はぐれ3匹【FARGO編】 投稿者: YOSHI
はぐれ3匹【FARGO編】〜その2〜



窓が一つもない部屋の真ん中にみさおはいた。
「みさお」
「なに? おかあさん」
無邪気な笑顔で笑いかえすみさおは絵を描いていた。真っ青な空、それと白い雲を表しているのだろうか?
みさおは画用紙にクレヨンで何かを書き続けていた。
「頼んでおいたことはおわった?」
「うんっ、おわったよ」
みさおはやっと画用紙から顔をあげる。とても楽しそうだ。
「そう、みさおはいい子ね」
「うんっ」
勢いよくうなずく。それだけ答えてしまうとまた画用紙に顔を戻す。私は椅子に座って眺めるでもなく見ていた。
しばらくすると絵が書き終わったようで私に向かって誇らしげに見せる。
「おかあさん、ほら、うまいでしょ?」
「みんなの絵を描いたの?」
「うん、おかあさんとわたしとおにいちゃん」
そこでいきなりみさおは下を向いた。
「どうしたの?」
「うん……はやくお兄ちゃんに会いたいなぁって」
私は一瞬言葉に詰まる。この子はこの子なりに考えているのだと実感する。
「大丈夫よ。すぐに会えるわ」
「ほんとに?」
「おかあさんはウソついたりしないわよ」
にっこりと笑いかける。みさおの機嫌は直ったようだ。うれしそうに笑っている。


その笑顔は最高の笑顔だった。





白い砂浜、打ち寄せる波。そして彼はそこにいた。
『久しぶりだね。郁未、元気だった?』
少年は私に笑いかける。これは夢だとわかっているのに、私はひどく寂しい気分におそわれる。
『食べないのかい?』
場面はいきなりあの部屋へ変わる。あの不格好な彼の手作りのテーブルと椅子。わたしは彼と向かい合って座っている。
『食欲がなくても少しでも食べておいた方がいいよ』
少年の優しさはすごくあたたかいものだった。
『郁未、またこんなところに来ているのかい?』
牢屋の格子越しに両腕を失った少年が怒ったように言う。
『君はやるべきことはやったんだ』
そう、でもあなたを救えなかった。結果的にFARGOをつぶすことはできたけど。
『結果は変わらないよ。未来は変わるけどね』
私は、あなたにいて欲しかった。
『大丈夫だよ』
彼は両腕を失ってなお笑顔を見せた。そして、白いブラインドが目の前に降りてきた…………。


「……おかあさん〜〜」
「う……ん?」
私は目を開ける。目の前には未悠がいた。
「もう、ばんごはんのじかんだよ」
「うん、ちょっと待っててね」
私は体を起こすとタンスの上を見やる。そこにはぼろぼろのうさぎのぬいぐるみとそして一枚の写真。
「…………………………」
葉子さんが手に入れてくれた一枚の写真のなかであいつはほほえみもせずに静かにそこにいた。
「さ、夕食の準備しよっと」
とりあえずは目の前にあることを片づければいい。
ふかしたジャガイモをつぶし、ハムを切って入れ、水にさらしたタマネギ、そして、キュウリと、
夕食のメニューのポテトサラダをを作り上げていく。
「…………………………」
また、私は違和感を覚える。それがなんなのかはわからない。
「そうか……」
しばらくぼーっと立ってみて私はやっと思い当たる。
「マヨネーズがなかった……って、もうっ」
マヨネーズが入っていないポテトサラダはシートのない車と同じだ。はぁ、なにやってるのかな私。
仕方なしに財布をとって近くのコンビニまで行くことにする。
「未悠、お留守番お願いね」
「は〜い」
未悠は六歳になる。来年からは小学校だ。そして、もう7年の年月が……。
私があのFARGOで全てのことを終わらせてから七年の年月が立っている。あいつ、名前も知らなかったあの少年が死んでから7年もたったのだ。

そして、未悠は私とあいつの子だ。

未悠が生まれる前、泣いていた私に葉子さんは言った。
『でも、それが現実です。死人は死人、生者は生者。その領域は接することはあっても交わることはありません』
私を慰めるためか勇気づけるために言ってくれた言葉。彼女だけじゃない、晴香も由衣も、みんながいてくれたから、私はここにあることができるのだと思える。
そう、なによりも未悠がいたから今までやってこれたのだと思う。
「……あれ?」
私はふっと気づくと見知らぬ場所にいた。私はコンビニに向かっていたはずなのに目の前は壁だ。
「………………」
一瞬、忘我の淵に立たされる。そしてゆっくりと後ろを振り向く。そして後方には…………。
「通りすぎていたわけね」
そして後方には白く輝くコンビニの明かりが見えた。馬鹿馬鹿しい。つまらない考え事をしているからだ。
さっさと買い物を済ませてうちに戻ろう。そう思って私はコンビニの方向に歩を進めた。


「……はぁっ」
私はため息をつき重くなった買い物袋を抱え直す。ついつい、必要そうにもないものにまで手が伸びてしまい時間を食ってしまった。
これは悪いくせの一つだ。直さなくては、とは思うのだがそう思って直るならくせではない。
マンションの鍵をとりだし、ドアを開けると笑い声が聞こえてきた。
「ただいま、未悠」
「おかえり、おかあさん」
「お帰り。遅かったね」
そこにいたのは未悠だけではなかった。
「おかあさん、どうしたの?」
これが嘘ならばあまりにも幸せな嘘。
「久しぶり、郁未。元気だった?」
なら、嘘でもかまわない。
「おかあさん、ないてるの?」
永遠に嘘の中で生きてくことになっても。
「ただいま。遅くなったよ、郁未」
少年の少しだけはにかんだ笑顔。それがそこにあったから。
「…………ば……」
「ば?」
私はは少年に近づく。そして、思いっきり抱きつく。
「郁未?」
「馬……鹿……遅すぎ……るわよ……」
涙のせいで声にならない。少年の手がそっと私の頭を撫でる。私は我慢できずに思いっきり泣き出していた。



スーツ姿の男と着物姿の女が郁未のいるマンションを見上げていた。男は頭をかく。
「あまかったな」
そう言って苦笑する。
「でも、長老は恩返しの意味も込めて、とおっしゃってたでしょう?」
「彼女が足枷をはずして私らの一族を救ってくれたという意味では、恩ということになるな」
「ですけど…………」
男はそれから先、女の言おうとした言葉を先に言う。
「あいつを数年がかりで復活させたのは盤の上の駒にするためだからな」
「天沢郁未には多少悪いことをしましたね」
二人はマンションに背を向け連れだって歩き出す。
「仕方ない。時の証人、最なる者、FARGO教主……呼び名はちがうが……やつが動き出したからな」
「ですが……彼は倒されたのではなかったのですか? 天沢郁未によって」
男は唇の端だけを器用に持ち上げ笑う。
「あれは死なんよ。20年前にも我らは奴を一度殺したはずなのだ」
「では……あれは不死の存在になっているのですか?」
「そういうわけではない」
「しかし、幾度となく彼は死んでいるのではないのですか?」
男は煙草に火をつけ、紫の煙を吐き出す。
「あれが生まれたのは90年前のことらしい、はっきりとはしていないが。そして、その傍らには必ずある者がいたんだよ」
「ある者、ですか?」
「我らが30年前に出会ったときはわずかな時間だが味方をしてくれた者だ。しかし今や……」

「しかし今やあの者は我らの敵だ」




「どうかした?」

優しいあなたはいつも私を心配してくれる。でも、それはとても苦しいこと。

そう、私は自分が嘘つきだと気づかないふりをしていた。

そうすればするほど心が痛い。

優しさは刃となり私を切り裂く。

鏡に映る私が私をののしってくるようだった。

あなたは嘘つきだ、と。

そう、いつまでも幸せなはずの日常は苦痛でしかなくて…………。

いや、永遠の幸せなんてどこにもなかったのかもしれない。

永遠なんてなかった。

どこにもそんなものはなかったはずなのに。

でも、この日常を終わらせることができるのだ、わたしは。

嘘つきの私とさよならして、本当の気持ちを……。

それで傷つくことになっても。


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住居なしッ!! 〜後書き〜

学校直営の寮には入れなくなったYOSHIです。
住井「さぁっ!! めくるめく下宿の世界へと!!」
うるさい。では、作品解説!!

−作品解説−
住井「まず少年の復活だな」
うむ。MOONをやって思ったんだがな、郁未さんには幸せになっていただきたいと。(^-^)
住井「晴香さんなんかは?」
いや、別に。なんか自分で幸せ見つけそうな感じだったし。
住井「スーツ姿の男と着物の女は?」
オリキャラですがな。多分もう二度と出ない。(^-^;
住井「出ないのか?」
本当は出したくなかったんだけどな。伏線張りと解説をかねて出したのだ。
住井「で最後のわけわからん段落はなんなんだ?」
さあ?( ̄ー ̄)ニヤリッ
住井「それは次回のお楽しみって奴か」
うむ。
住井「では、また次回!!」
さよおならーー!!

99,02,23