はぐれ3匹【FARGO編】 投稿者: YOSHI
はぐれ3匹【FARGO編】〜その3〜



大学の図書館は実に本が多い。しかも文字ばっかりの本だ。読もう、と思えるものはなかなかない。
もとより読む気もないが……。そしていまオレは……茜と一緒に座っていた。うーーーーーん、暇だ。
じつに暇だ。本当にオレは退屈していた。何しろ本日三つ目ののレポート書きである。飽きて当然だ。
「茜、なんかして遊ぼう」
「嫌です」

カリカリカリ…………。

しばらくレポート用紙とシャ−プペンのこすれる音が響く。
「………………」
「…………」
「………………」
「浩平、そんな目で見なくても……」
心底嫌そうに茜がつぶやく。
「暇なんだ」
「わかってます」
「暇なんだ」
「……レポートがあります」
「暇なんだ」
「………………」
「暇なんだ」
「……………………」
ため息をつきつつ茜が立ち上がる。オレは勝利の味をかみしめながら立ち上がる。
「よし、出かけるぞ」
「浩平、本気ですか?」
「当然」
「じゃあ、とりあえず、山葉堂に行きましょう」
時が止まる。スタープラチナか世界が能力を使ったようだ。そして時は動き出す。
「行かないんですか?」
「あそこに行くということは……」
「もちろん、そうです」
何故か背中に炎を背負い答える茜。オレは仕方のない、といった顔をして荷物を担ぎ直す。
「………………」
そのとき何気なく周りを見るとこちらを見ている男と目が合う。見たこともない奴だった。
「行かないんですか?」
「いや、行くぞ……」
「行こ……」
茜が先に立って歩き出す。オレはもう一度男の顔を確認しようとしたが、もうすでに男はいなかった。
「なんなんだ?」
「浩平ー」
茜の呼び声に答えオレも出口に向かって歩き出す。そしてオレはもうその男のことを忘れていた。



「報告に戻りました」
頭を深々と下げる高槻。女はそれを見て笑う。
「礼儀正しくなったわね」
「そんなことはありません。感謝の気持ちを込めてやっているだけです」
そう言いつつファイルを取り出し読みはじめる。
「現在、折原浩平にはなんの問題も起きていません。ただ、普通の生活を送っているようです」
「そう……ご苦労様。体の調子はどうなの」
「いえ、折原浩平は病気もせずに……」
「あなたのよ、あなたの体調」
女はそう言って手招きする。近づくと行っても数歩ほどだが歩み寄る高槻。
「義手も義足も問題ありません。すこぶる快調です」
「見た目は普通の手足とほとんど代わらないけど……不便?」
「いえ、お祖母様……」
言ってから慌てて口を押さえる高槻。その慌てる様を見て女はそっと高槻の髪を撫でる。
「いいのよ、どうせ他に誰もいないんだし」
「しかし……」
「私がいいと言ってるの」
「はい……」
子供のようにうなだれる高槻。その頭をなで続ける女が口を開く。
「若いうちはね、礼儀だのなんだのといってこだわるけど、年をとるとそんなものが煩わし感じてくるものなの」
「そんな……十分お若いです」
女の手を取りくちづけをする。
「ふふ……ありがとう」
「……お祖母様ッ!」
いきなり女の胸に顔をうずめる高槻。
「あらあら、いきなりどうしたの?」
「もう、ボクにはお祖母様しかいないんです! パパもママも、もういない!」
「安心していいのよ」
「だから、だから……」
「私はあなたを認めてあげてるわ。あなただけ残していったりもしない」
「ボクは……」
「愛してるわ」
しかし、言葉とは裏腹に高槻からは見えない女の顔は蔑みをあらわにしていた。



私、小坂由起子はある喫茶店で一人の女性と会っていた。
「鬼」
「…………」
「悪魔」
「…………」
「未婚の○○歳」
「……死にたい?」
「冗談です」
彼女は楽しそうに笑うとピラフをまた一口、口の中に押し込んだ。時間は夕方、夕食には早過ぎると思うのだが。
「……だけど、断れないとわかっていて頼むのは卑怯です」
確かに、彼女の非難の視線は正直痛くてたまらない。
「でも、話しは聞いてくれるんでしょう」
彼女は大きくため息をつく。
「たしかに、あのとき雇ってもらえなければ私もどうなっていたかわかりませんし……」
「………………」
「仕事で失敗したときもフォローまでしていただきました」
「………………」
「おかげで今では一人前に仕事ができるようになりました」
「そういえば人様の会社から仕事を奪っていったこともあったわね」
「神の意志、と言うやつです」
私の負けだ。こいつには勝てる気がしない。
「冗談はこれくらいにして、私に頼むということは『FARGO』関連ですね」
彼女の顔がいきなり真剣に、と言うより冷たくなる。私は彼女がFARGOに関わっていたことを知っている。
そしてこの話を断れないことも。私は罪悪感を覚えつつも説明する。彼女は眉一つ動かさず私の話を聞き終えた。
「……あなたに頼むべきじゃないのかもしれないけど」
「いえ」
いつの間にか彼女はピラフを食べてしまっていた。
「一応聞いておきます。報酬は?」
「危険手当付き百万。でも、怪我なんかした場合は私が費用を全面負担するわ」
彼女はしばし思案していたようだった。そしてため息をつき立ち上がる。
「……わかりました。でも、私一人では無理です。協力者が必要です。かまいませんか?」
「そう言うことはあなたに任せるわ」
「では……勘定はお任せします」
「え?」
あわてて引き止めようとするが彼女はさっさと店を出てしまっていた。私は仕方なしに伝票を持って立ち上がる。
彼女の名前は鹿沼葉子。元FARGOの信者で不可視の力を操る女性。そして信頼できる人物だ。
「8800円になります」
あの女は…………。私は震える手で勘定を済ませると会社に向かう。仕事をしていないと落ち着かないのだ。
混乱しているとき迷っているとき、私は仕事をいつも以上に精力的にやる。楽だからだ。
他のこと全てを忘れておくことができるからだ。これが私の……逃げ方であるとは知っているのだが。
私はそんなことを考えてるうちに雑踏がうっと惜しくなってきたので近道を使うことにした。
『公園抜け』と呼んでいるが、早い話し公園を迂回しないで突っ切っていくことだ。
「……っ……!!」
「………………」
公園の入り口にさしかかったとき声が聞こえた気がしてそっと隠れて覗いてみる。若いカップルである。
ここから遠いせいで話の内容までは聞こえないが、どうやら別れ話のようである。
ちなみに私はこういうことは好きではない。見るなら堂々と見る、が信条だ。
しかし私はその二人に面識があった。だから気になってこっそり覗いていたのだが、決着がついたようだった。
男の方が女の子に背を向け公園からたちさってゆく。いや、夕日に向かって走っていったというべきか。青春だ。
私は一人残された女の子の方に近づいてゆく。
「お久しぶり」
「あ……」
彼女、長森さんは見ていておもしろくらいにあわてる。真っ赤になってわたわたと手を振り回す。
「座らない?」
「は、はいっ」
私は彼女と共にベンチに座る。座ったことでいくぶん落ち着いたようだった。
「……見てたんですか?」
「ええ」
やはり気づかれたようだ。いくら何でもタイミングが良すぎただろうか。
「恥ずかしいですね……ホントに」
「…………」
痛々しげな笑みを浮かべる彼女。
「長森さん……なんで住井くんと別れたの?」
「それは…………」
「聞いてるのは興味本位よ。答えなくてもいいわ」
「…………」
彼女は下を向いてしまう。
「ただね…………誰かに話してしまえばいろいろと考えることもできると思うの」
「………………」
「楽にもなれるわ。ちがう?」
そして彼女はゆっくりと、本当にゆっくりと話し始めた。




しつこい、いい加減しつこい。俺達はおそらく同じことを考えていただろう。
「いいかぁ南森ぃぃ、男とぉ女の仲はだなぁ、わからんもんなんだぞぉーー……」
「いい加減のむな住井。死ぬぞ」
「そうよ、さすがに住井くんでも死ぬわ」
俺と七瀬さんは壊れたように飲み続ける住井を止めようと必死だった。
「なにをぉ? 酒に呑まれても酒を飲むぅ♪」
忘れていた。酔っぱらいには正常な論理は通じない。俺と七瀬さんは顔を見合わせる。俗に言うアイコンタクトというやつだ。
「住井」
「住井くん」
「ういぃぃっ???」

ごずっ!! がつっ!!

「さすがにこめかみへの肘と」
「延髄への木刀では起きれないわね。普通の人間だったら」
普通でなくとも撃沈すると思うが、あえてそれはいわない。小さく痙攣しながら転がる住井。
「でも、こいつは確定だな……」
「なにが?」
「いや、なんでもない」
なにも男に限ったことではないが、こういう酔いかたをするのは…………。
「……もうこんな時間だな。送ってく」
「うんっ」
……人生の敗北を感じた瞬間………ひらたくいえば失恋だ。まさか、とは思っていたが。
俺と七瀬さんは気絶している住井をおいたまま部屋を出る。
「月が綺麗ね」
「ああ。三日月だけどな」
そう言ってふたりで空を見上げる。綺麗な星空……明日は晴天になるだろう。
「それにしても、残念だったなぁ」
「なにが?」
「せっかく南森くんの誕生日を祝ってあげようと思ったのに」
「………………」
「もしかして、自分の誕生日を忘れてたんじゃないでしょうね?」
「いや、覚えてた」
うそだ。思いっきり忘れていた。七瀬さんがうちに来たとき、俺は彼女がなにをしに来たのかわからなかったが、なるほどありがたい。
「じゃあ、何かくれるのか?」
「わ・た・し(はあと)」

がつっっ!!

「ちょっと、大丈夫?」
「いや、電柱に傷はない」
「あんたの心配してるのよっ、わたしはっ!!」
さすがに今さっきの言葉は俺の心を驚かせるのに十分だった。俺は思わず電柱に思いっきりぶつかっていた。
「冗談だよな? いまの」
「もちろん冗談よ。二人でどっかに遊びに行かない?」
「二人で?」
七瀬さんにこういう誘い方をされたのは初めてだった。大体はみんなで、とかだったのだ。
「いや、その……あんたがいいって言うんだったら…………」
目を逸らすあたりが子供っぽいと言うかかわいらしいと思うのだが、そういうことは決して口には出さない。
「いいぜ、どっか行こう」
「ほんと?」
「ああ」
俺は目を輝かせて聞き返す彼女に返事をする。そして、足を止め七瀬さんを下がらせる。
「出てこいよ。それで隠れてるつもりなら……俺をなめすぎてないか?」
その言葉に応え路地から一人の男が姿を現す。黒ずくめの動きやすい服装。しかし何よりもそのぎらついた目が一般人と大いに異なっていた。
男はじっと真っ直ぐにこちらを見てくる。
「南森に七瀬だな」
「………………」
「………………」
「そうか。私怨はないが死んでもらう」
抑揚のない声で男が言うと同時にに動く。その手が動きつぶてを放ち、俺はそれを右に半歩動いてかわす。
「はぁっ!!」
鞭のような蹴りが頬をかすめざっくりと皮膚を切り裂く。靴にエッジでも仕込んでいるのだろう。
「はっ!!」
攻撃の後には必ず隙ができる。俺は空手で言う所の下突きを放つ、しかし男は俺の予想もしないことをしてきた。
「…………ふ」
俺の打った下突きを上からえぐり込んで水月に拳をたたき込む。中国の武術の一つ形意拳でいうところの崩拳だ。
「…………っっ!!!」
声もなく後ずさる俺。膝をつかなかったのは奇跡とも言えるだろう。だが、かなり足にきている。
膝が笑いそうになる。しかし男は俺にとどめをさしに来なかった。
「死に急ぐか……」
七瀬さんが近くに転がっていた鉄パイプをかまえて男と対峙していた。
「……あたしが相手をするわ」
「そうか。じゃあ……死ね」
そして、空気が動く。

ばぁぁんっ!!!

そして………………。
「……卑怯だな」
男はわずかに怒気を含んだ目で俺の方を見て言う。そう、あの一瞬俺は男にナイフを投げつけた。
「卑怯でけっこうだ」
「そうか」

からん。

七瀬さんの持っていた鉄パイプの先が切断されて地面に落ちる。そして、七瀬さんが崩れ落ちる。
「……まあいい」
「くっ………!」
今すぐにでも俺は七瀬さんの所に行きたかったが、いま男に動かれれば厄介だ。七瀬さんを人質にでも取られたらそれこそ打つ手はない。
「今日の所はひこう。だがいずれ、殺す……」
男はそう言うときびすを返して闇にその姿を消す。俺は男が消えたのを確認して七瀬さんに駆け寄る。ぐったりとした彼女を抱き起こす。
「おいっ!! しっかり…………」
抱き上げた手にドロリとした嫌な感触が伝わってくる。そして濃厚な鉄のにおい。そして、それが意味するところはただ一つ。
「うあ………うああぁぁぁぁぁっ!!!」

俺の叫び声は漆黒の闇の中へと吸い込まれていった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
うーん、暗すぎッ。
南「でも、趣味だよな、これ」
ああ。大体オレが魔界医師だとか陰陽師とかに引き寄せられてるからなぁ。
南「でも、ここら辺はまだ準備だとかなんとか」
おうって、住井は・・・・。
南「あそこ↓」
住井「酒だ酒だぁ! 酒持ってこぉーい!!」
……そっとしておこう。彼に幸せは訪れるかどうかは未定だし。
南「感想は?」
ああっ!! 亜人形が俺の邪魔をする!!
南「アホかぁっ!! ちゃんと書けッ!!」
わかってるよ。どうにかするさ。
南「ま、いいか。では次回、はぐれ3匹【FARGO編】〜その4〜で」
お会いしましょう。感想ありがとうございました!!


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