〜永遠の過ごし方〜 投稿者: YOSHI
永遠の過ごし方〜There is such a thing as forever〜

<Fourth day>

《〜木曜日〜》

〜朝、折原浩平〜


目を開ける。
もう一度目を閉じて、開けてみる。

暗かった。

オレはのそっと布団を抜け出てカーテンを開ける。

ざーーーーーーーーーーーーっ!

案の定、外は雨だった。
陽の光を完全に覆い隠すような分厚く黒い雲に覆われた空。
風に煽られた雨粒が、勢いよく室内に飛び込んでくる。
そして、遠くで何かが光った。
直後、地響きのような音が響く。
その雷鳴に触発されるように、さらに雨足が強まったような気がした。
「雨か……」
そう言えば最近テレビは映らないし新聞もくることがない。
天気予報なんか知るわけもなかったと言うことにふと気づく。
時計をみるとまだ6時半だった。
しかも……ここまで目が覚めてしまっていては二度寝も無理な話だ。
オレはそう判断してドアに瑞佳あてのメモを張り家をでる。


〜登校中、折原浩平〜

オレは傘をさして歩きながら夢の中のことを思い出していた。
『わたしをころせばいいんだよ』
みずかの言葉が意味するものは単純だった。
<この世界>と<永遠の世界>を仲介するみずか。
仲介人がいなければ当然<この世界>と<永遠の世界>の接点はなくなる。
永遠へと向かう<この世界>を<永遠の世界>と切り離すことができるわけだ。
結果この世界は永遠へと向かうことなく元の姿に戻っていくだろう。
世界を救った尊い犠牲。

《世界は救われてハッピーエンド。》

そんなどこかの三流小説みたいになるわけがない。
少なくともオレにとっては。
<みずか>を殺すということは<瑞佳>を殺すことだ。
オレにはそんなことは出来るわけがないし、たとえ理由がどうであれそれを許すこともできない。
わがままなのかもしれない、いや、オレのわがままだろう。
でも、オレの選択が間違っていたとしても瑞佳とは最後の瞬間まで一緒にいたい。
雨の通学路を歩く。
「浩平〜」
後ろから聞こえてきた声に思考を中断され、振り返ると瑞佳が走ってきていた。
オレのそばまで来て立ち止まるとしばらく肩で息をして呼吸を整える。
しばらくたってようやく落ち着いたらしいく文句を言い始める。
「浩平ひどいよ〜」
「ちゃんと先に行くってメモを貼ってただろ?」
「お風呂場のドアに貼らないよ、普通はっ」
「でもさすがは瑞佳だ。しっかり見つけて追いついてきてるしな」
「浩平!」
「もうこんな時間だな、急ぐか」
「あ、ごまかしてる」
ははは、と笑っていつものように二人で通学路を歩いていく。

雨が地面を叩く音が強く聞こえていた。



〜国連総本部〜


スライドを消し、白衣を着た研究者らしき女性が一同を見渡す。
「わかっていただけたかしら?」
「……しかし、突拍子もない話だな」
「信じられん」
「そんなことがありえるのか?」
ざわめきが広がっていく。
「静粛にお願いします」
様々な言葉でかわされていたざわめきがやむ。
「<この世界>と<永遠の世界>を繋ぐ仲介者に我々は名前を付けました。」
そこで一旦言葉を切る。
「<世界の中心>……<Heart of The World>……日本にいることは確かです」
「……それで? 我々がやらねばならぬコトはなんだ?」
「簡単なことです」
白衣の女性は少し間を取るとため息と共に吐き出した。
「いかなる手段を用いても構いません……世界を救うため……それを抹殺することが必要なのです」
広い会議室が静寂に包まれる。
誰も反対の意志を示す者はいない。
否、示すはずもない。
世界を救う手段が見つかったのだから。

世界は常に犠牲の上に成り立つものだから。



〜墓地、住井護〜

雨の中、住井がその墓地をたずねたると、一人の老婆が迎えてくれた。
「これはこれは。朝早くからご苦労様です」
「おはようございます。朝からすいません」
老婆の案内を受け住井は墓地の中を歩いていく。
住井はどうしても一人の男のことが気になってしかたなかった。
端正な顔立ちに白い肌、突然姿を見せなくなったあいつのことが。
住井がここ数日で調べてわかったことは、あいつは死んでいたこと、名前は『氷上シュン』。
そして、この墓地に葬られていることだけだった。
死人が何か教えてくれるとは思えないが……なんというか、義理だろう。
短い時間とはいえ、つきあいがあったのだ。
墓参りするぐらいのことは当然だろう。
住井がそう思いつつ墓の近くまで来たとき人影が目に映った。
先客がいた。
多少年のいった女性。
40代ぐらいだと思われる女性だった。
お互いの視線がぶつかりるとお互いに一礼する。
黙っているのもおかしい、と思ったのか女性が先に口を開いた。
「失礼ですが……どなたかの墓参りですか?」
「はい、少し友人の墓を参りに来たんです」
住井はそう答えながら驚いていた。
いま何気なく氷上のことを友人といえたのだ。
「そうですか……」
「ええ……失礼ですが、氷上……氷上シュンの御知り合いですか?」
「じゃあ、あの子の墓参りに来てくれたんですか」
女性は心底驚いた表情を見せた。
「初めまして、氷上の母です」
「あ、初めまして、住井護です」
改めてお互いに一礼して住井は持ってきた花を墓の前に添える。
線香はは雨だったから準備していなかった。
「ありがとうございます」
「……お悔やみ申し上げます」
何か妙な会話だった。死んだ友人の肉親に会った経験がなかったからかもしれない。
雨がしとしとと降り続く中、二人でぼんやりと立っていた。
奇妙な光景だ。
しばらく沈黙が流れたあと、氷上の母親が口を開いた。
「……あの子は強い子でした。自分が死ぬとわかっても……私に、笑顔を見せてくれたんです」
「………………」
住井は黙って母親の独白に耳をかたむけていた。
彼女は誰かに話したかったのだろう。
「学校にもほとんど行けなかったのに……苦しんでいたはずなのに」
それが意味のあることとは思えなくても誰かに言わずには……いられなかったのだろう。
そこまで言うと少しだけ虚空を見つめる。
「……あの子が……死ぬ、直前でした。何かして欲しいことがないか、と聞いたら……これを……」
服のポケットから一枚の封筒を取り出す。
宛名はなかった。
氷上の母親はそれを住井に手渡しながら言った。
「これを自分のことを、友人だ、と言ってくれた人に渡してくれ……と」
住井は手渡された封筒を手に持つと時計をみた。
別に時間がないわけではなかったが、これ以上、氷上の母親の苦しみの時間を聞き続けるのはつらかった、
住井は氷上の母親に向かって一礼する。
「すいません……そろそろ失礼します」
言って住井は氷上の母親に背を向ける。
その背に向かって氷上の母親が虚空を見つめながらつぶやいた。
「……あの子は私の全てだったわ。あの子がいない世界なんて意味がなかった……」
「………………」
思わず立ち止まった住井は、しかし何も言えなかった。
「私がいままで……この世界にいることができた絆は……あの子との最後の絆……その手紙……」
氷上の母親は虚空を見つめ何も見えていないかのようにぼんやりと語り続けた。
「だから……もう…………」
一瞬……光が世界を満たし、直後に雷鳴がとどろく。

……ばさっ。

背後で何かが落ちる音を聞き住井は振り返った。
傘が落ちていた。
住井は一瞬、不思議な顔をしたがすぐになんでもないような顔をして向き直る。
そして、自分が持っている封筒に気づきつぶやいた。
「あれ?……なんでこんなもの持ってるんだ?」





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このシリーズも中盤をすぎました〜\(^O^)/
感想をいただくたびに一喜一憂しています……感想ありがとうございますm(__)m
それで感想くれた方へ……この作品でハッピーエンドはありません(爆)
この作品のコンセプトは救われない世界!!(^^;
覚悟しておいてくださいね(笑)
990716