はぐれ3匹【恋愛編】 投稿者: YOSHI
はぐれ3匹【恋愛編】

乙女ッチックごーいんぐまいうぇい!〜その4〜



「……おかしいです」
その日、里村茜は学校の中で繰り広げられる異様な光景に目を奪われていた。日頃、学校という空間
が人であふれかえる、などということはありえない。強いて言えば登下校の時のみに人が一時的に増加するのだが……。
いまは人の数が減らない……と、いうかむしろ増えてきている。
「………………帰れません」
この人間の多さでは無事に昇降口にたどり着ける保証すらない。
「………………詩子か、住井くんですね。この騒ぎは」
彼女は大きなため息をつくと席に座ってぼんやりし始める。

蝉の鳴く、うららかな土曜日の放課後だった。




俺は静かに目を開ける。多少頭が痛いがたいしたことはない。繭ちゃんの
不意打ちで気を失ったそのあと、何人かの男達がやってきて俺を運んでいった。
まあ、気絶したふりをして機会を見て逃げようと思ったんだが……。
「………………」
俺は周りを見渡して嘆息する。ここは牢屋の中……俺はタイミングを逃してしまった…………。
牢屋自体は鉄格子のはまった……たぶん、一般的に牢屋といって連想するものだった。

ぎしっ。

手でつかんで揺すってみる。所々に錆の浮いているものの素手どうにかできそうなものではなかった。
窓はなく……というかどうも地下のような気がする。地下室なんかは独特のにおいがするのだ。
「おい! さっさと歩けッ!」
「ちょっ、痛っ!」
男女の声が近づいてくる………が、俺はこの声の持ち主を知っていた。
男の方は99%七瀬親衛隊の一人だ。そして、もう一人の女の方は……。
「ここに入ってろ!」
「きゃっ!」
トレードマークの髪型になぜか他校の制服。元剣道部のおそらくクラス最強の女!
「七瀬さん。なにやってんだ?」
「南森? あんた何でここにいるの?」
俺達はお互いに顔を見合わせた。



「……ッ!!!」
俺は勢いよく目を開ける。次第に目の前の像がはっきりしてくる。いまのは夢…………だったのか?

じゃら。

…………夢じゃなかった。いや……むしろこれからの状況を悪夢というのだろう。
「あ、おはよ。明義」
詩子さんはいつもと変わらない様子でほほえんでくる。
「…………なあ、今さっきの注射……何だったんだ?」
「んーー、特に人体に害はないと思うけど?」
「……もう一つ。その白衣は?」
「えっ? こういうのは嫌いなの?」
「いや、嫌いじゃなというか、むしろ好き…………」
って、何言ってんだ俺ッ! いや、嫌いじゃないんだ、もちろん。いや、そうじゃなくって……。
「あれ……?」
何なんだろう? 何となく視界がぼんやりしてくる。これは……初めて強い酒を飲んだときにそっくりだ。
でも、あのときと違うのは眠気が来ないことだった。
「効いてきたみたいね」
「……何を…………」
詩子さんは俺の近くににくると、半ばへたり込んでいる俺の顔に手を当てる。
「………………………………………………」
い、いかんっ。このままでは変な気分になってしまうっ!俺はドキドキしながら詩子さんから顔をそらす。
「わたしのこと……嫌い?」
ぐぅあ……それは、男にとって答えるのが難しい質問ベスト5っ!
「………き、嫌いじゃないよ」
結局、無難に答える俺。
「じゃあ、好きってことね」
「なぜっ?!」
あんまりといえばあんまりな強引さだ。そんなことをしているうちに、自分の体が火照ってきていることに気づく。
「詩子さん……何をした?」
「一種の媚薬ってやつね」
そこで詩子さんは突然、自分の服、つまりは白衣に手をかける。こ、これは……はだかのおつきあい?
いや、いかんっ! お父さんは許しませんよっ! って、ああっ、もうっ!

ぱさっ。

「………………………………」
この音から詩子さんの服が床に落ちた音と推測される。い、いかんっ! 目を開けてしまってはっ。
俺には、俺には茜さんというものが…………。
『目ぇ開けちまいなよ』
はっ! その声はデヴィル南!
『見たって減るもんじゃないしよーー。柚木って結構いいからだ付きだと思うがなぁーーー』
ううっ、でも……いや、ちょっとだけなら…………。
『だめだ!』
おおっ! その声はエンジェル南! 
『意中の女性がありながら、他の婦女子の裸を見るとは言語道断! やめるんだ!』
そ、そうだ! 俺には茜さんがっ!
『いつまでもお前のことを見ない女に義理立てするのか? んーーー?』
ざぐっ!! いや、俺は茜さんのことがっ……。
『高嶺のアジサイより、近くの薔薇っていうだろ?』
………………………………。
『目、開けちまいなよ』
『だめだ! 目を開けちゃだめだ!』
…………ちょっとだけなら……問題ないよな。(俺はデヴィル南の誘惑に乗った!)
そぅっ、と目を開いてみ…………。
「はぁい」
「じょ、女王様スタイル?!」
うあ…………脳裏に南森の言葉がよみがえる。

『南……柚木はお前ををMに仕立て上げようとしているとか……』

当たりかいっ! あああああああっ、もうっ! 俺のバカッ! これでムチがあったらああ!!
「……し、詩子さん」
「わたしね会ったときから思ってたんだけど」
詩子さんは俺のネクタイに手をかけて話し始める。
「明義の気の弱さや、優しいところとか、その顔とか」
ネクタイがするりとほどかれる。
「ああっ、運命の出会いだなって思ったんだ」
「あの……だったら……お、俺を解放して……」
「だめ」
迷いもなく言い放つ詩子さん。
「明義ってまだ茜のこと忘れてないし、ひきずっているから……」
それは事実だ。いや、気づかない奴はいないということぐらいわかっていたが。
「だからわたしが……。茜のこと忘れさせてあげる」
「いや……でも、俺は……」
「それから、明義の意志に関係なく、わたしの愛を受け取ってもらうわ」
「…………へ?」
なんですと? 
「どんな手を使ってもわたしのことを好きになってもらうわよ。だって……」
すっと、詩子さんの顔が近づいてくる。そして柔らかい感触が唇に伝わる。
「だって、恋する乙女は強引なのよ」



「なぁ、七瀬さん。何でハント大会主催者のはずのあんたがこんな所にいるんだ?」
「うーーん。説明すると長くなるんだけど」
「長くていいよ。どうせ暇だし、それに牢屋の中でやることがあるとも思えないし」
俺がそう言うと七瀬さんは、はうっ、とため息をもらし、ぽつりぽつりと話し始める。
「実はこの騒ぎはドッペル七瀬のせいなのよ」
「ドッペル七瀬?」
「そ、ドッペルゲンガー七瀬の略よ」
確かそれは心霊関係の本で読んだことがある。確か、見たら死んでしまう、怪我をするとかだ。
「あたしはしばらく前からドッペル七瀬に監禁されてて。その間にハント大会を仕組んだらしいのよ」
「………………ふーーん」
嘘っぽい。ものすごく嘘っぽい。別に俺は科学至上主義者でもないし、唯物論者でもないが、嘘っぽい。
「で、ドッペル七瀬の特徴は?」
「えっと……」
そのとき牢屋の横から声がかけられる。
「こんな感じだけど?」
俺はそちらをむく。なるほど……うりふたつだ。ドッペル七瀬は金髪で色黒、そして制服の色の
違いさえなければ見分けがつかないほどそっくりだった。
「なんか格ゲーの2Pキャラみたいだな」
ぴくっ、とドッペル七瀬のこめかみあたりが引きつるのが目に入る。気にしていたのかもしれない。
そのとき七瀬さんは噛みつきそうな勢いで叫ぶ。
「ドッペル七瀬! なんでこんなことするのよ!」
「なんで? おもしろいからに決まってるからよ」
「おもしろいからって、すっげーー俺は迷惑なんだが」
俺の言葉にドッペル七瀬は向き直ると言い放つ。
「違うわよ。これから迷惑はかかるのよ」
「これから?」
「そ、これから。あなた達2人だけでいるところを写真にとって学校中にばらまくのよ」
「………………まさか」
「そのまさかよ。七瀬さんと南森の愛が発覚! 男女が同じ部屋で過ごしたのに、何もなかったと思う人はいないわよ」
「まっ、待てぇーーーーー!」
しかし、ドッペル七瀬はさっさと闇の中に消えていった。ああっ! なんでこうなんだっ!
「まったく……。迷惑だな」
「迷惑なの?」
「そうだろ? 七瀬さんだって…………」
そう言いつつ俺は七瀬さんの方を見る。七瀬さんはため息をついてぽつりと言った。
「……わたしじゃだめなのかな」
「え…………?」
でも、この後七瀬さんは一言も喋らず、俺達の間に気まずい沈黙が流れる。
もう時間は夕方になっていた。

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三者面談完了!〜端書き〜
YOSHI「…………ぐーーーー」
友人H「えーーー、YOSHIは燃え尽きてしまっているので、代理としてわたくし友人Hと……」
アルバイトの住井「バイトの住井がお送りします」
H「まずはミスの反省」
住井「前回の端書きで〜その3〜でお会い……となっていましたが〜その4〜が正」
H「さてと作品解説に行きます。今回のネタは」
住井「なんとセンター試験中に考えていたネタという(笑)」
H「数学の時間にな(笑)」
住井「別に余裕があったわけじゃなく」
H「開き直ってた……って訳だな」
住井「後はこの話の中にはYOSHIの実体験が混じっているという」
H「詳しくは言わなかったけどな」
住井「どうでもいいことだと思うけど」
H「まあ、どうでもいいが。ああ、もう一つ報告しておくことがあったな」
住井「YOSHIの受験最新情報か?」
H「ああ。どうやら第一希望の大学が無理になったらしい」
住井「二次で満点とるならともかくなって、担任に言われたんだったな」
H「第二希望もあしきりの危険性が高まったらしく」
住井「結局第三志望に落ち着きそうだ、というか決定だな」
H「まあ、たしか二月の最初の方だから一週間後ぐらいか」
住井「敗因は数学と国語って言ってたな」
H「そうそう三者面談の翌日、というか今日だな。人の家に真夜中酔ったまんまでくるし。律儀にFD持ってきたし」
住井「マジか?」
H「べろんべろんだったな。見ていておもしろかったぞ。今そこでに転がってる」
住井「二日酔いだな。こりゃ」
H「でも、仕方あるまい。人間こういうこともある」
住井「で、何でおまえが端書き書いてんだ」
H「後書き書いてくれ、と言い残してこいつはねむったからな」
住井「ま、合格したかどうかはかなり早い段階でわかるな」
H「あと、えいりさん、やるいさんもがんばってください、だそうだ」
住井「それと、感想ありがとうございましたーー」
H「さすがにやばい状況なんで……感想なんかは勘弁願いたいそうだす」
住井「では、今日の所はこの辺で……」
住井&H「さよおならーーー」

99/01/28