棄捨 投稿者:丹石緑葉 投稿日:6月30日(金)00時42分
「ふん、思ったよりもたなかったな」
「おまえが乱暴すぎるんや。
 まぁ、ここに棄てときゃ誰からも文句はでんやろ」
 ぺっと、唾を吐き捨てる。
 二人の男が、何かを捨てて立ち去った。
 ここはゴミの埋め立て地。
 やがてぽつりと雨が落ちだした。

 泣けぬロボットの代わりに天が泣くのか。
 薄汚れたメイドロボを、雨が洗っていた。
 その半身はゴミの中に埋まり。
 その目は虚ろに天を見上げていた。
 チチ、と僅かにCCDカメラが動いた。



  はっと目を覚ます。
  そこはいつものベットの上。
  メイドロボのために設けられた、メンテナンス・ユニット。
  手首には整備用のケーブル。バッテリーの残量は100%。

  時刻は5時を少し回った頃。この時期にしては、暗く、気温も低い。
  おそらく、今日も天気が悪いのだろう。
  物音を立てないように、自分の部屋を抜け出す。
  この時間、彼女のご主人様はまだ眠っているはずだ。

  そのベットでは、一人の男性が眠っていた。
  普段からは想像も付かないような、無防備な表情をして。
  彼女の、ご主人様。 
 「浩之さん、怖い夢を見たんですよ」
  そっと、話しかける。
 「浩之さんの運転する車が、事故に遭うんです。
  わたしは助手席に座っていたんですけど、大破していました。
  周りのことが見えてるのに、聞こえてるのにわたしの体は動かないんです。
  浩之さんもいっぱい血を出していて、少しも動かないんです。
  …浩之さん、わたしをおいて居なくなってしまうのかと思いました。
  そしてわたしは、どこか怖いところに連れ去られてしまうんです」

  緑の髪をしたメイドロボが、ごそごそとベットの男の横に潜り込む。
 「浩之さんの、匂いがします…」
  寒さから逃れようとするかのように、ご主人様の腕にしがみついた。



 いずれが夢か、幻か。
 腕はもげ、胴は千切れ、頭皮は焼け焦げ。
 ゴミに埋もれた機械の体は、雨に濡れそぼつ。
 すでにその活動は停止しており。
 もはやその内に僅かな温もりを残すのみ。