マルチが帰ってきてから1年。 「もぅ、浩之さんだらしないです〜」 「しょーがねーだろ、暑いんだから」 「だからって服を脱ぎ散らさないでください」 どうやら、オレ達の仲には倦怠期がやってきたみたいだった。 「まったく、豆腐に鎹とはこのことです〜 …次の定期点検で、おとうさんに相談しないといけないですねぇ」 「んー、なんか言ったか?」 「なんでもないですー」 数日後。マルチは里帰りをした。 別に、「お暇をいただきます」って訳じゃないぞ。 定期点検に帰ったんだ。年度点検? オーバーホールもやると言っていたから、若干日数がかかるようだった。 そして2週間後。 「浩之さん、ただいまです〜」 「マルチー、会いたかったぞぉー」 久しぶりに、新婚(?)当初の初々しいスキンシップだった。 君子三日会わざれば刮目すべし。 離れていた時間が長いだけ、マルチがよけいに可愛く見えるものよ… 「浩之さん、なんかそれ違います」 で、マルチがいない間、家の中は散らかりっぱなしだった。 「もう、浩之さんこんなに散らかして… しょうがないですー」 それでもなんだか、マルチは嬉しそうだった。 しかしそんな状態も、3日ともちゃしなかった。 「浩之さん、いつも言ってるじゃないですか… 出したものはきちんと片付けてくださいー」 「ん? ああ、分かったよ…」 オレはいつもの生返事だった。 「はぁ、そんなことでは先日付けてもらって新機能を、さっそく使うことになりそうですー…」 夕方。 飯を食ってごろごろしていたオレは、またもやマルチの小言を食らっていた。 「浩之さん、出したものはきちんと片付けてください。 また、本が出っぱなしですよ。 テレビを見るか本を読むか、どちらかにしてください〜」 「ん? ああ、分かったよ…」 いつもの生返事。 「…はぁ 設定条件に合致したことを確認。メールプログラムを起動します。 むむむむむ…」 ため息のあとに続けられたマルチのつぶやきに、オレは何か不安なものを感じた。 「…おい、マルチ、おまえにメール機能なんかあったのか?」 「うふふー、先日追加した新オプションですー。 仏のマルチも3度まで、浩之さんの生返事もここまでですー」 「…どこにメールした?」 「すぐに分かりますー」 その通り、すぐに電話がかかってきた。 「はい、藤田です」 『国際電話です。長岡志保様からコレクトコールです』 断りたかった。断りたかったが… 何が起こったのか、想像が付くだけに、確かめておかなければ後が怖かった。 『はーい、ヒロ。お久しぶり〜』 「もしかして、さっきのマルチのメールって…?」 『んっふっふー。 あんたの悪事は、全てこの「真実を報道するジャーナリスト」志保ちゃんが世界に発信してあげるわ! 天網恢々、粗にして濡らさずとはこのことね〜』 「…粗にして漏らさずじゃないのか?」 いや、「真実を」どーのってあたりも違うと思うんだが… 『…? …… キーッ 覚えてなさいよぉ』 ガチャン ……ぐあっ 志保の口に戸は立てられず… とんでもないことをしてくれやがった… なんか、マルチを返品したくなってきた。 翌朝。 テレビニュースは、えらいことになっていた。 『今、アメリカでは空前のヒロ旋風が巻き起こっています』 なんか、オレの確かにやった覚えのあることが、微妙な感じに報道されたらしい。 それがどうやらアメリカ国民の何かにヒットしたらしくて… 『このヒロがいったい誰なのか、問題の新聞社に問い合わせが殺到しています』 ぐあっ 悪事千里を走る? っつーか、なぜに全米デビュー? …ここに報道陣が来るのも、時間の問題なのか? なんか、何もかもいやになってきた… 「浩之さん、これに懲りたら片付けはきちんとしてくださいねっ」にこぱっ☆ マルチの笑顔は、やけにさわやかだった。http://www10.u-page.so-net.ne.jp/tf6/niisi/