がんばれ!南くん〜演劇編その5〜
「…柚木さんか」
心底救われた表情で緊張を解く南。そんな南を見て柚木はけらけらと笑う。
「今日もお昼大変だったわね。感謝してよ。私が携帯で学校に呼び出したんだから」
「あれは柚木さんだったのか…助かったよ」
「で、どうしたの? ここ最近つけ回されてるみたいだけど?」
南はさくっと状況を説明する。
それを聞いて柚木は考え込む。
「確かにあのふたり相手じゃ……ね」
「どっちをとっても……って感じでさ」
「危険度はどちらにしろ変わらない……とか思ってるの?」
並んで歩きながら南の顔をのぞき込むようにして柚木が聞く。
聞かれて南は何度も繰り返し考えてきたことを口に出す。
「なんていうか……俺としては、あのふたりの間に波風立てたくないんだ」
「不可能じゃない。そんなこと」
あっさりと南の言葉を切って捨てる柚木。
「いい? 時にははっきりすることも重要なのよ」
「……でもさ……」
「んー、じゃあ、義理も人情も恐怖も痛みも苦しみも……全っ部、無視した上でどっちを選ぶの?」
「…………」
幾度となく南の心のなかで繰り返された問題である。とうに答えは出ている。
「なにか考えはあるんでしょ?」
「……あるんだけど……な」
実行するのは己の生命を危機にさらしても尚足りない。
南は思う。
もし、今の自分を助けてくれるものがあるなら神でも悪魔であってもすがるだろう。
「だいじょうぶ。案外ふたりとも大人よ」
「……そうか?」
南にはそうは思えない。しかし柚木は南の様子を気にすることなくつづける。
「だいたい、旅に出たところで深山部長と七瀬さんに広瀬さん………」
「わかってるよ。あきらめたりするわけないし」
「そ、なら正面からぶつかるコトね」
「……だいじょうぶかな?」
「だいじょうぶ五体満足ではいられるはずよ」
くるりときびすを返す南。
「……待ちなさいって」
「いやだぁぁぁぁぁ!!!」
「……もう、しょうがないわね」
「え?」
柚木は懐から何か取り出すと南の首筋に当てる。
それは……。
「す、スタンガン?」
「そ、ちょっと約束があるから、ね。ごめんね南くん」
そういって柚木は容赦なくスイッチをONにする。
バヂィッ!
「……へぇ。首尾はばっちり……」
「……けい…………ここに……」
南は薄れゆく意識の中で深山雪見の声を聞いたような気がした。
どれくらい眠っていたのだろう?
南が目を覚ますと見知らぬ天井があった。
とりあえず体を起こそうとするが動かない。
「……拘束具?」
南は自分が何かよくわからない台の上に張り付けにされていることに気づく。
薄暗い部屋。南はここでふとあるモノを連想する。
ショッ○ーだ。
そう、子供の頃テレビで見た。あの改造人間の…………。
南がそんなことを考えていたときだった。
突然、スピーカーから声が流れ出す。
『演劇部部員…南明義……』
スピーカーから響くその声は……。
「……深山部長?」
それは演劇部に入ってから幾度となく聞いた声。
忘れるはずもない。
しかし南明義の困惑を無視し声は続ける。
『……演劇部……血のおきて……』
このパターンは……。
南明義は自分の背中に冷たい汗が流れるのを自覚した。
『……敗者には……<死>……あるのみ……』
やっぱりだ。どこかで見たようなパターンだと思った。
南明義は冷静になっていた。
「……深山部長……爆死させたら罪ですよ」
南がため息混じりに言うとスピーカーから深山の冷静な声が響く。
『冗談よ』
数分後。南明義は拘束されたまま深山雪見と対面した。
「で?」
「先輩に対する口の効き方がなってないわね」
有無を言わさず南の頬をつねりあげる深山部長。
「……ふいまへん」
南は従順に謝る自分が情けなく何となく泣きたい気分になっていた。
「ま、説明してあげるわ」
嬉々として説明しようとしている深山部長に南は。
「結構です」
深山部長の額に幾本かの青筋が浮かび上がる。
「人の好意は受けておくものよ」
「……ふいまへん」
またしても従順に謝る南。
「……ま、簡単に説明しておくと七瀬さんと広瀬さんから連絡が入ったのよね」
「連絡?」
「南くんが逃げそうだってね」
……あの女達は……
「それで柚木さんに協力してもらって……」
「オレを捕まえたって訳ですか」
「そうよ」
「……ということは……」
「明日までゆっくり考えてね。明日は祝日だから朝から部活よ」
そうなるとは思っていたが……。
南は自分の運のなさに涙が出そうだった。
「あ、親御さんには連絡しといたからだいじょうぶよ」
泣きっ面に蜂……。
何故かテストの時には出てこないような慣用句が頭の中に浮かび出す。
「じゃあ、また明日」
それだけ言って深山が姿を消すと南は一人っきりになった。
「……はぁ……」
南は大きくため息をつく。
もう逃げられない。
覚悟完了しなくちゃいかんのだろうなぁ……。
そう思い目を閉じた。
そして、朝。
〜演劇部部室〜
部室の中には最悪の事態を考えてうえでスポーツ部の人間が数人詰めていた。
どこかいつもと違う雰囲気の中、七瀬と広瀬は顔を合わせようともしなかった。
演劇部員の中心で、そして深山部長の見守る中。
心なしか憔悴した南は口を開いた。
「………ヒロインは……」
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六日連続SS張り付け(連載SSを一日一本ずつ)に挑戦中ですd(⌒o⌒)b
だいじょうぶかなぁ?
感想くれた方々ありがとうございました。
新人のみなさん"('-'*)ヨロシク♪"お願いします。
というかおいらそんなに長くここにいるのかな?
まあ、皆様また〜