はぐれ3匹【FARGO編】 投稿者: YOSHI
はぐれ3匹【FARGO編】〜その8〜



世の中に歪みを持たない人間なんかいると思う? そうよ、いるわけがないわ。当然私だってそうよ。

でもね、それは確実に心の中で成長してゆくの。そしてその歪みが殻を破って突き破って現れたもの、それが『不可視の力』。

それでは『不可視の力』を持つ彼らの必要性もないのではないか、って? 分かってないわね。人間がそう簡単に殻を破れるなんて思う?

常識、自我、自己認識、何をとっても存在を越えるのには障害にしかならないもの。

なら、殻を破れそうなところで能力を与えてやれば、その与えられた能力を支配することができる、と言う訳よ。

今日はここまで。

何? いい質問ね。もしも、歪みを取り出して集めたらどうなるかって? 多くの人間の歪みを別のものとして取り出したら?

でも、そのままじゃ維持できないでしょうね。歪みは他の何かがあってこその歪みなのよ。だから集めれば、どうにかなるかもしれないわね。

そうね。制御する『強さ』を持つ人間がいれば可能なことよ。たぶん、集められた歪みは何かの形を取ることは想像に難くないわ。

たとえば……月の形なんかをね。





食堂に向かう。たまらなく気分が悪い。一人でもそもそと食事をとるのがつらくなってきた。
しかし、食べないのも体に危険で仕方がない。オレはトレイを取り出すと自室に向かう。一人で食うならどこで食べても同じことだ。
「美味いっ! 今日のエビフライは最高だっ!!」
フォークに突き刺したエビフライをかじってオーバーアクションで叫ぶ。拳を握りしめベッドに片足を乗せてエビフライを高々とかかげる。
「そう! 特にこの衣のさっくり具合と中のエビのジューシーさが…………」
言っててここまで虚しいのもないと思うが。大体いつもなら茜がいて、横で笑うか突っ込むか。でなけりゃ……だ。
「そんなに美味しいですか?」
そう、そう聞いてくるのだ……ってオレはあわてて入り口の方を見る。そこに、茜がいた。幾分やつれてはいたがいつもの茜だった。
オレは上手く声が出せずにかすれた声を出していた。
「茜……」
「……はい」
「足は……あるな?」
「……あります」
「体もあるな?」
「……ちゃんとあります」
いすを蹴飛ばして立ち上がる。そして俺達はお互いに一歩、また一歩近づいていく。
「嘘じゃない……よな?」
「はい」
「夢でも、ないな?」
たった15センチの距離で止まる。手を伸ばせば届きそうなのに届かないのが夢だった。
確かにそこにいるのに、届かない15センチだった。
茜は笑っていた。でも、オレは茜に触れることはなく、オレの手が届くこともなく。


『ミンメス、終了します』


無機質な声。結局、母さんにも会えず、茜もどこにいるかも分からない。打つ手がない。
「それが……現実なんだ」
口に出してつぶやく。ミンメスを出て廊下、そこでFARGOの巡回員が部屋に戻ろうとしたオレを呼び止めた。
「S−2。新しい訓練を受けてもらう」
「今度はなんだ?」
「浄化室には入れとのことだ」
浄化室……聞いたことはないが見たことがある。確かにそんな部屋もあった。
「今日の夜だ。忘れるな」
忘れていても、拒否しても結局は無理矢理にでも連れて行かれるのだ。どのみちそこに行くことになる。
「それで、浄化室で何をするんだ?」
「知るわけがないだろう」
それはそうだが、いつも道理の答えに辟易する。
「ただひどい場所というのは間違いない」
「は?」
いつもと違い一言だけだったが巡回員が漏らす。巡回員は珍しくため息をつきながら続ける。
「出てきた奴が完全におかしくなることもざらだったからな」
「ミンメスとは違うのか?」
「そこまでは知らんが……な」
そのままどこかに歩いていく。あの巡回員の態度……。
「浄化室って……なんなんだ?」
オレの疑問はとけることなく、時はあっという間に過ぎていった。





ごぅっ!! 

頭の上を風が薙ぐ。風と言ってもそれはかまいたちと何ら変わることのない真空の刃だ。

ダァーーーン!!

持っていた銃でまた一人仕留めた。朝から戦い初めてもう、何人倒したのだろう。俺達が着いたときにはすでにFARGOの訓練所の近くは異常なほどの警戒態勢に覆われていた。
コントロール体、自動小銃、ブービートラップの数々。そのせいで俺達の歩みは遅々として進まなかった。
「郁美さん、折原達は本当にあの建物にいるのか?」
「ええ、未悠がそこに二人がいるといってますから」

ばばっばっっばば!!

銃弾が地面をえぐる。その方向に郁美さんが力を放ち敵を沈黙させる。
「住井君」
柚木だった。こいつはAK47などを持っている。
「なんだ?」
「明義、大丈夫かなぁ」
そう言いつつ手榴弾のピンを抜き放り投げる。
「大丈夫なんじゃないか? あいつのことだから案外危険な状況になっても生き延びそうだし」
「うん……そうだね」
そう言って盾にしていた木から飛び出してゆく柚木は実にかっこよかった。
「さて俺もそろそろ行くか」





「おかしい、ですね」
葉子さんがつぶやく。それにあわせたように少年も口を開く。
「生き物の気配が……ない」
目の前にあるのはFARGOの施設。ここに来るまでに本物の銃や不可視の力を持つ能力者がいた。
そのせいでここにたどり着いたのはもう夕刻になっていた。
「FARGOのやつらが施設を放棄したんじゃないのか?」
「違う、生き物の気配がしないんだ。ここらに動物は一匹もいない」
「普通いるはずの鳥も小動物も何もかもがあの場所をさけているような気がするんです」
しかし、結局は作戦の変更は出来なかった。突入というか潜入というか。まぁ、大体そのようなものだ。
中に入ってから俺達3人は別々に建物を探ることにした。ちょうど建物も棟が三つだったのでそれにあわせて別れた。
「おかしいな……確かに」
俺はあちらこちらの扉を開けつつ思った。どの部屋にも生活感というものが欠落しているのだ。建物自体もコンクリの壁がむき出しの殺風景なところだった。
手に持った銃をかまえてドアを開けかまえる。幾度となく繰り返したが誰もいない、何事もない、はずだった。
「なんだ? これ」
放置された一枚の画用紙とクレヨン。遊んだ後そのままにしていた、と言う感じだ
何気なくその絵を手にとって見てみる。
「…………」
ものすごく妙な絵だった。男の子とお母さんに女の子、ここまでは理解できる。しかし、女の子が無数に描かれているのだ。
しかもその女の子達は全て同じ顔をしていた。
「おにいちゃん」
「え?!」
いきなり後ろからかけられた幼い声にあわてて振り返る。しかし、俺は一瞬の浮遊感を感じそのまま壁に叩き付けられる。

ぼぎぃ!

鈍い音が響き胸のあたりが灼熱感と痛みに包まれる。
「おにいちゃん、こんにちは」
「な……君は?……ごふっ!」
大量の血を吐いた俺。自分の手が真っ赤に染まるのを呆然と見ていた。しかし俺の姿を見て、女の子はにっこり笑う。
「わたし? わたしはおりはらみさおだよ」
折原。確かに今そう言った。と言うことは折原浩平の妹だと言うことだろうか。
「がふっっ!」
再び血を吐く。どうやら肋骨が肺に刺さっているようだ。
「くるしそうだね、おにいちゃん」
そう言って右手を静かにあげる。そして、その手に光球が浮かぶ。
「くるしそうだね。でも、もうだいじょうぶだよ」
そして全てが白く濁った。





『浄化室システム起動します』
オペレーターとでも呼べばいいのだろうか? 声が静かに告げる。浄化室……今までのミンメスとかと作り自体は同じだった。
しかしここで描かれているのは壁一面の幾何学模様。そしてオレはその中心で立ち尽くしていた。
『開始』
声と同時に目の前が真っ白くなるが、徐々にその世界に色が付いてくる。
「病院?」
そう、消毒液のにおいにどこまでも延びる廊下。ここは間違いなく病院だ。ただ、俺はこの場所に見覚えがあった。
「………………」
そう、昔何度もここに来ていた。何度もこの廊下を歩いた。そう何度も、数え切れないほど。
ここ、折原みさおの病室に。
オレはノックをせずに入った。昔は何度言われても忘れてしまってこうやって入っていた。
「……みさお?」
そう、そこに確かにみさおがいた。そして…………。
「どうしたのおにいちゃん?」
そう言ってにっこり笑ったんだ。





「ここがS棟……」
A棟と作り自体はまったく変わらなかった。無機質なコンクリートに時折見える巡回員。
見つかったらどうなるか。……ただでは済まないことだけは理解できた。
しかし、私の考えは一瞬でうち砕かれた。
「おい」
おそるおそる振り返る。そこにいたのはやっぱり巡回員だった。
「はい、なんですか?」
出来うる限り冷静さを装いさりげなく右手を隠す。ここはS棟だ。もしも私がSクラスでないとばれたら……。
しかし巡回員の対応は私の予想外のものだった。
「まったくこんなところで何してるんだ? さっさと浄化室にいけ」
「え?」
浄化室……聞いたこともない。予想もしなかった言葉にとまどっているとまた勘違いされたらしく、がしっと手をつかまれ引っ張られる。
「まったく世話やかすなよ」
抵抗も出来ず、ずるずる引きずられ行き着いた先に浄化室はあった。
「あの……」
「ほら、さっさと入れ」
有無を言わさず部屋の中に押し込められる。そして重そうな扉は音を立てて閉まる。
部屋のなかに視線を戻す。と、そこには……浩平がいた。
「浩平ッ!!」
私はあわてて駆け寄ろうとするが突然強い風にあおられ目をつむる。そして目を開けるとそこは……。
「久しぶり。元気だった?」
「つ、司?」
目を開けるとそこはもうとうに家が建ってしまったはずの空き地で、そして、城島司がいた。
「そう、僕だよ」
永遠の世界に行って、そして戻ってこなかったはずの幼なじみがいた。





「まさか……」
タイムスリップ。ひどく陳腐なことを考えてかぶりを振る。馬鹿馬鹿しい。第一オレはFARGOの浄化室というところにいた……。
と言うことはこれは幻なのだろうか?
「それは違う」
突然、背後から聞こえた声にあわてて振り返る。そこには見知らぬ男がいた。
「お前はだれだ?」
そうオレがいうと男はにっこり笑う。
「初めまして折原浩平君。僕は城島司っていうんだ」
「……お前のことは知らないぞ」
「まあ、気にしないでくれよ」
そう言うと城島はみさおの方を見やる。その顔が少し驚いた表情になる。
「なるほど、君の歪みの形はこれか」
「だから誰なんだよ……お前」
「ま、茜の関係者だね」
そう言ってみさおに歩み寄り手近にあった見舞い品のリンゴを、これまたどこからか取出したナイフでむき始める。
「茜の関係者だって?」
「ああ、君の歪みが折原みさおであるように彼女の歪みは僕なんだ」
城島がむき終わったリンゴをみさおに渡すと美味しそうに食べ始める。
「簡単にいうと君が望む、そして現実ではありえないこと、それが歪みなんだ」
「オレの望み……」
「そう、自分の妹と幸せに過ごすこと。それだけさ」
そう、事実、みさおは死んでいる。こんな光景もあるわけがない。
「つまり、これは幻なんだな」
「厳密にいうと違うね。これは君の歪みを具現化したものだから、これがここにある限りは、この場所……この世界からでられない」
やることがなくなったのか城島は手の中でナイフをいじり始める。
「どうすれば、この歪みは消えるんだ?」
「歪みと決着を付けること。これ以上のヒントは出せないよ」
そう言ってオレにナイフを手渡す。
「もう、わかるだろ?」
そう言って城島は病室を出ていく。手の中に残ったのは何故かそれだけが強い存在感を持つナイフ。
歪みと決着をつける。死人には死人の場所が、生者には生者の行き場所がある。
「おにいちゃんどうしたの?」
それは幻ではあっても、また幸せな夢であっても、みさおを殺すことに他ならない。
オレはみさおを見る。十年以上も前と同じ笑顔、変わらない姿。
「もう、おにいちゃんこっちにきてよ」
困った顔でみさおに言われてもオレは動くことが出来なかった。
「もう……」
そう言ってみさおはベッドから降りてくる。その手の中にはカメレオンが、プラスチックのカメレオンが握られていた。
オレは覚悟を決めゆっくりとナイフをかまえる。

これは、このみさおは幻だ。

「……みさお」
「うん?」
これが幻なら、このみさおがオレの歪みなら……それを消すことが、オレの……。

ずぶっっ。

オレの手に鈍い感触が伝わった。



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えっっっっっっっっっらく久しぶりのYOSHIです。

住井「まったくだ。きっと誰も憶えてないにきまってるぞ」

…………いや、きっとひとりぐらいはいるかもと思うから、さ。とりあえず完結は間違いなくさせる。

住井「いつまでに?」

まあ、あまり大風呂敷広げていると後がきつそうだし。まあ駄作だけど読んでいただけると幸いだな。

住井「では、今日はこれくらいでおわるか」

では、またーーーー(^.^)/~~


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