がんばれ! 南くん〜演劇編〜 投稿者: YOSHI
がんばれ! 南くん〜演劇編その3〜

〜あらすじ〜
七瀬の陰謀によって演劇部にはいることとなった、我らが主人公南明義。
なんと三ヶ月後の公演で主役を務めることになった。
さらに広瀬真希の入部、深山部長のオーディションの発表。
なんと審査をするのは南ただ一人!
七瀬と広瀬の両雄の激突!!
南に果たして明日があるのだろうか? 
それでは、開幕!



ターニングポイント、分岐点というのがあれば正にそれだ。
「ヒロインは純真な女の子を演じてもらうわ。そしてもう一人には悪女を演じてもらうわ」
深山部長は爆弾発言、ヒロインを七瀬と広瀬から選ぶ、の後続けて言った。
「そこで、南くんから見ていつもの二人の素行を考え選んでね」
いつもの素行…………。南は帰り道でウンウンうなっていた。まさしく五十歩百歩という奴だ。
広瀬は、性格はともかく姿は純真なヒロインには及第点だし演技力には深山部長のお墨付き。
七瀬は、性格は…………姿は問題なし、演技力のなさは根性でカバーできるだろう。
「でも、そんなことは問題ぢゃないんだよなぁ」
まさしく、前門の虎、後門の龍。進退極まる状態だ。もちろん南とて命は惜しい。
軽はずみな言動をさけることぐらいは理解している。
しかし、決定は下さなくてはなるまい。
「まずは明日を生き延びることだな……」
深いため息と共に南はそうそうに結論を出して家のドアを開けた。

そしてその夜……。

七瀬は洋服ダンスを開けるとあるものを取り出す。
「これで、ヒロインは私のものね」
そうつぶやくと七瀬は目覚ましをセットした。
「決戦は明日……」
そして七瀬は眠りについた。

同じくその夜……。

広瀬は台所に立っていた。
「ふふふふ。これで南くんも私を選ぶわね」
つぶやきつつ『今日の料理』なんかを見ていたりするのはご愛敬。
「明日は勝負の日ね……って、こげてるーーー!!」
そして広瀬はやけどを負った。



翌日……南宅玄関にて。

まるで石像のごとく見事に硬直した南がいた。
「おはよう。南くん」
「……あ、お、おはよう……七瀬さん…………」
これでも南にとっては精一杯の言葉だったろう。
七瀬が朝、迎えに来ただけでも驚くべきことなのにさらに南を驚愕させることがあった。
七瀬は制服だったのだ。
当然だと思った人達はまだ甘い。七瀬の制服は長森や広瀬が着ているものだったのだ。
つまりは高校指定の制服だったのだ。
南はどちらかというとその制服がいやだとか思っているわけではなかった。
しかし、七瀬さんが今まで着ていなかった高校指定の制服を着てきたことの衝撃が大きかったのだ。
すでに南の脳味噌は淀川から太平洋そしてカスピ海へと流れていた。
「……七瀬さん」
「なに?」
「何か悪いものでも食べた?」
ぴくっ。七瀬のこめかみが一瞬引きつる。でるか必殺の七瀬のボディブロー。
しかし、七瀬の拳は握りしめられ震えながらもそこにとどまっていた。
「何言ってるの、南くん。早く行かないと遅刻するわよ」
「あ、ああ」
「さ」
そう言って七瀬が南の手を握る。
パンパカパーーーーン。
南の頭の中で新日本フィルハーモニー交響楽団のファンファーレが鳴り響く。
某恋愛ゲームであったようなシチュエーションである
しかし南にはこの状況を楽しむだけの余裕はなかった。
あまりといえばあまりのことに南の頭の中では狐と狸とがを踊っていた。
ゲスト出演でパンダもいた。混乱するなというほうが無理だろう。
「さ、行きましょ」
「あ……うん」
七瀬に半ば引きずられるようにして南は学校へ向かった。
しかし、それでもしつこく頭の中ではコアラとカンガルーにパンダが仲良く腕を組んで踊っていた。
その光景をブロック塀の陰から見つめる女がいた。みなさんご存じ広瀬である。
広瀬は二人を見送りつつ一言つぶやく。
「やるわね……さすがは七瀬さん」
そう言いつつ包帯に巻かれた左手をさする。そしてにやりと笑う。
「でも、最後に笑うのはわたし。この広瀬真希を出し抜こうなんて10年早いわ!!」
無意味にぐぐぐっ、と拳をにぎり締め…………腕の時計に目をやる。
「きゃあぁぁぁ!! 遅刻しちゃうぅぅーーー!!」
ちなみに広瀬は何とか間に合ったそうである。



同日、昼休み。


「おい、南」
昼休みの開始を告げるチャイムと同時に住井が南のところへやってくる。
その間わずか3秒。
住井は実に深刻そうな顔をして南に詰め寄ると言った。
「お前……本気か?」
「何が?」
「今朝、七瀬と一緒に登校してきたそうじゃないか」
「ああ、そうだけど」
「お前……マゾッ気があったのか?」
「違うっ!」
南はとりあえず事情を住井に話した。
演劇部部長の決定でオーディションがある。
それの決定権を持つのは自分であること。
乙女としての意地かどうかは知らないが今朝の行動は七瀬が自分が選ばれたいからとった行動だということ。
「というわけなんだ」
「……苦労してるなぁ、南」
「まったく、七瀬さんもよくやるよ」
「しかしな、お前少しまずいぞ」
「何が?」
住井は南の耳に小声でささやく。
「かなりの数の男子生徒がお前を抹殺するためにうごいてる」
「冗談だろ」
「ホントだ」
そう言って住井は目だけを動かして廊下に目をやる。
「いいか、ぞーーっと目だけ動かして見てみろ」
廊下にはいっちゃった目をした男子生徒が数人。中にはナイフを手にした奴も……。
「住井ぃぃぃぃ」
「寄るなッ、オレまで巻き添えを食らう」
「何とかしてくれよ」
「無理言うなよ。あいつらはおそらく七瀬ファンクラブの一員。暗殺部隊だろう」
「いつのまに出来てたんだ」
「ちなみに部長はうちのクラスの中崎だ」
「中崎か……住井、どうにかならないか?」
「…………仕方ないな」
そういってすっと右手を差し出す。
「千円」
「おい、住井」
「命には代えられまい?」
実に楽しそうに笑いながら住井が言う。
泣く泣く南は財布から千円札を取り出し住井に渡す。
「じゃあ、ほとぼりが冷めるまでどっかに隠れておけ」
「でも、まだ飯食ってないんだ」
「おいおい、購買になんか行くなよ。間違いなく刺されるぞ」
「…………わかった。校舎裏にでも行っておく」
「安心しろ。金をもらったからには全力を尽くす」
「金をもらわなきゃ全力を尽くさないのか?」
「細かいことは気にするな。それよりも南」
住井は右手の人差し指をびっと立てる。
「おそらく、広瀬の方も何かしら仕掛けて来るぞ」
「まさか」
「あの二人だからな。龍虎決戦みたくなるのは目に見えている。気を付けろよ」
「……………………」
そう言われて否定できるだけの材料は南にはなかった。
住井はその間にいっちゃった目をした集団に近づいていく。
「おのれ南め」
「まあまあまあ」
「俺達の七瀬さんを」
「まあまあまあ」
「殺してやる」
「まあまあまあ、ちょっと落ち着いて話を聞いてくれよ」
さすがは住井。男達を誘導してどこかへと連れていく。
それを見送り南はため息をつきつつ立ちあがる。
次の刺客が来ないうちにさっさと校舎うらにでも行っておくか。
そう思い足早に南は教室を去った。
しかし、南は気づいていなかった。教室からでた南を尾行する影があったことを。



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うーーーん。忙しい……。なんで大学はこんなに飲み会が多いんだろ?(笑)
最近投稿スピードが落ちてきてるからそろそろスピードアップします。
感想、ありがとうございました〜。非常に励みになってます(いや、ホントに)
ではでは〜。
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