がんばれ!南くん〜演劇編その4〜
ぐぅぅぅぅぅぅ……。
「う」
ぐぅぅぅぅぅぅ……。
「ああ……」
ぐぐぐぅぅぅぅぅぅ……。
「……はぁぁ」
ぐ、ぐぐぐぅぅぅぅ……。
「……腹、減ったぁぁぁぁぁぁ」
南は現在さっきから鳴りやまない腹を押さえてため息をつく。七瀬親衛隊暗殺部隊から逃げやってきた校舎裏。
煙草を吸っている奴も、胸のうちにたぎる熱き恋の血潮を燃やすカップルもいない。
ただ静かだった。だからこそ腹立たしくもあった。
ぐぐぐぐぅぅぅぅぅぅ……。
「…………………………」
自分の腹の音で眠ることもできやしない。いい加減何か対策を考えないと、と思っていたところだった。
突然横合いから声がかかった。
「みぃ・なぁ・みぃ・くん」
確認するまでもない。広瀬だ。
ぎぎぎ、とオズの魔法使いの油の切れたブリキの木こりみたく声のかけられた方向を向く。
南の願いが天に通じるはずもなく、それはやっぱり広瀬だった。
「……や、やあ広瀬さん」
「まったく……探したのよ」
そう言って広瀬は南の隣に腰掛ける。その手に持っていたのは…………。
「そ、お弁当よ」
「おおおおおおおおっ!!」
歓喜の声を上げる南。その目には涙まで光っていた。
「はい、遠慮しなくていいわよ」
「……ううっ……」
そこには輝かしいばかりのたこさんウインナーに厚焼きたまご……。
ここで南の心にエンジェル南とデビル南が現れた。
エンジェル南『いけません!! それは賄賂です!! 食べてはなりません!!』
デビル南『食べてくれって言ってるんだから食べちまえよ。腹減ってるんだろ?』
ぐぐぐぐぅぅぅぅぅぅ……。
南の心は決まった。
「じゃあ……いただきます」
人間、空腹には勝てないものだ。それに弁当一つが賄賂になるわけがないし。
南がそう思い弁当にはしを延ばそうとしたときだった。
ひゅ。
空気を裂く音が聞こえたと思うと広瀬と南の間に一本の木刀がすごい音を立てぶつかる。
南は自分の顔から血の気が引くのを感じた。
木刀が飛んできた方向を見るまでもない。
「やってくれたわね……」
七瀬が肩で息をしながら立っていた。どことなくその制服もぼろぼろになっている。
「……ちっ」
広瀬が舌打ちして立ち上がる。足を軽く肩幅程度に開き軽く拳を握り込む。
南にはそれが戦闘態勢だとはっきりわかった。
場に緊迫した空気が満ちる。
「よくここまで来れたわね」
「あんたの取り巻き連中が寄ってたかって邪魔してくれたから……苦労したわよ」
「……まったく。あの子達、後でお仕置きね」
何となく意味深な言葉を言う広瀬。
七瀬はそれを気にした様子もなくため息混じりに続ける。
「ま、でもあんたとケンカする気はないわよ」
「ふぅーん?」
七瀬の口から飛び出した意外な言葉に広瀬は正直に驚いた表情を見せる。
そして、この七瀬の言葉は血を見る前に逃げ出そうとしていた南の耳にも届いていた。
七瀬はくるっと南の方に向き直るとバックの中に手を突っ込む。
その手には…………。
「な、ナイフ?」
「あ、間違えちゃった」
七瀬はにこやかに言うとそれをしまう。何となく怖いものを感じ広瀬と南は頬を引きつらせる。
そして、二人の様子を気にした風もなく七瀬がバックから取り出したものは……。
「はい、お弁当。お昼……まだでしょ?」
「あう……」
にこやかに南に迫る七瀬。その笑顔の向こうに脅迫とも言えるものが見え隠れしている。
『食べないなんて言ったら……覚悟はいいでしょうね?』
さっき七瀬が取り出したナイフが目の前にちらつき一筋の汗を流す南。
しかし、この状況を黙ってみるわけもいない女の子もいた。
「ダメよ七瀬さん。南君は私のお弁当を食べるんだから」
こちらもにこやかに、しかし、強い口調で割り込んでくる。
二人の間に熱い火花が飛び散る。
しかし、二人とも手を出したりはしない。
あくまで口だけで勝負する。
「あらあら広瀬さん。いきなり今日に限って南くんに弁当作ってくるなんてどうしてでしょうねぇ?」
「演劇部唯一の男子部員に弁当作ってくることぐらいあるわよ。そちらこそ?」
「私も同じ。演劇部唯一の男子部員にサービスしてあげようと思ってね」
「へぇー?」
「ふぅーん?」
南は不毛な言い争いが続く中こっそり逃げ出そうとする。
『待ちなさい』
七瀬と広瀬は同時に言うと南の襟首をつかんで引きずり寄せる。
信じがたい力だった。いや、だからこそ女性は強いというのかもしれない。
引きずられ座らせられながら南明義はぼんやりと思った。
「さて、私のお弁当を食べてくれるわよね」
「食べないなんて言わないでしょうね」
逃げ道は……ない。
どちらかだけの弁当を食べる……間違いなくどちらかに殺されるだろう。
両方の弁当を食べない……それはそれで危険度が増す。
ならば……。南は決心した。
両方食べよう。
今の胃袋の状況でもかなり厳しいことだがやるしかあるまい。
命には代えられない。
南がそう決心し、とりあえず『たこさんういんなー』に箸を付けようとしたときだった。
天の助けか、間抜けな音と共に呼び出しがかかる。
『南明義くん、お電話がかかっております至急職員室まで来てください』
南は手に持った箸を七瀬さんに渡すと有無を言わせず叫ぶ。
「呼び出しだから! じゃ!!」
言うと同時にマッハ4(南後日談)でその場から立ち去る。
あとに残された七瀬と広瀬はお互いに顔を見合わせる。
そして同時に口を開き、言った。
『あんたのせいよ!!』
またも竜虎決戦が始まった……。
「しかしなぁ……」
放課後ため息をつきつつ廊下を歩く南の姿があった。
「電話にでたら切れてたなんて……悪質ないたずらだな。助かったけど」
すたすたと下駄箱に向かう。今日は演劇部が休みなので早く帰れる。
南がそう思い何気なく校門の方を見たときだった。
「…あ……………っ!!」
後門のそばに七瀬と広瀬の姿が見えた。幸運なことに南には気づいていないようだった。
逃げよう……。
一瞬で判断し裏門からでる南。しかしその足取りは重い……。
「……ヒロイン……か……」
どちらを選んでも危険な気がするし、でも、決めないと深山部長が……お仕置きフルコース………。
そのとき南は本気で考えていた。
『旅に出よう』
いや、何かそれが最高の手段と思えていたときだった。
「やっほー。無事だったみたいね、南くん」
思わず一歩引きながら振り返る南。
そこには…………。
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ああー、金がなくてゲームが買えない……。
しかも投稿ペース落ちてるし(^^;
あと、ちょっと忙しくてて感想書けていませんけど作品はしっかり読ませていただいて
楽しませてもらってます。
また感想くれた方々ありがとうございました〜m(__)m
ではまたお会いしましょう
990612