はぐれ三匹【FARGO編】〜その10〜
血のにおいの立ちこめる浄化室で、高槻は浩平を見下ろしていた。。
「恐ろしい、な。人が壊れていくことが、こんなにひどいものとはな……」
「あらゆる数値が上昇してるしね。もうしばらくしたらこの世界から消えるわよ、きっと」
浩平は二人が自分を見下ろしていることも分かっていないのだろう。
ただ茜の亡骸を抱えて虚空を見つめていた。
その瞳には光というものがなかった。
絶望に彩られた瞳だった。
「急いで撤収して侵入者への歓迎準備をはじめて。みさおはもう準備できてるわね」
「はい、早速準備をします」
そう言って高槻は浄化室をでてゆく。
それを見送り浩平の母親、現FARGO最高権力者は浩平に視線を向ける。
その瞳が一瞬だけ同情に変わる。が、きびすを返し浄化室をでてゆく。
浄化室の扉を閉め彼女は一つため息をつく。
「……ごめんね、浩平」
そして、浄化室に静寂が舞い降りた。
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無機質なコンクリートの中、ここはFARGOの訓練施設。
住井が何度目かのため息をつく。
「人間がいない。あるのは死体ばっかりだぞ……」
むっとするような血のにおいの中を彼らは進んでいた。ともすれば吐きそうになるにおいだ。
郁未も同意する。
「子供にはちょっと見せられない光景ね……」
「うーーーー」
未悠は今さっきからずっと目隠しされている。
郁未はこの光景に見覚えがあった。
『ロスト体の暴走』
昔、由衣の姉がロスト体になったときもこのような光景が広がっていた。
しかし、そのときとは明らかに違う痕跡が幾つもあった。
「見て見ろよ。この壁のえぐれかた」
住井が指さす先には巨大な爪でえぐられたような痕があった。
また、天井にも穴が開いていたりと様々状況証拠が残っていた。そして、それは廊下の先へと続いていた。
「つまりは、誰かが戦っている、ってわけか」
「でも、誰が? 何かおかしくない?」
住井の言葉に当然の疑問をぶつける柚木。そう、ここはFARGOの施設なのだ。
ここでこれだけの破壊力を持つ者といったら、不可視の力の持ち主しかいない……。
「そうね。私も未悠もここにいるし葉子さん達は別行動をとってるし……」
「うーーーーーん」
頭を抱える一同。そのとき大きな爆発音が廊下の先から響いてきた。
ドォーーーーン…………。
顔を見合わせる一同。そして、走り出す。そこにいたのは巳間晴香だった。
「晴香さん?!」
「郁未? 助かったわ!」
そう言って誰かを背負ったまま力を発動させ何かに向かって放つ。
とりあえず郁未も続けてそこにいる何かに向かって力を放つ。
ドォォォォォーーン!!
力のかたまりが命中した、がそれはその一撃では死なず逃げていったようで気配が消える。
やっと何者かの気配が完全になくなったのを確認して郁未は晴香の方を見た。
そこで郁未は、晴香に背負われている者が誰か気づいた。
「い、郁……未……」
「え? なんで……葉子さんは?」
そこにいたのは少年だった。訳が分からず晴香さんの方を見ると彼女は口を開く。
「由衣に言われてね、郁美達の援軍としてFARGOの施設に行こうとしたときこいつにあったのよ」
そう言って再び意識を失った少年を見る。
「どうしたのかッて聞いても答えないし、郁未に伝えないと、としか言わないからここまで何とか連れてきたってわけ」
少年の傷は素人目にもひどいものに見え、命に別状はないにしろひどいものであることは明白だった。
「当然病院にも連れて行くわけには行かないんでしょ?」
無言でうなずく郁未。ため息をついて意識を失った少年を背負い直す晴香。
「とりあえず、どこか隠れるというか……休める場所を探さないとね」
「いや……急ぐんだ……」
意識を失っていたはずの少年が苦しそうに言う。
「どうして? 何があったの?」
「鹿沼さんが……殺されたんだ。やつらの隠し種らしいやつらにね……」
「葉子さんが……?!」
「はっきりとは確認してないけどおそらくは……」
崩れ落ちそうになる郁未を柚木と住井が支える。
「…………泣くのは後でも出来ます……冷たい言い方ですけど」
柚木が慎重に言葉を選びながら口を開く。郁未は青い顔をしながらもしっかりと立った。
「続けて…………」
「やつらの隠し種は不可視の力の持ち主だ」
「それなら別に……」
「問題があるんだ。やつらは常に数人で行動して、おまけにそれぞれが力が強い」
「これだけダメージを被ってるのが何よりの証拠ね」
そう晴香が言ったときだった。
スピーカーから声が流れてきた。
『はじめまして、元気?』
「誰?」
『初めまして、折原浩平の母です』
『それにみさおだよ』
「なんの用?」
晴香が眉をひそめ尋ねる。
『たいしたことじゃないわ。あなた方お客さんの歓迎準備が出来たから教えてあげようと思っただけよ』
「……折原と里村さんは無事だろうな?」
住井の問いにスピーカーから聞こえる声は一瞬だまり、そして続けた。
『無事じゃないわ、間違いなくね。あなた達ももうしばらくしたら浩平のことを忘れるんじゃないかしら?』
「……!」
『この廊下を真っ直ぐ進めば大きなホールがあるわ。そこで待ってるわよ。くれぐれも別の道を通ろうなんて考えない事ね』
ぶつっ。
スピーカーから音が消える。住井達は顔を見合わせるとゆっくりと廊下の先を見た。
「早い話、他の道にもしっかり歓迎準備をしているって事か」
「突入するべきね。そうでもしないと腹の虫が治まらないわ」
いらだちを隠さずに晴香。
「……茜、大丈夫かな……」
「なんにせよ急いだ方がいいと思うよ」
少年の言葉に一同はうなずき廊下を進み出した。
そして数分後、FARGOとの総力戦が始まる。
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南森は自分の能力を過大評価したことはなかった。
『オレは別行動で七瀬に怪我させた奴を殺してくる』
相手は間違いなく強かったし勝てるとも思えない相手だった。職業としての一流の暗殺者だろう。
だが、譲れないコトもある。
「だからといって……ちっと無鉄砲だったかな?」
そう言って、痛みに顔をしかめる。たぶん肋骨も幾本か折れ、体中に大小さまざまの裂傷。しかも相手はまだまだ余力を残している。
相手は両手にシャムシールと呼ばれる曲刀を小型にしたようなものを持っていた。
「素手で来るのは無謀としか言いようがないな」
男の方はまだ笑みを浮かべるほどの余裕があった。
「暗殺家業15年。ここまでオレを楽しませてくれた奴も珍しい……」
「……そいつは、お褒めにあずかり光栄だ」
「だが……それも飽きた」
男は両手に持った武器をかまえるとすっ、と腰を落とす。
「その苦しみ、終わらせてやろう」
2Mほどを一足飛び男が南森に襲いかかる。男の右手から繰り出される曲刀を左体をひきかわす南森。
しかし、間髪入れずに左の曲刀が襲いかかる。これが二刀流の強みだ。
男の顔が勝利を確信してにたりと笑った。
ずぶっ。
そのとき男の顔は驚愕にゆがむ。南森は密着するほどに男に接近し自分の肩で男の曲刀を受けていた。
南森が男の左腕をつかむ。
「な?!」
「覚悟の仕方が違うんだっ!」
言うと同時に男の左腕をひき右肘をこめかみに打ち込む。
「か…はっ」
そして男が崩れ落ちると同時に蹴りをたたき込み仰向けにさせ、顎を踏み抜く。
ごぎぃっ。
砕けた顎の骨が気管を貫き、やがて男は絶命する。男が動かなくなったのを確認し南森は座り込む。
状況はすこぶる最悪だった。
どうにか肩と傷と足に止血帯を結ぶ。骨が折れる作業だった。
「住井達と合流しないとな……」
南森は止血帯をしっかり締め直し立ち上がろうとした。
しかし、それはかなわず再び壁にもたれかかる。
「……いてぇ……な……」
そう言って目を閉じる。すぐに心地よい眠気が襲ってくる。
なぜか大量の血液を失ったはずなのに寒さは感じなかった。
「……ああ……留美に電話……しないと、な……」
そう言って胸元の携帯電話を取り出そうとした手が、力無く床に落ちた。
そして、物言わぬ屍が二つに増えた。
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七瀬は混乱していた。さっきまで普通に話していた長森がいきなり意識を失って倒れたのだ。
ナースコールをすることも出来ずに意識を失ったその体を揺さぶるしかできない。
「瑞佳っ、瑞佳っ!」
「………………」
しかし長森の意識が戻る気配はない。七瀬がどうにかして人を呼ぼうと決心したときだった。
「…………………………」
瑞佳の目が開き、そして立ち上がる。その両目にいつもの瑞佳とは違った雰囲気を宿して。
「瑞佳、どうしたの? 大丈夫?」
「……いかなきゃ……」
そう言って七瀬に背を向ける。
「ちょっと、瑞佳?」
「……いかなきゃだめだよ、まってる……」
「え? 待ってるって誰が?」
「やくそくしたんだよ、こうへいと……こうへいがないてる……」
そう言って瑞佳は病室から出ていく。七瀬は後を追いあわててドアを開ける。
「…………いない? ……瑞佳……?」
七瀬は静寂の中に一人取り残され、ただただ呆然としていた。
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一面の赤。
真っ赤な世界。
ほら、僕はまたこんなところにいる。
ぼくはえいえんなんていらなかったのに。
またこんなところにいる。
『えいえんがほしかったの?』
ぼくはえいえんなんてほしくなかったんだ。
『どうしてここにいるの?』
ぼくはあんなせかいにいたくなくなったんだ。
またあんなかなしいことがあるなんて、ぼくはおもってなかったんだ。
だからぼくはここにいるんだ。
『あんなせかいはいらなかったの?』
もういやなんだ。
『なにがいやなの?』
なにかがきえるのはいやなんだ。
しあわせがきえるのはいやなんだ。
あんなかなしいことがまたおきるのは、いやなんだ。
もう、あんなせかいなんて……。
『………………』
あんなせかいなんてもういらない。
『……じゃあ、やくそくして』
やくそく?
『うん、やくそくだよ』
なにをやくそくするの?
『ずっとここにいて。ここにいてくれるなら……』
ぼくがここにずっといたら?
『わたしがおにいちゃんののぞみをかなえてあげる』
でも…………。
『わたしはそれができるんだよ』
…………。
『のぞめばぜんぶかなうんだよ』
ぼくは……。
『やくそくしてくれる?』
……やくそくするから、だから……。
『だから?』
あんなせかいなんてきえてしまえばいいんだ。
あんなせかいなんてもういらない。
あんなかなしいことばかりあるせかいなんてこわれちゃえばいいんだ。
『こわしちゃうの?』
こわしてくれるの?
『……やくそくしてくれるんだよね』
ぼくはずっとここにいる。
やくそくだ。
『えいえんのめいやくだね』
……えいえんのめいやくだ。
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さぁさぁさぁ、やってきました十本目!
もうすでに話が破綻しているという噂には耳をふさぐっ!!
そして、感想くれた方々ありがとうございました。
本当に励みになっています(いやマジで)
では、読んでいただけると幸いです。
ではでは〜
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