〜永遠の過ごし方〜 投稿者: YOSHI
永遠の過ごし方〜There is such a thing as forever〜

<Second day>

〜火曜日〜



南明義はぼんやりとトーストをかじりつつ道を歩いていた。
朝、親には学校へ行くと言って家をでる。
人気のない道をしばらく歩く。
もう、これが日課にとなりつつあった。

静かだった。

コツコツと自分の足が立てる音が聞こえる。
自分の足音を聞きながら歩けることはあまりないような気がする。
ふと、南はそんなことまで考えてしまう。
「………………」
目的地に着き南は足を止める。
昔、南が二年の頃まで、ここは空き地だった。
やがて三年になった頃、家が建てられ、空き地は消える。
そう、あの混乱が起きる直前までここには一軒の家があった。
でも、世界は永遠に浸食されはじめたと分かったころに…火事が起きた。
放火だったそうだが、不幸中の幸いで死人や怪我人はでなかった。
焼けた家は撤去され、ここは元の空き地になった。
今南が立っている場所はそこだった。
空き地には人影が二つ。
柚木詩子と里村茜。
「あ、おはよ沢口君」
「南だって………二人ともおはよ」
そう言って空き地と道路の段差に腰掛ける。
その隣にちょこんと柚木が座る。
そして、茜は空き地の真ん中に立ったままだった。
雨などまったく降っていないというのにその手にはピンク色の傘が握られていた。
「ねぇ、茜……いつまでいるんだろ?」
「さぁ、たしか飽きるまで……だったよな」
柚木が聞き南が答える。何回となく繰り返されてきた言葉。
「…………」
茜はぼんやりと虚空を見つめている。

南がここにいる茜を見つけたのはいつの頃だっただろうか。
学校も休校になり、やることもなくぼんやりと歩いていたとき、ここに来た。
別に明確な意志があったわけでもなく、ただ、たどり着いたここに……。

南は茜を見る。朝、学校に行くような時間にここに来て、夕方、日が沈む直前までここにいる。
何か事情があることは間違いなかった、何かに苦しんでいるのも分かっていた。
ただ南はまだ何も言えなかった。


『何かあるのが分かったからって……俺は何を言えるんだろう?』


たまたま同じクラスになった、会話すらろくに出来たことのないクラスメイト。
ただのクラスメイトだ。そんな俺が何を聞けるんだろう? 言えるんだろう?
だから南は選択した。
「今日もいるんでしょ」
「ああ」
ただ茜を見守ることを。
残りの数日ぐらい自分の好きだった女の子の近くにいたい。
そう思ったからかもしれない。
南は隣に座っている柚木に目をやる。
柚木もきっと里村さんのことを心配してるんだろうな……。
と、思ったりもする。
茜は特に何も言わないので迷惑かどうかも分からない。
まあ、でも消えろとは言われないからいてもいいってコトだろう。
南はそう解釈してぼんやりと空き地にたたずむ茜を見つめる。


残り時間はあと五日間。






ここは校舎裏。

住井はぼんやりと煙草を吸っていた。
いや、火を付けた煙草をくわえているだけ、といった方が正しいかもしれない。
灰ばかりになってしまった煙草を地面に落とし踏みつけ火を消す。
そんな作業を繰り返していた。
そうしながら住井は一人の男を思いだしていた。

『死体みたいに倒れてたからびっくりしたぜ』
『ずっと前から死人みたいなもんだよ、僕は』

最初にこいつと言葉を交わしたとき、最初の会話がそれだった。
端整な顔立ちに白い肌。女にもてそうだ、と思った。
しかしこいつのことはよく知らなかった、というより名前も聞いてなかった。
住井にしては珍しいことだが何故かそんな気が起きなかったのだ。

『なあ、『この世の終わり』ってどうなると思う?』
『そうだね……どんな人も平等に別の世界に旅立つと思うよ』
『なんだよそれ? そうとは限らないと思うぞ』
『そんなことはないよ。だって別の世界は『誰にだって訪れる世界』だからね』

住井は思う。あいつはこうなることを予測していたんじゃなかろうか?
人類の終わり。『永遠の世界』への旅立つ。
誰も憶えてはいない。憶えていることが出来る者がいない。

それは恐怖以外の何者でもない。

だから最近はタイムカプセルも流行っている。
CDなんかに自分のあらゆるデータを記録して保存したりもしているそうだ。
自分がいたという証明。
「………………」
このことに関しては住井は答えを出せないでいた。
出せるわけもなかった。
そんなことを言ったら折原はこう言った。
『ま、残り時間は少し、ゆっくり考えようぜ』
妙に悟ったようないい方にも聞こえて少しむかっ腹が立った。
「ゆっくりしてる暇なんかねぇんだよ……バカ野郎……」
住井はため息をつき最後の煙草に火を付ける。
紫色の煙がゆらゆらとのぼっていく。






ここは職員室……。

髭…渡辺茂雄はぽつんと座っていた。
「何をしてるんだろうか……」
職員室の机で茶をすすりながら独り愚痴る。
長い教師生活、結婚すらしていなかった。
考えることと言えば学校のことばかり。遊びの一つもよく知らぬ。
「……いかんなぁ」
髭はため息をつく。


情けない、情けない、情けない。


残り時間は少し。もうすぐ自分の人生が終わるであろうというのに、
何かやりたいことも思い浮かばない。
やり残したことなどが思い浮かばない。
いつも、朝起きると学校に行って授業をすることが頭に浮かび学校に行く。
……いや、それは惰性。今までやってきたことの繰り返し。
そんな自分と同じような教師が職員室に幾人かいる。


キーンコーンカーンコーン……。


チャイムが鳴り条件反射的に立ち上がり教科書をまとめて持つ。
彼はそこで何となくおかしくなる。
色々考えたところで結局は自分の中で答えはでている。
自分は最後の日まで授業をやるだろう。
学校のあまりぱっとしない教師。
おおらかなのがとりえだと言われる。
そんな教師を続けるだろう……いや、続けたいのだ。

「んあー、授業を始めるぞ、席につけー」

これが私の生き方だ。
髭は実に生きいきと授業を始める。


その顔には笑みが浮かんでいた。



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しまったぁっ! 一周年記念SS書いていなかった(爆)
というか投稿スピード遅すぎだな自分……。
どうにかがんばって書くんで見捨てないでくださいね(^^;
それと感想くれた方々ありがとうございました。
レス返したいところですが……いかんせん忙しくて……。
では、今日はこの辺で……
ではでは。
990618