永遠の過ごし方〜 投稿者: YOSHI
永遠の過ごし方〜There is such a thing as forever〜

<First day>

〜月曜日〜


カシャアッ!
いつもと同じようにカーテンが引かれ目の奥を白い光が貫く。
「ほらー、起きなさいよー」
「うー、昼まで寝かせてくれ〜」
「うん」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「……っだぁぁぁぁ!! 起こしてくれよ瑞佳!」
「ほら起きた。急がないと遅刻しちゃうよ」
「………………」
無言でベッドから起きあがる浩平は、最近瑞佳の手の上で踊らされているような錯覚を受けていた。
「はい」
と、瑞佳に鞄と制服を渡されてしぶしぶ階段を下りる。
着替えてトイレを済ませ歯を磨き、朝飯を口に詰め込むころになると瑞佳が二階から降りてくる。
「じゃ、いくか」
「うん」
二人はそろって玄関からでる。




朝の道。意味もなく服だとかぬいぐるみとかが落ちている光景も珍しくなくなってきた。
「それにしても、だ…………」
「なに?」
「人がいないよな」
「うん……」
中崎町は不気味なほどに閑散としている。浩平達と野良犬がうろついている以外には特に何もいなかった。
「やっぱり疎開したんだろうな、みんな」
「人がいないと妙に寂しいよね」
疎開。世界が永遠に浸食されされ始めたと発表されてから流行りだしたものだ。
結局どこにいても変わらないものだろう、と浩平は思う。
浩平には人間死ぬときは死ぬし(死にたいわけではないが)どこにいても同じじゃないかと思えるのだ。
「……佐織も疎開したな」
「うん。しょうがないけど……やっぱり寂しいよ」
事実、浩平達の高校の全生徒の80%以上が疎開していた。
当然、学校というシステムは成り立つはずもない。生徒がいてこそ学校は機能するのだから。
「さて、そろそろ行くか」
「うん」
浩平と瑞佳の二人は連れだって歩き始める。


いつもの、日常と変わらぬ光景の中で。






ここは椎名繭の家。
「みゅ〜、いってきます……」
「繭、気を付けて行って来なさいよー」
繭の母親、椎名華穂がパタパタと駆けていく繭の後ろ姿を見送る。
そのうち、繭が友達と会ったところで一息つき家の中へと戻った。
「繭は行ったか?」
「ええ」
繭の父親は仕事を辞めていた。最後の一週間ぐらいは家族と一緒に暮らしたいという思いからだった。
彼は静かに椅子に座ると華穂に切り出す。
「華穂。疎開の件だが……どうする? 現在なら知り合いが米軍基地に疎開させてくれると言っているが……」
「……どうしたものかしら」
ここ一週間この夫婦は同じ問題で頭を悩めていた。
疎開をしていれば助かるかもしれない。
疎開するくらいならこの家にいたい。
「……あなた」
華穂が夫に向かって呼びかける。
「なんだ?」
「私はここを動くべきじゃないと思うわ」
「……どうしてだ?」
「繭はそんなこと望んでいないもの……」
そう言って自信も椅子に座る。
「あの娘ね、学校が休みの時はいつも『みゅー』のお墓参りに行ってるの。今は毎日よ」
「そうだったのか……」
驚いた顔で言う父親。華穂はさらに続ける。
「それにね、私もここから動きたくないの」
「華穂……」
「もし私が消えるとしても、あなたと一緒にいたいから、思いでの詰まったこの家で……」
それは涙のでそうなほど優しい笑顔だった。その笑顔につられて父親も微笑む。
「そうだな……。残り一週間ぐらい、新婚のころみたいにずっと一緒にいような」
二人は微笑みあいお互いの手を取り合った。




その頃、繭とみあは裏山にいた。
「本当に飽きないよね、繭は」
「うん……」
ここは「みゅー」のお墓の前。浩平が目印に、と置いた石の前には繭とみあが摘んだ花が添えられていた。
「学校が休みになってから、ずーーーーーっと、毎日ここに来てるじゃない」
「うん、みあちゃん……」
「なに?」
「『みゅー』はね、私の最初の友達……」
繭はすっとしゃがみ込んで「みゅ〜」のお墓につもった葉っぱをどける。
「ままがいなくなって、最初に出来た友達……だから……『みゅー』が寂しくないように来てる……」
「……あー、もう。わかったから泣かないの!」
ぼろぼろと涙をこぼしている繭にハンカチを渡すみあ。繭はそのハンカチを受け取ると涙を拭く。
「みゅー……」
「あちゃー。しょうがないわね、そのハンカチあげる」
「みあちゃん、ホントに?」
「なに言ってるの。私は嘘をついたことがいないので有名なのよ」
にっこりと笑ってみあが言う。つられて繭もにっこり笑う。


裏山でかわいらしい二つの笑い声が響いていた。






ここは学校の屋上。三人の女生徒が一緒にひなたぼっこしていた。
「気持ちいいわね」
「そうだね、雪ちゃん」
『きもちいいの』
そう、演劇部の部員二人と手伝い一人。川名みさきと上月澪に深山雪見である。
三人は体育館でよく使用されているマットに川の字になって寝転がっていた。


空の青。

雲の白。

風が運んでくる香り、音、ざわめき。


それらを感じながら三人はここにいた。




「屋上にマットを持ってきて、その上で寝たら気持ちいいと思わない?」
そんな提案をしたのは驚いたことに雪見だった。
それにみさきも澪も賛成した。
「がんばって、浩平君」
『がんばるの』
「怠けたら承知しないわよ、南くん」
澪とみさきが浩平を、雪見が南を捕まえ体育館からマットを運ばせたのだ。
「ぐぐっ、重い」
「くそっ、長森、七瀬に住井、手伝えッ!」
必死に重いマットを運ぶ二人とそれを見守るみんな。




ちょっと考えてみさきが口を開く。
「浩平君にはちょっと悪いことしたかな?」
「いいの、こないだここで昼寝してたから、それが報酬よ」
ふふっ、と笑って雪見が言う。つられてみさきも笑う。
「でも、たぶん報酬よこせとは言ってこないと思うよ」
「そんな性格じゃないしね。澪もそう思うでしょ?」
しかし、澪から返事はなくかわりにかわいらしい寝息が聞こえてくる。

くー……すー……。

ため息と共に雪見が微笑む。
「まったく……幸せそうね」
「そうだね」
そう言ってまた、笑う。


晴れた日の午後、青い空にしろい雲が流れてた。







学校のシステムが崩壊してからだいぶ長い時間が経っていた。
生徒がいない、教師来ない。いや来れるわけもない。終わりはすぐそこまで来ているのだから。
「んあー、であるからしてだ……」
しかし浩平達のクラスでは相変わらず授業が行われていた。
とは言っても髭の授業ばっかりだが……。
浩平は通い慣れた自分の教室をぼんやりと眺めてみる。
住井は相変わらず何やっているのか分からないが授業に集中してはいない。
長森に七瀬はいつものようにちゃんと前を向いて授業を受けている。
茜も特に変わったところもなく授業を受け、南は茜の様子を気にしつつ授業を受けている。
そして、柚木も真面目に授業を…………。
「……いかんな、疲れてるんだなオレ」
目をこすってもう一回見る、がやっぱり柚木だった。


キーンコーンカーンコーン……。


「んあー、じゃあここまで」
パタパタと道具を片づけて去っていく髭。
「んー、授業って疲れるよねー」
「……柚木、なんでお前こんなところにいるんだ?」
オレの言葉にきょとんとした顔になる柚木。
「え? 学校に生徒が来ちゃ行けないの?」
「お前の学校じゃないだろうが・・・・」
浩平はため息をつきつつ立ち上がる。
「じゃあな」
「あれ、どこ行くの?」
「昼飯食いに」
しかし、食堂はすでに閉鎖している。浩平はは階段を下りある場所を目指す。
校舎から少し離れたば場所。最近の浩平はここで昼飯を食っていた。
「遅いよー、浩平」
「たいして遅れてないと思うけどな」
ここ、軽音楽部の部室で瑞佳と浩平は昼食を一緒にとっていた。
どちらから言ったことではないが。
「はい」
「お、いつも悪いな」
浩平は瑞佳から手渡された弁当をむさぼるように食べはじめた。


ばくばく……がつがつ……がぶがぶ……。


「浩平……よく喉に詰まらないね」
「ふぅー、ごちそーさまっ」
そして、数十分後二人の見事に弁当は空になっていた。
「ふぅ……瑞佳、膝枕してくれないか?」
「……うん」


二人の時間。


そんな言葉ぴったりだと二人は思っていた。
「瑞佳……」
「なに?」
「午後の授業さぼろう」
「浩平……」
瑞佳が困った顔で微笑む。
「もう少し……な」
「……いいよ」


二人の時間は静かに流れてゆく







「日本に『世界の中心』となっている人間がいるのだな」
「おそらくは……」
アメリカの国連総本部からホットラインで一つの情報が日本へともたらされた。


世界を救う手段がみつかった、と。



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作品について思うに、最近どうも調子が悪いと感じる……。
作風を変えようしているからかな?(^^;

明日はONE発売一周年記念の日。
みんな、書くんだろうなぁ一周年記念SS
おいらも書かなきゃ。

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