はぐれ3匹【FARGO編】 投稿者: YOSHI
はぐれ3匹【FARGO編】〜その1〜


あの降り続ける冷たい雨の中で、ぼくは彼女と出会ったんだ。

『それでもぼくは彼女との出会いを』


「誰?」


『とても幸せな出来事だったって思うんだ』


「クラスメートの名前くらい覚えとけよ」


『とても強く……思うんだ』


「同じクラスの折原だ」


『あんなであいかただったのに?』
『あんな出会い方だったから、そう、思えるんだ』
『…………もう、わたしはいなくていいんだね』
『ああ、もう……ぼくは決めたんだ』
『ずるいよ……。そんなわらいかたしてたら……とめられないよ』
『ごめんな、みさお』
『やっとおもいだしたんだね。わたしのなまえ』
『ああ。お前はみさおで、みずかじゃない』
『そうだよ。……じゃあおわかれだね。もう、あえないだろうけど』
『ああ、お別れだな……』
『おにいちゃん……わらっていてね。ずっと……あのひとと』
『みさお……』
『わたしはいつも……そばにいるから。このせかいといっしょに』
『みさお。永遠は………』
『………あるよ。ここにあるよ』


世界は闇へ。


最初に感じたのはにおいだった。空気のにおい、そして光が目を貫く。
「……………………」
オレは静かに目を開ける。うーん、まぶしい……というか痛い。体を起こしてみると節々が痛い。
ぐっ、と伸びをする。そしてオレは公園に向かって、茜の所に走り出した。







「浩平、起きてください」
「うーー、あと三年寝かせてくれーー」
「お腹が空きます」
それもそうだ。その言葉に納得して、オレは目を開け体を起こす。しかし、そこは自分の部屋……ではなかった。
「うわっ?! なぜ見知らぬ美少女がこんな所に?」
「……浩平。それも前に一度やりました」
「うーむ、やっぱり茜には同じネタは二度とは通用しないか……」
しぶしぶオレは体を起こす。茜は時計を見せながら言う。
「浩平。もう、講義が始まります」
「くっ……中庭の昼寝タイムは終了か」
「浩平、急がないと間に合いません」
「じゃ、行くか」
オレは枕代わりにしていたバッグをかつぎ、茜と肩を並べて講義へ向かった。
季節は初夏。永遠の世界から戻ってきて、数ヶ月後のことだった。


日々繰り返す幸せな日常。本当にたいしたことがないことも、なにもかもが。

オレが選んだ、みさおとの盟約を捨て戻ってきた、この世界。

やる気がおきなかった勉強も、抜けるような青空にも、そして……。

「浩平、急がないと講義に遅れます」
「ああ」

そして、茜がいなければこの幸せも色あせていただろう。

オレは目の前は走ってゆく彼女の背中に聞こえないようにつぶやく。

「ありがとう」

と。ふと空を見上げる。なぜか、初夏の日差しが妙にまぶしかった。






わたしの名前は渡辺茂雄、教師だ。教育に携わって十数年がたっている。

だから、学校というシステムの欠陥、癒着、混乱、事件、様々なできごとを知っているつもりなんだがなぁ。

しかし、わたしの人生の中で大きな異常事態が発生したんだよ。予測もできないことだったんでなぁ。

しゅぼっ。

んあ、こいつか? 最近は先生も健康に不安を感じるのでタール1ミリ以下のものを選んで吸っているのは、

実はここだけの秘密なんだがな。ああ、話がそれてしまったな。折原浩平のことだな。

んあー……平たく言えば彼のことをみんなが忘れてしまうという事態が起きたんだな。

そう、親類からクラスメイト、果ては先生も忘れてしまっていたんだ。

冗談じゃないのかって? いや、折原の机とかも全部片づけさせたからな。本当に忘れてしまっていたんだなぁ。

不思議じゃなかったのかって? 不思議だよ。でも、まぁ人間は不思議なことには慣れてしまうものなんだ。

そのうち、不思議に思っていたことすら忘れていたからなぁ。

でもあいつは今はいるじゃないかって? ああ、折原は戻ってきたらしいんだ。

どこからかって? そこまでは知らんなぁ。とにかくその直前……折原が戻ってくる前に、みんなも折原のことを思いだしたんだ。

まったく……困ってもんだよ。一年間きていないんだから当然留年の扱いになるはずだな? 普通は。

そう、そうなんだなぁ。今は折原は大学に行っている。卒業できただけじゃなく大学入試試験も無しにだな。

どうしてかって? まあ、上からの圧力という奴だな。出所までは正確にはわからんが。

どうした? そんなに怖い顔をして。

おい……どうしたんだ?




「あなたは何故にそこまでするんですか?」
そう言われても彼女はすぐには返答しては来なかった。いつものことだが、いらだたしい。
やがて、彼女は静かに腰掛けていた椅子から立ち上がり、その唇が言葉を紡ぎだす。
「氷上くん。わたしの求めているものがわかる?」
「あの人が望むものすべて、でしょう」
「そう……よくできました」
僕はささくれだった気持ちを落ち着けるために、ソファに座り込む。
「彼に死すら与えないつもりですか」
「あの人は死ぬことなんか望んでいないの」
「だからといって……」
「『能力』の種をまいたのは私たち。回収する権利はあるわ」
「だからといって『折原浩平』を卒業させたり進学させる必要などなかったでしょう」
僕の言葉に彼女はわずかに微笑む。その笑顔を見ると僕は何か落ちつかない気分になる。
まるで、失敗している自分を親に笑われているようなどことなくかゆい気分になるのだ。
「わたしは…………永遠を求めているの」
「それは聞きました」
僕のせめてもの口答えも、けっして彼女に届くことはない。
「そのためには彼がこの世界を否定する必要があるの」
その目にはなにも写っておらず、まるで硝子玉のような冷たさを感じることもよくある。
「彼にとっての最高の幸福……そしてそれが壊されたとき」
彼女はさもおかしそうにくつくつと笑う。
「最高の悲しさ、苦しさが彼を包み込むのよ」
体をくの字に折り曲げて笑う彼女は……すでに正気を失っているように……少なくとも僕はそう思った。
「彼が一番苦しむような……宴の支度は済んでいるの。あとは……」
彼女は僕に……壊れた笑顔を向けた。
「あとは、お客さんを待つだけ。支度が済めばあとは勝手に……お客さんは集まってくるの」
彼女は僕の頬を撫で、囁きかけてくる。
「ねえ…………楽しいでしょう? 他人が苦しむ様を見るのは」
「そんなことは…………」
僕は最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。彼女がいきなり唇を押しつけてきたせいだ。
「あなたを救ったのは、わたし。忘れてないわよね。」
僕は哀れな羽虫。死に神の招きから逃げるために蜘蛛の網にかかってもがく、ちっぽけな羽虫。
「だからわたしの思い通りに動いてもらうわよ」
でも、僕はその誘惑が甘美なものだということを知っている。そう……だから僕は……。
「…………わかりました」
だから僕はその誘惑に進んで堕ちていったんだ。




「ジャガイモ人参、タマネギちゃん♪」
さくさくッ、と材料を刻む。熱した鍋に油を注ぐ。
「牛肉お酒にしょうゆとお砂糖みりんもね♪」
肉を炒めて野菜も炒めてちょちょっと味付けして、っと。しばし待つ。その間にたまった洗い物を一気に片づける。
「あっという間に肉じゃがの出来上がり♪」
久しぶりに仕事のなかった木曜日の午後、久しぶりにわたし、小坂由起子は料理を作っていた。
一緒に暮らしている浩平はたぶん、いや間違いなくアバウトな食生活でも生き延びはするだろうが、
さすがにそれではかわいそうなので、わたしは気が向いたときにはできるだけ料理を作るようにしている。

プルルルル……プルルルル。

電話がかかってくる。仕事先の人間だったら嫌なのでしばらく……電話の前で待ってみる。

プルルルル……プルルルル……プルルルル。

25回目の呼び出し音がなったときさすがにわたしは根負けする。ここまで粘ったのだからよっぽど重要な電話だろう。

ガチャッ。

「もしもし、小坂ですが」
「…………………………」
「もしもし?」
「………………」
いたずら電話じゃないかと思い始めたとき、声が耳に届いた。何年も聞いていない、それでいて懐かしい声。
「…………由起子」
「……姉さん? 姉さんなの?」
「由起子……浩平は?」
「浩平は……大学に行っているわ。姉さん、今どこにいるの?」
でも、わたしの言葉は姉さんに届かない。
「ねえ、由起子。やっと戻ってきたの」
「なに言ってるの、姉さん。なにが戻ってきたのよ?」
「みさおよ。わたしの娘が……戻ってきたの」
わたしは愕然とした。折原みさお……姉さんの死んだはずの娘。
「姉さんッ! みさおちゃんは死んだのよ!」
「由起子……いま……みさおに代わるわよ。待ってて……」
そして……受話器から聞こえた声にわたしは気絶しそうな衝撃を受けた。
「おばちゃん、こんにちわ。おりはらみさおです」
「みさお………ちゃん……」
わたしの現実が奪われてゆく。
「わかったでしょう、由起子……みさおはここにいる」
わたしは立っていることができずに座り込む。
「また、3人で暮らせるの」
姉さんが求めていた幸せは現実のものとなった。
「みんなで一緒に暮らせるのよ」
「ね、姉さ……」
「浩平に伝えておいてね……由起子」

ぷつっ。ツー……ツー……ツー……。

電話の切れた後の音が響く。その単調な音を聞いていると頭がおかしくなりそうだった。
わたしは震える膝を無理に動かし受話器を元の場所に置く。

現実が崩壊してゆく。

死んだはずの姉さんの娘、死人がよみがえる、いや、それこそ妄想だ。
わたしの耳に自分の築いた現実が崩壊してゆく音が聞こえてきそうだった。
わたしは、本当にみさおが死んでいると確認しただろうか? みさおは死んでいたはずなのに……。
両手で肩を抱きしめる。わたしは怖かった。でも、それを冷めたい目で見つめる自分もいた。
何を怯えているの? と、滑稽な自分を笑っているのだ。

ぱぁんっ!!

思いっきり自分の顔をたたく。わたしは小坂由起子、こんなことじゃ揺らがない……揺らぎたくない。
爪が食い込むほど強く拳を握りしめる。痛みが自分の存在を実感させる。
私は受話器を取り上げると、ある番号にかける。
「……もしもし……由起子です……そう、頼みたいことがあるのよ。あなたにしかできないことなの」
明らかに彼女は困惑していた。仕方がないことだけど。
「……わかってる。でも、あなたにしか頼めないの。………ありがとう。いまから行くわ」
受話器を元に戻すと深いため息をつく。わたしはずるい。わかっていてやるのだから確信犯だ。
そして、わたしは無駄なことを……意味のないことをしているのかもしれない。
そんなことを考えながら上着をはおってのろのろと靴を履く。
「姉さんにとってはあれが幸せなのよ……」
それが嘘であっても姉さんは幸せなのだろう。わたしは間違いなく余計なことをして、姉さんの幸せを壊そうとしている。


でも、わたしは………真実を求めたかった。


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後書き


ついに来ましたはぐれ3匹【FARGO編】!!!
住井「出番がないぃぃぃい!!」
安心しろ、次は出られる。
住井「はぁ。で、MOONの人達の出番は?」
最善エンディング後、で書くつもりなんで。だいたいは出す。
住井「そういやいまごろMOONを二日でクリアしたんだっけか」
一日徹夜してなエンディング制覇した。(笑)
住井「さすがにCGは全部集まってないか」
おまけが終わらない(笑)量が多すぎ。(爆)
住井「つぎは乙女チックのおわびだな」
実は終わりじゃないみたいだった。南森を忘れていた。(爆)
住井「で、続きは出すのか?」
うーん、どうしよう。気分次第。あとはみたい方がいれば出したいなぁって。
住井「いねぇよそんなやつ」
後悔しなさぃっ!
住井「おおっ!? 月○の剣士!!」
ふぅ、正義が勝ったところで、ではまた今度お会いしましょう。

(^.^)/~~
990217