がんばれ!南君 〜演劇編〜 投稿者: YOSHI
がんばれ!南君 〜演劇編その1〜 


ここは演劇部室。訳の分からない大道具という名の粗大ゴミがあり、看板あり、台本あり、資料あり、そして欠かせないものがもう一つ。
そう、この高校の演劇部でも公演が近づくにつれ毎年のように起きる光景が展開されていたのだった。
「なんでそんなこというんだよ。ともだちだろ?」
「台詞が棒読みぃぃぃっ!!」
本日何回目になるか分からない深山先輩のメガホンアタックが炸裂する。
さらにはコンボでこめかみに肘まで打ち込む。
「わかってるの?! 公演まで後三ヶ月よ、さん・か・げつ!!!」
「いやでも、オレはもともと演劇部員じゃ、ぐあっ?!」
「口答えも認めないわっ!!!」
深山先輩のやくざキックをくらい、南明義は気持ちよく意識を失う。
そう、南明義。里村茜命のめげない男である。今彼は身に余る大役を受けていた。
しかし、彼はもともと演劇部員ではなかったにも関わらずである。
その理由は数ヶ月前にさかのぼる。





そう、数ヶ月前彼は何気なく文化部部室の集まる場所にいた。
何故かといわれると単に教師の手伝いをして荷物を運んだだけだったのだが。
「さて、帰るか……」
そう、このとき何気なく彼は下駄箱への最短コースをとっていた。

それが不幸の始まりだった。

「お?」

たたたたたたたたたた。

軽快な足音をさせて女の子が走ってくる。確か……椎名繭ちゃんだったか。
その先には……七瀬さん。続いて向こうから折原が。
なんか巻き込まれるといや予感がしたので背を向け立ち去ろうとする、が、運命の女神はそうさせてくれなかった。

バキイィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーッッ!!

「うあっ、なんだっ?!」
南はあわてて音の下ほうに走る、と全力で走っていく七瀬さんの姿が見えた。
そして、彼の目の前には破壊された華道部の扉が残っていた。
「うあ、ひどいな、これ……」
何となくしゃがみ込んで破壊された扉の破片を拾う。別に意味のない行動だった。
が、運命の女神は彼に不幸を与えることを信条にしていたようだった。
運命の女神はここで演劇部部長、深山雪見を南明義と引き合わせたのだった。
「ちょっとなんの音?……あぁーーーー!!」
「違うッ、オレは無実だぁっ!!」
「みんなーーー、ちょっと来てーーー!!」
「どうしたの雪ちゃん?」
「どうかしたんですか深山部長?」
『どうしたの?』
ぞろぞろ集まってきた演劇部員が皆一様に破壊された華道部の扉を見る。続いてその破片を持っている南を見る。
そして、一様にため息をつく。
「いけないんだぁ」
「華道部の人達怒るわよ」
『いけないの』
「え、え、どうしたの?」
最後のはみさき先輩である。まあ、分からなくてもしかたない。
「華道部の部長って確かなぎなたの達人だったわよね」
「不用意に交際を申し込んだり、つまらないちょっかいを仕掛けてきた男を一刀両断だしねぇ」
演劇部一同の哀れみの視線が突き刺さる。
「待ってください!!」
そのときだった。ドアを壊した一味の一人、七瀬留美が歩み出てきた。
南の目には彼女が天使にも見えた。救いを求めて視線を向ける。
そんな中、深山部長は不審の視線を七瀬に向け一言聞く。
「えっと、誰?」
「南君のクラスメイトです。そのドアのことも見ていました」
「七瀬さん……」
南は感動の涙を流しつつ彼女の名を口にする。しかし、七瀬は次の瞬間南を地獄に突き落とす言葉を吐き出した。
「確かに華道部のドアを壊したのは南君です」
「…………へ?」
「やっぱりそうなのね」
七瀬の言葉にただただ呆然とする南と納得する深山部長。七瀬はなおも続ける。
「でも、あれは事故なんです。南君が走っていたとき転んでドアに突っ込んだだけなんです!!」
七瀬の目にはうっすらと涙がにじんでいる。
「情状酌量の余地があるんです!! 彼もこんなに反省しています!!」
そう言って南の頭を床に押しつける。
「ちょっ、七…………」
当然のように抗議しようとした南は七瀬の目を見てしまった。すなわち……。
『もし、本当のことを黙っていなかったら…………死』
これである。
深山部長は静かになった南と七瀬さんを見て一つ、ため息をついた。
「まあ、黙っててもいいけど。一つ条件があるわ」
そういって一枚の契約書……すなわち入部届けを取り出した。
それを南と七瀬に渡す。
「うちの部員には男もいないし、ちょうど人手が欲しかったの。入部してくれるなら黙っててもいいけど?」
そういって心底うれしそうににっこりと笑う。南には選択の余地などもなかった。



「だからと言って主役をやらせることもないと思うんだけどなぁ」
南は教室から部室に向かう道すがら七瀬にこぼす。
「いいじゃない。私はずっと、台本ワープロで打ってるのよ。そっちの方が断然いいじゃない」
「………………元はと言えば七瀬さんが悪いと思うんだけど……」
「え、なに? 何か言った?」
「い、いやなんでも」
七瀬のポケットから取り出されそうになったとげ付きのナックルを見て黙ってしまう南。
根性無しというなかれ。
誰だって生命は惜しいものである。


そして、演劇部室。今日はミーティングの日である。
「えー。今日は三ヶ月後の公演について。報告どうぞ」
「えー、まず日時は…………」
とまあ、こんな感じで進んでいく。準備の進行状況、後はありきたりな注意等々。
「さて、では今度の公演ですが上月さんがヒロインをやるはずでしたが…………」
ここで言葉を切る深山部長。
「運の悪いことに上月さんが体育の授業中に足をひねってしまい、公演に間に合いそうにありません」
『ごめんなの』
かわいらしい文字で謝る澪。
「そこでヒロインを選出しようと思いますが……その前に新入部員を」
そういって入り口に向かって言う。
「広瀬さん」
呼ばれて入ってきたのは同じクラスの広瀬真希、七瀬と死闘を演じた女だ。
南には一瞬、七瀬のからだから闘気のようなオーラが噴き出したように見えた。
「新入部員の広瀬ですよろしくおねがいします」
と同時に営業スマイル。

南の不幸は始まったばかりだった。


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新シリーズです。今回はいつもと書き方を変えています。
 
これが吉と出るか凶と出るか(^^;

出来る限り早く続きを書いていく気なんでよろしくお願いしますm(__)m

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