ロード オブ アルジー  投稿者:YOSHI


ロード オブ アルジー【其の2】


〜地下一階、澪、みさき〜


みさきは何かの足音に気がついて振り向いた。
怪物だったら……どうしよう?
とか考えるがそれが違うことはすぐにわかった。
みさきのよく知っている足音と同じだったからだ。
「……澪ちゃん?」
「…………」
みさきの言葉にこくこくと澪が頷く。
さらに澪はみさきの手をつかんでぶんぶんと振り回す。
本当に不安だったのだろう。
澪は同時に大きなためいきもつく。
「澪ちゃん、他に誰かと会った?」
みさきに澪がふるふると首を振る気配が伝わってくる。
「じゃあ、雪ちゃんに……会ってないよね?」
みさきに澪がふるふると首を振る気配が伝わってくる。
「そう……」
と言うことは雪ちゃんはこの近くにはいないんだね……。
思わずため息をつくみさき。

ため息をつくみさきの背後で影が動いた。



〜地下一階、物陰より〜


そのときみさき達の近くの物陰で人影が動いた。
「……なんだかなぁ」
物陰で澪とみさきの様子を見てため息をついた。
彼はスタッブ=エンド。
ダークエルフと人間のハーフでサイオニック(精神術師)。
目にかかるくらいの黒髪と黒い瞳、青いバンダナ、短めの黒いローブ。
あくまで<V・S・O・A>の中だけの設定ではあるのだが。
また彼はPKでもある。
俗に言う<プレイヤーキラー>だ。
さらに言うならバイトでもある。
何故バイトか?と思われる方も多かろう。
ことの起こりは<V・S・O・A>の中心に携わっていた企画部の人間である。
その企画部の人間が、


<この仮装空間の中でもスリルと恐怖を!!>


という提案をしたのがきっかけだった。
そういうわけでスタッブは試験的にバイトのPKとして参加しているわけだ。
(しっかし……)
正直なところスタッブはPKの最初の仕事としてあそこにいるみさき達を葬り去るつもりだった。
しかし、である。
(なんか……いまいち罪悪感があるんだよなぁ……せめて野郎だったら気持ちよく殺れたのに……)
スタッブがそんな物騒なことを考えながらもう一度二人を眺めたときだった。
「げ……」
気づいたときには思わず物陰から飛び出して叫んでいた。

〜地下一階、みさき、澪、スタッブ〜



「逃げろ、後ろだっ!」
澪はスタッブの叫び声を聞きつけ振り返る。
と、同時にその顔が恐怖でこわばり全力でみさきにしがみつく。
「え? なに? 澪ちゃん?」
訳が分からずにみさきがおろおろとうろたえる。
「くッ!」
スタッブは二人の様子を見て舌打ちする。
みさき達の後ろから襲いかかろうとしていたのはゾンビだった。
視覚的にも結構来るモノがあるが、それよりもスタッブにとってこの相手は致命的だった。
(よりによってゾンビかよっ!)
スタッブは腹の中で悪態をつく。
彼の職業であるサイオニックは精神分野…相手に幻影を見せたりするものが主となる。
しかし、ゾンビには非常にその系統の魔法がききにくい。
精神の動きがほとんどない下級アンデッド系だからであるのがその理由だ。
(3対1か、最悪だ……)
スタッブは腰に帯びたショートソードを抜き先頭のゾンビにに斬りかかる。
ぐしゃっ、とか何とも言えずイヤな感触が伝わってゾンビの生命力表示が0になる。
運良くクリティカルしてくれたらしい。
一匹目のゾンビが光の粒子となって霧散する、と同時に後ろにいたゾンビが2体同時に襲いかかってくる。
(どうする?)
一瞬、判断が遅れ、それが命取りとなり、もろに攻撃をくらってふっとばされる。
スタッブは自分の体力ゲージが一気に黄色表示になったのをみて歯ぎしりする。
この体力表示は緑、黄色、赤、と体力残量に状態によってかわるが赤表示になると身動きできなくなる。
動けなくなれば致命的だ。なぶり殺しにあうだけである。
スタッブは治癒薬を自分に使い体力表示を緑に戻す。
そして改めてゾンビと対峙する。
「……?」
スタッブの前にゾンビが一匹しかいなかったのだ。
「きゃっ!」
「しまった!」
スタッブが背後から聞こえた叫び声に振り返るが、すでにみさきが宙を舞っていた。
生命力表示が一気にイエローゾーンを越えレッドゾーンに入る。
これでみさきは行動不能のはずだった。
スタッブ急いで治癒薬を使わなければ危険だと思い、対象をみさきでつかおうとした。

……ブォオン。

間の抜けた音と共にみさきの姿がかき消える。
「テレポートか」
ダンジョンにあるトラップの一つである。
運の悪いやつだ、と思いつつ、しばらくしてやっと、スタッブは残りのゾンビにとどめをさした。



〜地下一階、澪、スタッブ〜


えぐえぐ……。

「…………」

ひっく……ひっく。

「……なあ?」

スタッブが遠慮がちに声をかけるが澪が泣き止む気配はない。
スタッブはため息を吐き壁によりかかった。



〜さらに十数分後、地下一階、澪、スタッブ〜


「おちついたか?」
こくこくと澪が首をたてに振る。
「なあ……」
「?」
澪はスタッブの言葉にちょこんと首を傾げる。
スタッブは一瞬躊躇してから聞いた。
「しゃべれないのか?」
再び澪が首をたてに振る
「わかった。なら……『念話』」
スタッブはつぶやくように魔法を発動させる。
発動と同時に澪の頭とスタッブの頭を光るひものようなものが結ぶ。
『念話』とはサイオニックの特殊魔法であり、言葉を出さずとも意志の疎通を行う魔法である。
本来は隠密行動をとるときに仲間と連絡を取るためのものなのだが。
「な、これならいいだろ?」
『ありがとうなの』
「しっかし、オレ達以外に見えないからいいようなものの……間抜けな姿だな」
自分の頭からのびている光のひもを見てスタッブは苦笑する。
澪は不思議そうに光のひもにさわろうとするがすり抜けるばかりである。
そんな姿を見てスタッブは何となく平和な気分になる。
やがて、あきらめたのか澪は動きを止めてスタッブを見る。
『名前聞いてなかったの』
「ああ、スタッブだ。そっちは?」
『上月澪なの。よろしくなの』
勢いよくぺこりとおじきをする。
「で、澪はどうするんだ?一緒にいた女の子もテレポートでとばされてるし」
『このテレポートでとんでみるの』
「ダメだって」
進みかけた澪の襟首を後ろからつかむ。
「こいつはどこにとばされるかわからない代物なんだ。飛んだってそいつに会えるわけがない」
うー、と澪は考え込む。やがて、すがるような視線をスタッブに向ける。
その視線を受けスタッブはぽつりとく。
「言いたいことは何となくわかるんだけどな」
『パーティ組んで欲しいの』
「………………………………」
しばしスタッブは考え込む。
ここでパーティを組むということは、つまりはバイトを放棄すると言うことである。
じぶんがPKをしていないことなんかは、すぐにばれるだろうから当然バイト代はでない。
しかし、ここで女の子の誘いを断ることは男としてやってはいけないような気がする。
そして、カーティスは決めた。
「いいぜ、パーティ組もう」
『ありがとうなの♪』
ぴょん、と澪がスタッブにしがみつく。
(なんか、ほっとけないもんな………)
バイト代を手に入れたときの計画が崩れていく音を聞きつつ、ため息をつく。

澪、スタッブのパーティ結成。



〜地下二階、七瀬、長森、カーティス、SOMO〜


ダンジョンの向こうからモンスター達が現れたと同時に、七瀬がSOMOに呼びかける。
「来たわよ、SOMO!」
「知識の神はこの学者SOMOの味方! 『知識』!!」
SOMOが叫ぶと同時にモンスターたちの弱点がSOMOにだけに見える。
『知識』は学者の特殊能力の一つだ。
「左のヘルハウンド三匹には水系統、残りのホブゴブリンは特に弱点無しです!」
「瑞佳、お願い!」
「『足止呪』だよっ」
瑞佳が叫ぶと同時にホブゴブリンが凍ったように動かなくなる。
「で、カーティス!」
「いくぞ、唸れッ、魔弾刀!」
魔弾刀から放たれる吹雪のなかでヘルハウンド三匹が光の粒子となって散る。
その様子を満足そうに見届けると七瀬がホブゴブリン達に視線を向ける。
そんなことはあるわけはないのだが、何となくホブゴブリン達の表情が引きつっているようにも見えた。
「ふふ……じゃあ、残りをみんなで始末しよ♪」
グレートソードを構え七瀬がにっこりと微笑む。
カーティス達はホブゴブリン達に同情した。


<以下残虐シーンが続いています。しばらくお待ちください。>


げんなりとした表情でSOMOがつぶやく
「あー、虐殺してたな、ホント……」
その言葉を受けてカーティスも言った。。
「なんか視覚的にイヤなもんだったよな。斬るというより……なんか、叩きつぶすだったし」
「あんた達だって無抵抗の相手に思いっきり攻撃してたじゃないっ!」
「私はしてないよ」
「ま、それはおいておいて……今のところオレ達がトップを走ってるみたいだな」
SOMOが辺りを見回しつつ言った。
二階に下りてきて以来他のプレーヤーに会うこともなかった。 
おかげで装備品などがとり放題だったが。 
「まあ、トップになったからといって賞金がでるわけでもないけどね」
「一番になれるならそれはそれでいいと思うよ」
カーティスの言葉を受け瑞佳が言う。
SOMOも頭をかきつつ微笑む。
「なんと言っても七瀬の作戦が大当たりしたおかげだな」
七瀬が立てた作戦。SOMOが弱点を調べ、瑞佳が『足止呪』で動きを封じ魔弾刀で弱点をつく。
もし足止めが通用しなければ残りは七瀬が押さえる。
あとは残った敵を一気に全員で攻撃する。
体力や魔力の残量を気にせずに一気に戦闘を終わらせた方が逆に消費も少ないというわけだ。
「力押しはスマートじゃない、って言ったのはだれ?」
七瀬の問いにSOMOを除く全員の声がはもる。
『SOMOだ(よ)』
明後日の方向を向きながら、SOMOがつぶやく
「過去の過失をせめるのは醜い行為の一つだ、と誰かが言ってましたね……」
「自分で言うとかっこわるいもんだな」
「ホントね」
カーティスと七瀬は笑いあってつられて瑞佳も苦笑する。


現在、七瀬達トップ独走中。




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今回の出演者は神凪さん(スタッブ=エンド)でしたー。

それにしても、なんか投稿ペースが落ちてるよ(汗)
予定じゃもう少し早く投稿するつもりだったんだけどね・・・
週1ペースでいきたいッス。
では、今日はこの辺でー。