルチは里帰りをした。
 別に、「お暇をいただきます」って訳じゃないぞ。
 定期点検に帰ったんだ。年度点検?
 オーバーホールもやると言っていたから、若干日数がかかるようだった。

 そして2週間後。
「浩之さん、ただいまです〜」
「マルチー、会いたかったぞぉー」
 久しぶりに、新婚(?)当初の初々しいスキンシップだった。

   君子三日会わざれば刮目すべし。

 離れていた時間が長いだけ、マルチがよけいに可愛く見えるものよ…
「浩之さん、なんかそれ違います」
 で、マルチがいない間、家の中は散らかりっぱなしだった。
「もう、浩之さんこんなに散らかして…
 しょうがないですー」
 それでもなんだか、マルチは嬉しそうだった。

 しかしそんな状態も、3日ともちゃしなかった。

「浩之さん、いつも言ってるじゃないですか…
 出したものはきちんと片付けてくださいー」
「ん? ああ、分かったよ…」
 オレはいつもの生返事だった。
「はぁ、そんなことでは先日付けてもらって新機能を、さっそく使うことになりそうですー…」

 夕方。
 飯を食ってごろごろしていたオレは、またもやマルチの小言を食らっていた。
「浩之さん、出したものはきちんと片付けてください。
 また、本が出っぱなしですよ。
 テレビを見るか本を読むか、どちらかにしてください〜」
「ん? ああ、分かったよ…」
 いつもの生返事。
「…はぁ
 設定条件に合致したことを確認。メールプログラムを起動します。
 むむむむむ…」

 ため息のあとに続けられたマルチのつぶやきに、オレは何か不安なものを感じた。
「…おい、マルチ、おまえにメール機能なんかあったのか?」
「うふふー、先日追加した新オプションですー。
 仏のマルチも3度まで、浩之さんの生返事もここまでですー」
「…どこにメールした?」
「すぐに分かりますー」

 その通り、すぐに電話がかかってきた。
「はい、藤田です」
『国際電話です。長岡志保様からコレクトコールです』
 断りたかった。断りたかったが…
 何が起こったのか、想像が付くだけに、確かめておかなければ後が怖かった。
『はーい、ヒロ。お久しぶり〜』
「もしかして、さっきのマルチのメールって…?」
『んっふっふー。
 あんたの悪事は、全てこの「真実を報道するジャーナリスト」志保ちゃんが世界に発信してあげるわ!
 天網恢々、粗にして濡らさずとはこのことね〜』
「…粗にして漏らさずじゃないのか?」
 いや、「真実を」どーのってあたりも違うと思うんだが…
『…? ……
 キーッ 覚えてなさいよぉ』
 ガチャン

 ……ぐあっ
 志保の口に戸は立てられず…
 とんでもないことをしてくれやがった…
 なんか、マルチを返品したくなってきた。

 翌朝。
 テレビニュースは、えらいことになっていた。
『今、アメリカでは空前のヒロ旋風が巻き起こっています』
 なんか、オレの確かにやった覚えのあることが、微妙な感じに報道されたらしい。
 それがどうやらアメリカ国民の何かにヒットしたらしくて…
『このヒロがいったい誰なのか、問題の新聞社に問い合わせが殺到しています』

 ぐあっ
 悪事千里を走る?
 っつーか、なぜに全米デビュー?
 …ここに報道陣が来るのも、時間の問題なのか?
 なんか、何もかもいやになってきた…

「浩之さん、これに懲りたら片付けはきちんとしてくださいねっ」にこぱっ☆
 マルチの笑顔は、やけにさわやかだった。


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