はぐれ3匹【FARGO編】 投稿者: YOSHI
はぐれ3匹【FARGO編】〜その5〜




なぜかまぶしい、というか、とてもまぶしい。私がそれを朝の光だと自覚する前に声がかけられる。
「起きなよ、郁未。朝だよ」
いつもと違い目覚ましではなく少年の声に起こされけだるい体を起こす。ふと鼻においしそうなにおいが届く。
「一応、朝ご飯は作っておいたよ。あ、それと未悠ちゃんはもう幼稚園に行ったから」
「うそ、今何時?」
「9時を回ったところかな」
思わずベッドに倒れ込む。今まで一度もなかったことだ。いくら何でも冗談じゃない、こんなことって…………。
「なんで頭抱えてのたうち回ってるの?」
そう言われ私は少年を見て彼の格好に目を留める。
「その格好は?」
「エプロンだけど?」
そう言ってくるりと回ってみせる。その仕草が少年に似合って見えるのは何故だろう。
「勝手に借りて使ってたんだけど…………」
そこで唐突に少年の顔が曇る。そして彼はおずおずと口を開く。
「もしかして郁未……」
「何?」
「裸エプロンの方がよかった?」
一瞬の沈黙。そして……。
「アホかぁぁぁぁ!!!」
朝の団地に私のつっこみが響き渡った。


「でもどうして? あなたは死んだんじゃなかったの?」
朝食の後、私は昔していたのと同じように彼に質問する。
「いきなりだねぇ」
食器を洗いつつ少年は昔と同じように答える。その物腰から何もかも昔のままだ。
「昨日はあんなに素直でかわいかったのに……」

ごつっ!

「郁未、湯飲み茶碗は痛いよ」
「答えて」
「昨日と同じように情熱的だねぇ」
そう言った少年の頬を一筋の汗が伝っていく。
「答えてくれるわね?」
「答えるから包丁をどけてくれないかな?」
しぶしぶ私は少年の首筋から包丁をどけて、少年と向かい合って座る。ふと昔の崩壊した手作りテーブルのことを思い出す。
彼はしばし思案していたがやがてその口を開いた。
「何から話そうかな………。そうだな、まずは僕たちの一族がどうなったかだね」
「そう言えばあなたにも仲間がいたわね」
「僕も湧いて出てきたわけじゃないからね。ま、簡単に言うと君たちのおかげで僕たちは足枷から解放されたんだ。」
彼らの足枷、私がFARGOの施設の地下で見た広大な花畑がそうだったのかそこにあった他のモノなのか。
それはわからないが私たちのおかげとはどういう意味だろう?
「まあ、地下のあの場所にあったものは一種の増幅装置に近い性質を持っていたんだ」
「?」
「君はあの老人に会ったんだろう?」
「あの車椅子の?」
「君が倒したあの老人がFARGOの教主、最高権力者だ。地下のあの場所で彼の力を増幅し、それを僕たちの足枷にしていたんだ」
「教主がいなければ増幅装置も意味がないし、足枷も消えてしまったわけね」
そう自分で言ってしまってからふと疑問を抱く。
「じゃあ、あの『赤い月』はなんなの?」
「それは何のことだい? ま、とりあえず話を進めるよ。FARGOはあの教主を失い急速に勢力を落とすことになった」
それは私も知ってた。いつの間にかFARGOは人々の記憶から遠いものとなっていた。『不可視の力』を持つ能力者もいつの間にか姿を消していた。
「僕らの一族も今までのことがあるからすぐに復讐した。FARGOの中枢にいた人間はほぼ全滅させたらしい」
「すごいことするわね」
「まあね。でも、途中で手痛い反撃にあったらしいんだ」
「でも、誰に? FARGOは組織としての力の殆どを失っていたんでしょう?」
「君が倒したはずの教主さ」
それこそ冗談にしか聞こえないようなことをさらりと言う。
「でも、教主が倒されたからって」
「確かに死んだはずだったんだ。でも、事実、教主の反撃で仲間の半数が死んだらしい」

ピンポーン。

いきなりベルが鳴る。私はあわてて玄関へと向かいドアを開ける。
「葉子さん……どうしたの急に?」
「久しぶりです。少し伝えることがあってきました」
とりあえず玄関で話し込むのも何なので葉子さんに上がってもらう。
「ま、とりあえず上がって」
「………………」
返事がなかった。葉子さんの方をむくと今にも斬りつけてきそうな表情をしていた。
「郁美さん……」
「どうしたの、葉子さん?」
「なんでアレがここにいるんですか?」
そう言うと彼女はいきなり不可視の力を発動させ、それを少年に向かって放つ。止める間もなかった。

バシュウゥゥゥッ!!

それに対して少年は軽く手を振りそれをかき消す。私にも力の桁が違うことが理解できた。
「ずいぶんな挨拶だね。ところで君はFARGOのことで話があってきたんじゃないのかい」
「……どうして、それを?」
「少なくとも僕は君たちの敵じゃない。大体FARGOには無理矢理協力させられていたんだし」
そう言えば葉子さんには少年の事情なんか諸々のことを説明していなかったような気がしないでもない。
「葉子さん」
「………………」
「彼は敵じゃない。味方よ」
「ついでに言うなら郁未の恋人でもあるね」

ぱかーーーん!!

「なんか朝から叩かれてばかりいるような気がするなぁ」
「あんたがいらんことばっかり言うからでしょうがっ!!」
「郁未さん………とりあえずスリッパを置いたらどうですか?」
葉子さんに言われてあわててそれを葉子さんの前にそろえておく。葉子さんはスリッパを履くと真っ直ぐに少年の方を見据えた。
「敵じゃないんですね」
「むしろ協力したいと思っているんだけど?」
「本当ですか?」
「君が敵じゃないならね?」
葉子さんは少しだけ微笑んだ……ように見えた。
「……わかりました。とりあえず用件を話します」
彼女はそう言うとさっさとテーブルにつく。仕方なく私も同じようにテーブルにつく。当然最初に口を開いたのは葉子さんだった。
「最初に私の用件から伝えておきます。郁美さん、FARGOが何か計画しているようです」
「は?」
あまりにも唐突すぎて聞き返してしまう。話が見える見えないどころの騒ぎではない。葉子さんは一枚の古い写真をテーブルの上に置く。
男の子に女の子。兄弟だろう。そしてその母親らしき人物が写っている。
「この女性……ずいぶん前にFARGOに入信したそうですが。その女性の妹、小坂由起子さんから依頼を受けたんです。姉の生死の確認、生きている場合には救出するように、と」
「それで、その女性のこと調べてみたの?」
「ええ、でも調べてみるとこれが少し事情が違ったんです」
そう言ってプリントアウトされた用紙を幾枚か、それに隠し撮りされたと思われる写真を取り出す。その写真には幾分年をとってはいたがその前の写真と同じ女性が写っていた。
「小坂さんの話ではFARGOに入信した、ということだけわかっていましたが、違いました」
「どう、違ったの?」
「彼女は今のFARGOの全て掌握し動かしている人間です。同時に……」
「同時に『不可視の力』計画に似たものを幾つか進めている人間、てことだろ」
葉子さんは少年の言葉に沈痛な面持ちでうなずく。
「FARGOはもうすでに能力を操る者を創り出したようです。ただ彼らの計画で理解できないものがあるんです」
そう言ってテーブルの上の資料らしきものをこちらによこす。


『Project Eternal』


「えっと、プロジェクト……?」
「プロジェクト エターナル。永遠計画とでも訳すんでしょう」
「でも、どういうことだい? 不老不死の計画なのかい、これって」
問われて葉子さんは首を振る。続いて彼女が言った言葉はふざけているとしか思えなかった。

「この世界を捨てるための計画だそうです」




空虚だった。

強くなればなるほど、何故か心は空虚になっていた。

だから自分の身をわざと危険な場所においたりもした。

でも、オレは強くなんかなかった。


弱かったんだ。


女の子一人も守ることもできずに、俺は……。

俺はただ祈ることしかできなかった。

彼女が助かることだけを。




「システム、起動します」
私の研究結果の一つだった。求めてやまない夢を追いかける私を愚者と言うのだろう。
「チェック、異常なし」
「続けて」
私の出した答えの一つ。人生の半分はこれに費やしているが、私は楽しかった、充実していた、していたはずなのだ。
もしも人が聞けば荒唐無稽な話し、そして間違いなくこれはオーバーテクノロジーであり、また人の望む夢の一つだ。
「幼体の構築期間が終わっていますが、いかがなさいますか?」
「そうね、仕上げに入ってちょうだい。あとはまかせたわ」
けだるい体を起こすと寝室に向かう。少し働き過ぎなのかもしれない。確かに年齢から考えれば無理もないことだろう。
私はもうどう考えても年寄り、おばあちゃんになっているのだから。
「どうかなさったんですか?」
「……すこし疲れただけ。寝室までお願いできる?」
「はい、よろこんで」
声をかけてきた男は、たぶん巡回員だろうけど、私の手を取り案内してくれる。そして一つのドアの前で立ち止まり、
男を追い返す。中にはいるとそこには………………。
「ずいぶん調子が悪いみたいですね」
氷上がいた。彼は静かに壁に体を預けていた。
「何か用かしら?」
「例の執事、動きましたよ。そして施設にあなたの命令通りに警報を鳴らしました。それと折原浩平と里村茜はあの方に会ったようです」
「そう…………」
やっぱり思い通りに動いたか。これは冒険のゲームと同じだ。
「どうせ、あなたの言う予定調和ですか」
「違うわ」
そう言って彼の横を通り過ぎベッドに仰向けに倒れ込む。
「どう動いても結果は変わらないだけであって、予定調和ではないわ」
「しかしあの執事が動かなければ…………」
「時間はかかるけど別の人間が動くのよ。なんのために小坂由起子に電話をしたと思ってるの?」
当然ながら、彼はそれだけの言葉で理解したようだった。
「彼女たち、天沢郁未、鹿沼葉子、巳間晴香、でなければ『不可視の力』を持つ者達が動くわけですか」
「小坂由起子は鹿沼葉子につながりがあるし、当然、彼女から天沢、巳間の二人にも」
「同じく足枷が消え能力を取り戻した『不可視の力』を持つ者達はFARGOへの復讐を画策する」
しかし彼の顔をはそこで曇る。言葉などいらない。私には彼の胸中などわかっている。
「私たちは彼ら全てを殲滅することはできるから、問題なんてないわ」
「しかし…………」
「あなたは知らないでしょうけど、能力者はだいぶ創ることができたわ。それに……」

「『ねずの木』は完成したわ」

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やっと5本目。
「んあーー。わかりづらいな」
わかってますって。これからバラバラだったのを一つにまとめていくんです。
「で、私の出番はあるのか?」
ないです。(きっぱり)
「………………」
だって、出しにくいじゃないですか。明らかにギャグキャラだし。
「……ギャグ、か」
さて、感想ありがとうございました。いつも身に染みる思いで読ませていただいてます。
「んあ、謎な部分はこれから少しづつ明らかになるそうだ」
では、また次回お会いしましょう。

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