はぐれ3匹【FARGO編】 投稿者: YOSHI
はぐれ3匹【FARGO編】〜その7〜



俺たちは記憶に残る人間を何人あげることができるのだろうか? 俺はそう多くはない。
そして、それは時として友人や恋人以外の人間であることも多々ある。

本当に一瞬だけの……ほんの人生での一瞬だけのつながり

遅刻しないように走っていく名前も知らない生徒。

たまたま塾で隣同士になって話したあいつ。

名前も覚えていないような、遠い日の記憶の彼方にかすむあの娘。


「住井、南森と七瀬さんは来なかったな」
「ああ」
「私たちもやっぱり……忘れちゃうのかな?」


正直なところ折原達のことは気が重く、俺はまったく心の整理がついていない。
たぶん俺の人生の中で一番長かった『あの日』から俺の心一歩も先に進んでいなかった。
南も柚木はどうなのだろうか?
それを面と向かって聞くほど俺は馬鹿でもなかった。


「もう、五年もたったんだよね、明義」
「俺達もいい年だよな」
「まったく、あついねぇ」
「ま、まあな。俺達は2人で笑っていられれば、人生それだけで十分なんだ」
「否定しないあたりがなぁ…………」


たぶん、あいつらも後何年忘れずにここに来られるか怪しいもんだ。
最後に残るのは間違いなく俺のはずだ。
忘れることで一歩踏み出すのではなく、忘れないことでここにいる俺が。
俺の友人の中でもとびきり変わったあいつ、猫が好きな彼女、折原と一緒の時は笑っていたあの娘。


『君に殺されることが僕の望みだったんだ』
『えいえんはあるよ。ここに……あるよ』
『わたしがこのせかいをこわしてあげる。ぜんぶをまっかにそめてあげる』


もう、あいつらはいない。
つまり、正確に言うとこの世界にはいないんだ。
昔、誰にも憶えられていない人間は死んでいるのと同じことだと聞いた。
でも、俺が憶えていると言うことはあいつらは死んでいないことになるのだろうか?
俺は胸ポケットから一枚の写真を取り出す。そこには五年前に撮ったみんなの顔があった。
それが何かの拍子に忘れてしまいそうになるあいつらとの唯一のつながり、絆なんだ。


「俺は……ここにいるぞ」
「なんだって、住井?」
「なんでもない」


名前の刻まれない墓。俺達があの二人のことを忘れたときに、この墓にに誰も来なくなったときに、この墓には名前が刻まれることになっている。
誰も憶えていない人間は死んでいることと同じだから。


俺の友人、折原浩平。そして俺がずっと好きだった女性、長森瑞佳の名が。





FARGOの計画は『不可視の力』を持つ能力者を安易に造ることにあったのではないか、と私はにらんでいる。
不可視の力とて万能ではなく、むしろ弱点だらけだ。そして不可視の力を持つあいつらがいなくなったら……もう、能力者は造れない。

「だからあいつらに頼らない能力者を造りだした訳ね」
「例外なくファースト、能力に覚醒した1代目はロスト体に近くなります」
「能力の制御ができなくなる訳か」
「しかし、2代目以降その能力は安定し訓練無しでもコントロール可能です」

しかし、2代目の多くが能力者として覚醒する前にFARGOは壊滅的な打撃を受けました。さらには能力の覚醒率は異常なまでの低さだったそうです。
予測した数値の10%にも満たなかったそうです。しかし、能力に目覚めた人間を使い実験は続きました。

「そして、その中から二人の人間が消滅したのが確認されました。一人は城島司、そして折原浩平です」
「あれ? その名前なんか聞いたことあるような気がするけど……」
「まあ、彼らはこの世界から消えました。能力者がただ消滅、と言うのならよくあることだったのですけど」
「折原浩平は戻ってきた。じゃあ、消えていた間彼はどこにいたのか? ってことになった訳よ」
「そして、『Project Eternal』は彼が世界の持ち主と考えたの」
「世界?」
「つまりは『永遠の世界』を作り上げた人間だと思った訳よ」

”ちょうど近くで城島司という例があり、おそらくは折原浩平の世界に行ったと思われる。”

「ちょっと待って。なんで茜も一緒に連れて行かれなきゃいけないの?」
「城島司は担任の教師が死亡してから数ヶ月後、その存在が消えました。折原浩平にも妹がいましたが」
「病気で死んだはずなのよ。そして姉さん、浩平の母親もFARGOに消えてしまったわ」
「この世界から消えるためには幾つかの条件が必要ですが、その条件でもっとも重要なもの」
「まさか……」
「その通り、絶望です」

しかし折原浩平は妹が死んでから実に十年以上たってからこの世界から消えています。城島司の例とはあまりにもかけ離れています。
そこで、FARGOは一つの結論を出しました。

「折原浩平は『永遠の世界』の持ち主ではないと」
「じゃあ、二人は無事に帰ってくるの?」
「いえ、それはあり得ません」

FARGOとしては『永遠の世界』に行くために彼の肉体、精神がどのように変化したのかを知りたいはずです。
なら、どうするか。

「茜を……殺すの?」
「彼の最愛の女性の死は、おそらく彼の能力を発動させるには十分でしょう」
「折原達がどこにいるかは……分かりませんか?」
「候補は2カ所。共にFARGOの訓練所よ」
「だから二手に分けたいと思う。A隊B隊に分ける」
「A隊には住井くんに柚木さん、そして郁美に未悠ちゃん」
「B隊には南森に葉子さん、南、そして、謎の少年だ」
「私は?」
「長森さんは七瀬さんとここに待機」
「…………」
「大丈夫だ。折原は無事だ、きっとな」
「じゃあ、明朝5時に集合しましょう」

そして、午前5時。まだ、日も昇っていないとき。物の怪達が隠れ始める時間に俺達は車に乗り込んだ。

そして俺、住井護はこの日初めて人を殺した。




そもそもの始まりは

「『永遠の世界』とはなんだと思いますか?」

そのような疑問を女は静かに聞いていた。部屋にいるもう一人の男、高槻は女とは対象的に落ちつかなげに部屋の中を歩き回っていた。

「そもそも人間が永遠と言うものを作り出せるわけもありません。そんなことができればそれは人間ではないはずです」
「あら……そうかしら?」
「一つの世界を維持できるものが人間のはずはないでしょう」
「じゃあ、私は人間じゃないのかしら?」

高槻はわずかに不快をあらわにする。からかわれているとでも思ったのだろう。

「『世界』と言うなら誰もが持っているはずじゃない?」
「しかしそれは心のことでしょう。心に永遠があるからどうだと言うんですか?」
「今から数十年前……イギリスでの怪事件。父親が娘の心に取り込まれると言う事件があったわ」
「父親が錯乱していた可能性も捨て切れませんね」
「……まだ分からないの?」

女は小馬鹿にした表情を見せる。高槻は訳も分からず目を白黒させている。

「『永遠の世界』とはなんなのか、まだ分からない?」
「…………まさか、人の心ですか?」
「ええ、永遠を持ち続ける心。つまり子供の心よ。大人は永遠なんてないと思うのよ」
「では、『永遠の世界』に行った人間というのは、誰かの心に取り込まれたということなんですか?」

女は無言で頷く。

「たぶん取り込まれた人間は一種の精神体になるんでしょうね。でも、それまでの過程はまだ分からないけど」
「だから折原浩平を使って実験するんですね」
「それと、たぶんお客さんも来るわよ。歓迎の準備をしておきなさいな」
「『みさお』を使うんですか?」
「いえ、それは最後に出すわ。コントロール体を全部出して。足りなければロスト体をけしかけてもいいわ」
「しかし、あと十時間持つでしょうか?」
「持たせるのよ。もう少しで教主様は新たな存在になるのよ」
「歪みをとりこんで、人間を捨て、何になると言うのですか」
「そうね…………」

女は空を見上げる。

「赤い月になるんでしょうね、きっと」


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なーんかスランプだなぁ。調子悪ッ。
住井「里村さんは次回…………」

ダキューン!!

ありがとうゴ○ゴ13。邪魔者は片づいた。でも、最近ペース遅いや。
南「それは○ーズワー○をやってるからだな」

ダキューン!!

たびたびありがとうゴ○ゴ13。では、今回はこれくらいにしてっと。
感想書いてくれた方々ありがとうございました!
本当に励みになっております。m(__)m
レスを返すべきなんでしょうが……いかんせんYOSHIも忙しくて申し訳ありません。

では、次回はぐれ3匹【FARGO編】〜その8〜でお会いしましょう。